連載
posted:2018.7.2 from:東京都中央区銀座 genre:旅行 / 食・グルメ
sponsored by 宝酒造
〈 この連載・企画は… 〉
「和酒を楽しもうプロジェクト」もいよいよ5年目へ。
今回から舞台をイエノミからソトノミに移し、
“酒場推薦人”の方々が、日本各地の魅力的な「ローカル酒場」をご紹介します。
writer profile
Yayoi Okazaki
岡崎弥生
おかざき・やよい●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。
photographer profile
Yayoi Arimoto
在本彌生
ありもと・やよい●フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp
地元の人にこよなく愛される酒場はまちの宝もの。
ローカル色豊かなおいしいおつまみや、ご主人とお客さんの雰囲気、店の佇まいなど、
思い出すと心がほんのり温かくなるような店を
“酒場LOVE”な案内人の方々に教えてもらいました。
旅先のソトノミガイドとしてもご活用ください。
ハイカラでモダンな繁華街から、日本を代表する魅力的なまちに発展した銀座。
東京オリンピックを2年後に控えたいま、
華やかなランドマークが次々と誕生し、新旧の個性的な店が通りに連なる光景も健在。
銀座で商うことに誇りを持つ店主がいる小さな名店を探して歩くのも、
本物が集まるまちならではの楽しみです。
今回の案内人、泉二(もとじ)啓太さんは銀座育ち。
革新的な試みで知られる呉服屋〈銀座もとじ〉の2代目です。
着物をつくる過程をお客さまに知っていただくために、
蚕(かいこ)の飼育を餌やりから体験してもらったり、
大島紬の織り手を雇い、店内に織り機を設置するなど、
着物という伝統的なものづくりをつなぐために、
父親で社長の弘明さんとさまざまなチャレンジをしています。
「銀座育ちと言っても、学校が終わると親がいるお店に戻るだけ。
普通の商店街の子どもと同じでしょうね。
校庭でサッカーができないのは不満でしたが、
銀座が特別なまちだとは当時は思ってもみませんでした」
幼い頃の思い出話をしながら、
綿薩摩の粋な姿で啓太さんが向かったのは銀座一丁目。
ローカルの気さくな社交場として愛される、創業昭和28年の〈銀座升本〉です。
ここは町内会の先輩方と鉢合わせすることも多く、
しかも今夜は父親の弘明さんが合流予定。
「ちょっと緊張しますね」と、シンプルな暖簾をくぐりました。
案内された2階は、まさに昭和の正統派居酒屋の佇まい。
壁には会津漆で塗られた手書きのメニュー板がずらりと並び、
並木通りの街路樹を眺めつつ飲めるカウンター席もあり、
どこを見ても隅々まできっちり清潔で、築43年の建物とは思えません。
この2階を仕切るのが、升本3代目の三保谷(みほや)建介さん。
啓太さんと同じ銀座の泰明小学校出身の先輩で、
銀座の町内会活動を通じて親しくなったそうです。
ふたりが挨拶していると、弘明さんが到着。
365日着物姿だというだけに、渋い江戸小紋がとてもお似合いです。
ところが、父と息子だけで酒場に行くのはきょうが初めて。
家族揃ってのソトノミだと大丈夫なのに、
ふたり差し向かいだと何を話せばいいのかわからなくなるとか。
父の弘明さんは〈銀座升本〉初来店。
そこでとりあえずいつもの日本酒と料理を啓太さんがオーダー。
大好物のしめさばが登場した時点でまずは乾杯です。
「うん、このしめさばはうまい。いい仕事をされているね。
それに料理が全部500円前後じゃないですか。
これなら、仕事帰りにちょっと1杯飲むのにもってこいだね」
と弘明さんは上機嫌。その顔を見て、啓太さんも少しホッとした様子です。
「それに昭和のいい雰囲気が守られているね。
この店に来たのは初めてだけれど、本当に落ち着けていい感じ。
そういえば、私が最初に貸し机をひとつ借りて独立したのは、
39年前の並木通りだよ。このすぐ近所、懐かしいね。
銀座の人は助け合いの精神があるから、私も随分助けてもらった。
独立するなら憧れのまち、銀座にしようと決意しながら、
奄美大島から上京した頃の自分を久しぶりに思い出しました」と、
弘明さんは早くもこの店を気に入ったようです。
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赤ウィンナー、もつ煮込み、アジフライなど、啓太さんが選んだおつまみが揃った頃には、
日本酒をお代わりしながらふたりの雰囲気もすっかりなごやかに。
そして弘明さんは升本3代目の三保谷さんが注ぐ一升瓶が気になる様子。
「このお酒もうまい。バランスが良くて飲み飽きないね。
料理にぴったり合うし、この〈三谷藤夫〉という銘柄名もいい。
これは杜氏さんの名前かな。うれしいよね、名前がラベルになるのは」
白壁蔵の名誉杜氏である三谷藤夫氏の名前を冠した
松竹梅白壁蔵「三谷藤夫」は、お店でしか飲めない、販売ルート限定品。
三谷さんは、日本酒造りの卓越した技能が評価され、
平成23年度「現代の名工」、平成25年度には「黄綬褒章」を受章されました。
「着物と日本酒は、日本の伝統的なものづくり文化で
いまどちらも海外から注目されているのが確かに共通しているね。
その点、銀座はプレゼンするのには最高の舞台。
歌舞伎座に加えて能楽堂もGINZA SIXにできました。
私はね、銀座が着物を着たくなるまちになるのが夢なんです。
ここのような居酒屋にはがんばってもらいたいな。
居酒屋も日本の伝統文化だと思うから」(弘明さん)
料理をつまみつつ日本酒話が盛り上がり、
狙い通りの弘明さんの反応を見て啓太さんもうれしそう。
息子が男親を誘うなら、やはり昔気質の居酒屋が良さそうです。
その頃、1階では2代目ご主人・三保谷卓さんが奮闘中。
20席程度を切り盛りしながらお勘定もこなしています。
卓さんは宮崎県高鍋市の出身ですが、
大学で出会った奥さまがこの店の跡取り娘だったので、
思いもよらなかった“居酒屋のオヤジ”への転身を決意。
伝説の料理人と言われる師匠の元での修業を経て、この店を継いだそうです。
「初代にあたる義理の両親が、跡継ぎができたと喜んでくれて。
木造2階建をビルに建て替えてくれたのが昭和50年のこと。
2階はそれから内装を変えていないから、43年前の空気が残っているんですよ。
ウチだけは、いま昭和92年。昭和はまだ終わっていないんだ(笑)」
最近では、女性や若いお客さまも増えてきたので、
家族で話し合って新しいメニューもつくったのだそう。
「カレーラーメンや麻婆豆腐は、どこにもない味だって評判いいですよ。
いまもこの店の上に住んでいるのは、女房がここを離れないから。
八百屋や魚屋のような店が消えて、
日常の買い物が不便になってもやっぱり銀座が好きなんだね。
私はたまたま店が銀座にあったというだけ。
でもお客さまの人柄が最高にいい、銀座だから自然とね。
みなさん自腹の人だから10円、50円の値上げも厳しいけれど、
その分親身になって支えてくれる。
自分も厳しい料理修業があったから、しゃきっと銀座で生きていける。
居酒屋メニューなので、あまりわからないとは思うけれど。
お天道さまに顔向けられるような商売をする。やっぱりここは銀座だから。
自然にそう思わされるまちだと思います」
ウチのような小商いの店が銀座を支えている。
ご主人の言葉に銀座の素顔を見た気がしました。
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「現代の名工」に選ばれた但馬杜氏・三谷藤夫。
その技を受け継ぐつくり手たちが、伝統的な山廃仕込で醸した
複雑で奥行きある味わいを再現しました。
酒造好適米・五百万石を全量使用し、60%以下に磨き抜いた
芳醇で深くキレのある飲み口で、料理の味を引き立てます。
泉二さんも唸ったこだわりの一杯を、ぜひお試しください。
特に〈銀座升本〉のしめさばとは絶妙の相性ですよ。
information
銀座升本
住所:東京都中央区銀座1-4-7
TEL:03-3561-3086
営業時間:11:15〜13:30、17:00〜21:00 L.O
定休日:土日祝
アクセス:JR有楽町駅、地下鉄銀座一丁目駅、銀座駅から徒歩5分
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