連載
posted:2018.9.3 from:岡山県津山市 genre:旅行 / 食・グルメ
sponsored by 宝酒造
〈 この連載・企画は… 〉
「和酒を楽しもうプロジェクト」もいよいよ5年目へ。
今回から舞台をイエノミからソトノミに移し、
“酒場推薦人”の方々が、日本各地の魅力的な「ローカル酒場」をご紹介します。
writer profile
Yayoi Okazaki
岡崎弥生
おかざき・やよい●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。
credit
撮影:内田伸一郎
地元の人にこよなく愛される酒場は、まちの宝もの。
ローカル色豊かなおいしいおつまみや、ご主人とお客さんの雰囲気、店の佇まいなど、
思い出すと心がほんのり温かくなるような店を
“酒場LOVE”な案内人の方々に教えてもらいました。
旅先のソトノミガイドとしてもご活用ください。
今回訪れたのは、岡山県北部の中心都市・津山市。
津山藩時代の面影が残る趣ある城下町ですが、
いま“鉄ちゃん&テッチャン(ホルモン)”が、
静かなまちに新たな活気を呼び込んでいます。
鉄道遺産・旧津山扇形機関車庫を再生活用した
〈津山まなびの鉄道館〉が誕生して一躍人気スポットに。
さらに、“幸せホルモンあふれる旅・津山”を謳うポスターも登場。
話題のご当地グルメ、〈ホルモンうどん〉目的の観光客が増えていて、
週末には人気店に行列もできるそうです。
もともと津山は山陽と山陰を結ぶ交通の要衝。
8世紀頃にはすでに牛馬の流通拠点として賑わい、
近江牛で名高い滋賀県彦根市と同じように、
“養生喰い”(薬としての肉食)の習慣もあったそうです。
「だから津山では牛を隅々の部位まで工夫して食べますね。
いわゆる“肉の端”をおいしく食べさせる小さな店も多かった。
そんな店に鉄板があれば、誰もが最後に頼むのがホルモンうどん。
津山の人だけが知っている裏メニューでした」
あれこれと教えてくれたのは、今回の案内人。
津山ホルモンうどん研究会・会長の鈴木康正さんは、
この裏メニューでまちづくりを始めた“言い出しっぺ”で
「ホルモンうどん」については誰よりも詳しいんだとか。
そんな鈴木さんお気に入りのローカル酒場は、津山駅からかなり離れた住宅地の中。
看板や暖簾がなければ普通の家にしか見えませんが、
〈三枝(みえ)〉は鈴木さんがくつろいで飲める特別な店だそうです。
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店内に入ると大きな鉄板2枚を囲むように席が並び、
いかにも昔ながらのお好み焼き屋さんといった懐かしい雰囲気。
ただ、壁に貼られたお好み焼きメニュー以外にも、
おつまみボードにはちょっと気になる不思議な料理名が。
鉄板前に座った鈴木さんはレモンチューハイ片手に、
「ヨメナカセ、ソズリ、ホシニク」と
ご主人におつまみ3種を迷わずオーダー。
「どれも津山では昔からおなじみの酒のアテですよ。
市内なら、スーパーでも売っている地元の人の大好物。
でもこんなにモノがいいヨメナカセはなかなかないね。
見た瞬間にわかるよ、柔らかそうでピンクがかっているもの」
その鈴木さんの言葉を聞いて、ご主人の上山康裕(うえやま・やすひろ)さん、
「鈴木さんのような人がお客さんですからね。
どちらがプロで客なのか、ときどきわからなくなります」と、
ヨメナカセを焼きながら苦笑いです。
ゆっくりおつまみをいただき、鉄板越しの会話を楽しんだ鈴木さん。
お代わりが進むレモンチューハイは、
こってりと甘辛い津山ホルモンうどんにぴったりで、
地元では“津山チューハイ”と呼ばれています。
鈴木さんたち研究会メンバーの意見が反映されてつくられ、
売上の一部は津山のまちづくりに活用されているのだとか。
そろそろ最後の締めと見て取った上山さんは、
「ではホルモンうどんですね」と声をかけました。
まずはホルモンを炒めます。
研究会では国産牛のミックスホルモンを1人前80グラム以上入れること、
また厚みがあって広い大型鉄板で焼くことが
「津山ホルモンうどん」を名乗るための必須条件です。
「冷たいホルモンを置いて鉄板の温度が下がったら、どうしても脂で煮えてしまう。
表面がカリッとして、中がジューシーでないとね。
そのためにはずっと高温を保つこと、それがおいしさの秘訣。
だからここの鉄板はいいですね、乗せた瞬間ホルモンがピンク色でしょ。
もし白濁だったら、その時点でもうダメなんです」(鈴木さん)
野菜を加え、ほどよく火が通ったらうどんを載せてタレをかけます。
タレは味噌や醤油をベースとした自家製です。
「ここのホルモンうどんはちょっと甘めです。おいしいけれど。
僕自身はもう少し辛口のほうが好みかな。
ただ、味の好みは人それぞれなので、自家製なら甘めでも辛めでもいい。
どこの店も味が同じだとおもしろくないし、個性が出ない」(鈴木さん)
さらにタレを2、3度加え、麺にタレをしみこませる感覚で、
コテを素早く使って徹底的に焼きこみます。
つやつやとおいしそうな色合いに変わったら……
津山名物、ホルモンうどんの完成です。
完成したホルモンうどんを満足気に食べる鈴木さん。
一方、上山さんは、さっきの“甘い”発言が気になる様子ですが、
鈴木さんは、この甘辛味が津山のホルモンうどんの特徴だし、
お客さんに愛されているから大丈夫だと上山さんに優しく伝えます。
実は鈴木さんの本業は養蜂家。
物心ついたときから、お父さんと一緒に蜂の世話をして育ち、
九州の養蜂家に弟子入り後は日本中を回ったとか。
だから、どうしても甘みにはうるさくなるそうです。
やはり、店は店主の人柄がすべてという鈴木さん。
その反面、食に関わるまちづくりをやろうと思ったら、
味に敏感でないとやる資格がないとも言い切ります。
そして、上山さんのすごいところは
塩ダレのホルモンうどんを新たにつくったことだと鈴木さん。
その津山初の塩ダレホルモンうどんが大ヒット。
いまは店の看板メニューにもなっています。
「鈴木さんに食べてもらったときに甘さを指摘されて、
どうするか悩んだこともありました。
でもこの味がウチの味で、お客さんもこれが好きで来てくれている。
だから甘くない塩ダレをお袋(三枝子さん)と一緒に考えました。
そもそも津山のホルモンは塩で食べるとうまいんですよ。
それは津山肉処理場の職人さんたちが本物のプロフェッショナルで、
神業ともいえるスピードでキレイに処理して新鮮なホルモンを僕らに届けてくれるから。
焼くたびに鉄板を徹底的に掃除するのも、焦げた匂いをホルモンにつけないため。
塩ダレもそうですが、その熱い思いに応えたいという一念ですね」(上山さん)
夜が少しずつ深まって、そろそろ地元のお客さんが集まる時間です。
鈴木さんを含め、上山さん母子に日々の愚痴をこぼしに来る人も多いそうですが、
それこそがみんなくつろげている証拠ではないかと、鈴木さん。
「ここは地元の大切な飲み屋です」と、断言してくれました。
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希少性の高い国産瀬戸内レモンを使用。
ピール(果皮)感と爽やかな香り、まろやかな酸味が、
津山ホルモンうどんの甘辛味をさっぱりしたあと口にしてくれます。
また鈴木さんたち研究会メンバーからの要望で、
津山の新鮮なホルモンの甘さを引き立てる炭酸の比率も試行錯誤。
太鼓判をもらったご当地チューハイは、
いま“津山チューハイ”と呼ばれて親しまれています。
その相性の良さを、ぜひ津山に来て実際に味わってみてください。
information
三枝(みえ)
住所:岡山県津山市上河原441-5
TEL:0868-23-3972
営業時間:11:30〜14:00、17:00〜21:00(日祝日:11:30〜15:00)
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
アクセス:津山駅から車で約15分
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