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レコードはカッティングが命。
レコード屋&バー
〈SMOKIN’ FISH RECORDS〉の
溝にまつわる深いお話

SOUNDS GOOD!!! 音のいい店ジャパンツアー
vol.025

posted:2024.7.24   from:神奈川県横浜市  genre:エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。

writer profile

Akihiro Furuya

古谷昭弘

フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。

credit

photographer:深水敬介

illustrator:横山寛多

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
神奈川県横浜市。

レコード棚の仕分けでわかるマニアックなこだわり

コロンボ(以下コロ): 世の中、マニアックな店ってまだまだあるもんだね。

カルロス(以下カル): 感慨深めにどうしました? 
ボクらが行く店って、そもそもマニアックだけど。

コロ: ここ横浜、吉田町にある〈SMOKIN’ FISH RECORDS〉って店、
レコード屋でもあり、カフェや飲み屋でもあるんだけどさ、
レコード・ストックの棚の仕分けが超マニアックなわけ。

カル: アーティストやジャンルとかじゃないんだ。

コロ: それももちろんあるんだけど、お店の入口で待ちかまえている棚が、
マスタリングスタジオ別なんだよ。

カル: マスタリングスタジオって
レコードの音質を司るカッティングエンジニアなんかが関わるところだよね。

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カッティングにも名門がある?

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コロ: ニューヨークのMASTERDISK社、西海岸のTML社、
1970年創業のニューヨークやナッシュビルを根城にするSterling Sound社とか、
その筋の名門があるんだ。

カル: MASTEREDISK社は聞いたことあるな。
アナログ録音の最高峰ともいわれる
ドナルド・フェイゲンの『The Nightfly』を手がけたところだよね。

コロ: よくできました。
ポリスの『SYNCHRONICITY(シンクロニシティ)』とかもそうなんだ。
TML社は西海岸だけにジャクソン・ブラウンの『Late for The Sky』などの
アサイラム系とか、TOTOなんかでも有名ね。
Sterling Sound社は1970年創業の老舗で、
デビッド・ボウイの『Diamond Dogs(ダイアモンドの犬)』とか、
音にはことさらにうるさいブライアン・イーノの一連の作品とかね。

カル: イーグルスの『Hotel California』もそうなんでしょう。

コロ: そう、75年以降の米ワーナーからリリースされたレコードは
いい音だと言われているんだってさ。一言でいえば荒々しくて美的。

昨年までイタリア料理店だった店舗からレコ屋に。ドラスティックに業態変更。

昨年までイタリア料理店だった店舗からレコ屋に。ドラスティックに業態変更。

カル: そんなに違うモノなの?

コロ: 聴き比べると、鮮度の違いはあからさまらしいよ。
聴き比べたわけじゃないけど、
ボブ・ラドウィックによる「RLカット」と呼ばれる
レッド・ツェッペリンのセカンドはすごかったな。
アタックが強くて、いままでボクが聴いていたものはなんだったろうって気がしたよ。
ボブ・マーリーの『UPRISING』もすごかった。

カル: そもそもボブ・マーリーって、すごくいい音で聴く機会少ないもんね。
海の家のしょぼいスピーカーとか、ラジカセとかね。
それがいきなりのハイエンド・オーディオじゃ、たまげるな。

コロ: 日本のプレスはどうなの? 
繊細な仕事が得意な日本人だから、プレスがよくたっておかしくないのにね。なんで?

カル: 日本の場合、レコード会社が電機メーカーの傘下だったので、
どんなポンコツのレコードプレイヤーでも再生できないといけないということで、
デリケートなカッティングができなかったんだってさ。

カル: カッティングの話ばかりなんだけど、このお店、レコ屋なの?

コロ: いや、お酒も飲めるレコ屋。試聴も一杯飲みながらできるんだ。

カル: そりゃ、いいね。延々、聴いちゃいそう。

コロ: 店主の小川榎也さんは、
去年までここでイタリア料理のお店をやっていたんだってさ。
それが今年からレコード屋に。

カル: ドラスティックな業態変更だ。

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レコードは高騰しているけど……

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コロ: このお店のいいところは、レコードバーなんかでは、
お客さん同士の会話もあるから、音量大きめといったって、それなりの制限があるけど、
ここはレコード屋が主体だから、たっぷりの爆音で聴けるんだ。

カル: ゆっくりおとなしい音で聴くような店じゃないんだ。
機材なんかも相当なモノなのかな?

コロ: 高くない機材でいい音を目指すというのがモットーらしい。
それでもスピーカーはJBL 4312で、アンプもSUNVALLEYのカスタムだけど。
マスターがいうにはオーディオっていうのは
ボリューム6以上じゃないとワークしないんだってさ、
だから必然的に音も大きくなるそうだ。

カル: SMOKIN’ FISHカスタムによるオーディオシステムも
販売しているんだってね。

コロ: スピーカーのセッティングから配線、
メンテナンスまでやってくれて30万円弱。
真空管アンプにブックシェルフ型のスピーカー。
成りは小さくとも、鳴りはみごとだよ。

カル: ボリューム6の法則によれば、小さな居住空間だと、
スピーカーの大きさって大事なんだ。それでブックシェルフ型かー。
実際、家での配置なんかもお願いできるのかな?

コロ: すべて出張してやってくれるそうだよ。
元イタリア料理店だったとは思えないホスピタリティだ(笑)。

カル: レコードブームになってからの開店だから、仕入れも大変だろうね。

コロ: 昔はバルク買い(大量買い)でもそれなりお宝盤があったようだけど、
最近はそうもいかなくて、とにかく足で探すそうだ。

カル: ボクらだって、そうそう安いお宝盤にはめぐり合わないもんね。
昔みたいに3桁盤でいいものとかないし。そりゃ、大変だ。

コロ: でも小川さんはそのへんが鷹揚で、
そもそも投げ売り状態だった昔が異常で、業界としてはいまのほうが正常だってさ。

カル: たしかに。大人だなー。
ついこの前までシティポップなんて100円コーナーにわんさかあったからね。
ある意味、かわいそうだったよな。
小川さん的に美マスターレコードというとなんだって?

コロ: レゲエならアイランドレーベルのUKオリジナル、ビートルズもUKオリジナル。
70年代以降だと最初にあげた3大マスターエンジニアリングのものだそうだよ。

カル: 80年代だとどうかな?

コロ: カルチャー・クラブ、デュラン・デュラン、
ティアーズ・フォー・フィアーズあたりのUKものもいい音らしいよ。

カル: レコードのことを聞きに行くだけで、楽しそうだね。

コロ: お店イチオシのモヒートでも飲みながら、
夏の夜長のレコード談義もおつなもんだね。

information

map

SMOKIN’ FISH RECORDS 

住所:神奈川県横浜市中区吉田町3-14

Tel:045-334-8593

営業時間:15:00〜22:00(月〜金曜)、12:00〜22:00(土・日・祝)

定休日:無休

Web:SMOKIN’ FISH RECORDS

Instagram:@smokinfish_records

 

SOUND SYSTEM

Speaker:JBL 4312XP

Turn Table:Technics SL-1200 MK3D

Integrated Amplifier:SUNVALLEY Custom Made

旅人

コロンボ

音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。

旅人

カルロス

現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。

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