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江戸で選ばれる「いい醤油」
千葉県富津市・宮醤油店

醤油ソムリエール黒島慶子の
日本醤油紀行
vol.007

posted:2014.4.26   from:千葉県富津市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  小豆島の「醤(ひしお)の郷」と呼ばれる地域に生まれ、蔵人を愛する醤油ソムリエールが
真心こもった醤油造りをする全国の蔵人を訪ねます。

writer's profile

Keiko Kuroshima

黒島慶子

くろしま・けいこ●醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。

わぁ、好みの醤油。すっきりとして繊細でやわらか。
野に咲く小さな花を想わせる香りと味に、心がふっと落ち着きます。
嫌な癖は一切なく、蔵を清潔にしていることがわかります。
天然醸造ならではのやわらかさと深さがありながら、色も落ち着いている。
まさに愛用したくなる濃口醤油。味わった瞬間に惹かれ、早速訪ねました。

「いいもの」を造る覚悟

宮醤油店(屋号「たまさ醤油」)があるのは、国内最大の醤油生産地である千葉県。
キッコーマン、ヤマサ、ヒゲタと、大手5社のうち3社があり、
国内醤油生産量の約35%を千葉県が占めます。その理由は地の利。
「千葉では『郷土料理』という概念で醤油を造っていません。
とにかく江戸に売る醤油を造ってきました」

そう教えてくれたのは、創業180年の宮醤油店社長・宮 敬一郎さん。
近くにある大手は戦後に機械化を進め、安定品質・安定供給・低価格の醤油を追求し、
国内全域や海外に広がっていきました。
「千葉でいまでも昔ながらの製法で仕込んでいるのは、小さな蔵のうちだけ。
昭和8年には千葉に400軒以上の醤油屋がありましたが、
いま自社で仕込んでいる蔵元は13軒です」と宮さんは話します。

約80年間で残った蔵元はたった約3%。宮醤油店さんが続いているのは、
戦前も戦後も東京の品質重視の人から選ばれ続けてきたから。

「第二次大戦後に食糧難で全国の醤油屋がアミノ酸液を使わざるを得なかったときも、
頭をひねらせて極力使わないように工夫しました。
そして『どうせ使うならばいいものを買いたい』と選ばれ、
ときには桶の中身が空になることもありましたよ。
でも、次第に材料が統制され、そもそも醤油を仕込めないときがきました。
もう、売るものがないんです。お客様を周りにとられ、どうしよう……と焦りました。
そんなとき、昭和40年代にまだ零細企業だった生協から声がかかり、
生協の販売地域やお客様が広がるにつれて、うちの醤油の販売量も増えていきました」

宮醤油では、50石(9000ℓ)の桶が25本並ぶ。

売店。宮醤油店さんでは売り上げの6割が直売。直接買いに来る新規顧客は年々増えている。

品質追求がにじみ出る仕込み蔵

仕込み蔵の中を見せてもらいました。うん、期待通り。
醤油を香ったときに感じた、すっきりとして繊細でやわらかな香りが広がります。
そして、蔵の床も桶の側面もとてもきれい。

「もろみを混ぜるときに桶の側面にもろみがついたら丁寧に削いでいきます。
これを丁寧にするのとしないのでは全然違うんです。また、足元はやっぱり不衛生。
桶の口と床の高さが揃っていると泥が桶に入って香りに出る場合があるので、
床を桶の口より低くして、入れないようにしています。
桶に住む菌も陣取り合戦なんです。うちで長年根づいた菌がいるので、
ちょっとやそっとじゃ雑菌が入りにくいのですが、仮に悪い菌が入ってしまったら、
その菌だけを取り除くのは無理なので、桶の管理が大切です」
などと、蔵中に品質を高める工夫が散りばめられていました。

さらに宮さんは
「仕込み始めて8か月から10か月のもろみを絞った醤油が、
色も香りも良くてベスト」と考えます。
“ふた夏は越したもの(約1年半)がいい”ということをよく耳にするなか、
「ふた夏も置くと、色が濃くなりすぎてしまいます。
関東では淡口醤油を持たずに濃口醤油だけ台所に置く人多いのですが
『色をつけたくないけど、旨味は欲しい』という人から好評をいただいています」
と話します。自然と大手の濃口醤油と住み分けされ、
宮醤油店の醤油は、今日も必要とされています。

桶の側面につくもろみは削ぐ。

床は桶の口より低くしている。

もろみを混ぜるときに飛び散らないよう、宮さんが考えた円盤の板。真ん中に棒を入れて混ぜる。

信頼される蔵元

宮さんの醤油を使う「かん七」へ。地元の丼「はかりめ丼」という、
穴子を出汁で煮てタレをかけた丼をいただきました。
慣れ親しんだ蒲焼きよりも、穴子のそのもの繊細な風味が広がり、
噛むほどにご飯の甘味とタレのコクと穴子の旨味が一体となって、
うまさがまとめあがっていきます。
宮さんの醤油を使っている理由を尋ねると
「代々普段から真面目に取り組んでいて、信頼しているんだよ」
と太鼓判が押されました。

宮さんは冷静で丁寧。しかし、言葉すべてが厚くて熱い。
いかなるときもいいものを造ると覚悟し、先祖代々まっすぐ懸命に
取り組み続けた軌跡が言葉からにじみ出ているのを感じます。
私の心を掴んだ香りと味も、180年間の変わらぬ姿勢から生まれたもの。
選ばれ続けるはずです。

宮醤油店の近くに位置する「かん七」の「はかりめ丼」。人情溢れるお食事処。

創業180年の宮醤油店社長・宮 敬一郎さん。

information

map

宮醤油店

住所 千葉県富津市佐貫247番地
TEL 0120-383-861(フリーダイヤル)
http://www.miyashoyu.co.jp/

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