連載
posted:2016.4.6 from:岐阜県関市 genre:食・グルメ / 活性化と創生
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〈 この連載・企画は… 〉
ひとつの商店街(地域)をねり歩きながら、パンと具材を集めて勝手にサンドイッチを作る旅。
そこでしか食べられないオリジナルなサンド、果たしてどんなものができるのか?
writer profile
Kozakai Maruko
小堺丸子
こざかい・まるこ●東京都出身。読みものサイト「デイリーポータルZ」ライター。江戸っ子ぽいとよく言われますが新潟と茨城のハーフです。好きなものは犬と酸っぱいもの全般。それと、地元の人に頼って穴場を聞きながら周る旅が好きで上記サイトでレポートしたりしています。
「商店街サンド」とは、
ひとつの商店街(地域)で売られているパンと具材を使い、
その土地でしか食べられないサンドイッチを作ってみる企画。
必ずといっていいほどおいしいものができ、
ついでにまちの様子や地域の食を知ることができる、一石二鳥の企画なのだ。
今回やってきたのは岐阜県関市。
日本の東西を分ける分岐点として認定されているまちであり、
最近では通称〈五郎丸ポーズの仏像〉や〈モネの池〉で話題になっている地域である。
また、関といえば700年以上もの歴史がある“刃物のまち”として知られている。
鎌倉時代に日本刀がつくられはじめ、
そのあと、包丁やハサミやナイフ、爪切りなどに技術が派生し
多くの刃物製品が生産されているようになった。
意外と知られていないが、
日本の家庭で使われている包丁の約5割が関市でつくられているそうだ。
つまりは家に包丁が2丁あるお宅なら、
そのうち1丁はここ関市でつくられている可能性が高いのだ。 すごい!
関市の刃物は国内だけでなく、
アメリカ・ヨーロッパをはじめ世界各国に輸出され、
ドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと並んで
「刃物の3S」に名を連ねるほどにまでなっているそうだ。
関市には刃物の工場以外にも〈関鍛冶伝承館〉〈フェザーミュージアム〉〈刃物会館〉
といった刃物に関する施設が多く、その種類の豊富さに驚かされる。
戦国時代には人を切りつけていた日本刀の技術が、
まさか卵の白身を切るお役立ちアイテムに派生するなんて。
また、長年使って錆びた刃物をリペアしてくれる工場なんかもある。
〈春日刃物〉さんでは職人さんが希望に合わせた状態に研ぎ直してくれる。
商売として長年使っていて代替のきかないものや、
親の形見など、お客さんの想いはさまざま。
それがどんな形状でも切れ味よく直しちゃうのだから、
職人さんてかっこいいよなあ。
さて、そんなまちでできるサンドイッチはいったいどんな感じなんだろう。
関市経済部 観光交流課の三輪博樹さんと一緒に
サンドづくりをすることにした。
関市のまちをあらためて見渡してみると、
遠くのほうには四方に山が見えるものの、高い建物はあまりない住宅街である。
そのなかに工場が点々と見つけられ、
どこか、自分が育った東京の葛飾区や
お隣の墨田区に似た雰囲気がただよって いる。
三輪さんによると、関市の人の気質も江戸っ子同様に
頑固な部分が見えるという。
さすが職人さんが多い地域。
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まちを案内してもらいながら、
三輪さんに爪切り自慢を聞いた。
なかなか手に入らないこだわりの爪切りを持っているらしい。
私は爪切りなんて100均ので充分と思っていたが、
それでは爪の繊維をつぶしているからきれいじゃない、と
OLのようなことを言う。
さらに、足専用爪切りなんてのも常識のように持っているそうだ。
そんな話を聞いていたらだんだん欲しくなってきたので
おそるおそる値段を聞いてみると、
おかしなことに返答が曖昧。
実は使っている刃物はだいたいが“もらい物”らしいのだ。
青森県民ならリンゴ、和歌山県民ならミカンなど、
ものが豊富にとれる地域に住んでいる場合
ご近所の農家さんがタダでくれたり、タダみたいな値で買えるというけど
関市ではそれが刃物だそうなのだ。
例えばお正月に行われる福引きではタダで刃物製品が配られたりもする。
(関市名物・福引きの様子はこちら)
なんとうらやましい!
さて、最初にまず向かったのは、三輪さんイチオシのパン屋さん。
商店街から少しはずれた住宅街のなかにあった。
菓子パンも多いけれど
棚の上段や店員さんの後ろに並ぶシンプルなパンが目をひく。
ペイザンのオススメはなんといってもフランスパン。
なかでも、2種類の小麦粉と水と塩だけで仕込んだという
バタールをチョイスした。
そのあと、1キロ以上にもなる立派な商店街を歩いた。
空き地になったり家に改築されている場所が多く見られるが、
昔から続く和菓子屋さんや精肉屋さん、本屋さん、お花屋さん、
刃物屋さん、定食屋さん、洋品店、
そして、仕事の合間にフラッと立ち寄りたくなるような
軽食屋さんといったお店が並んでいた。
関市には日本三大清流のひとつ長良川が流れている。
1300年以上続く鮎の漁法“鵜飼”も行われており、
鮎料理が堪能できる地域でもある。
訪れたのは漁の時期ではなかったのだけど、
商店街には一年中鮎が楽しめる甘露煮が売られていた。
そして関市のもうひとつの伝統の味といえば、うなぎだ。
代々鍛冶師の力の源にもなり
全国にもファン多しと言われている。
関東では蒸したあとに焼くけど、
こちらでは生のうなぎを一気に焼き上げるのが特徴らしい。
鮎の甘露煮か、うなぎか。
どちらも入れたいところだが、それでは魚ばかりになってしまう。
ここはほかの食材と合わせやすそうなうなぎを取ることにした。
商店街にはほかに、他県から買いにくるほど
焼豚が人気のお肉屋さんがあった。
でもとっくのとうに売り切れ。
そしてそのあと別のお店でサンドにピッタリの食材を見つけたのだけど
今度は人気すぎて取材お断りの店だった。
NGが続いたのは残念だが、
関市に名店が多くあることが身にしみてわかった。
日が暮れ始めて気が焦るなか
マルヘイという商店で手にとったのは〈むかご〉という食材。初めて見た。
三輪さんもなんだかよくわからないというし、
これは隠れたご当地ものかもしれないぞ! と
期待してレジに持って行く。
しかし「田舎ならどこにでもあるよ」と店員さんから悲しいお知らせが。
そうか、どこにでもあるのか。
なかなか地元食材にはありつけないものである。
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なかなか食材にありつけず落ち込む私に
三輪さんがサービスエリアがあった、と提案してくれた。
それだ!
関サービスエリアには岐阜の特産品が並び、
関コーナーにはやはり刃物がたくさん並んでいた。
そしてフードコートには
B級グルメの〈黒唐揚げ〉なるものがあった。
それは、知らなかったら黒焦げじゃないかと怒り出しそうな
ビジュアルのものだった。
本来であればその高級感から、うなぎが主役になるべき品揃えである。
しかし、溶岩のように真っ黒い唐揚げにどうしても目が奪われてしまう。
これまた頑丈そうなフランスパンとの組み合わせによって
日本刀でもたちうちできなそうなほど
かたそうだ。ちゃんと食べられるのか?
しかし黒唐揚げは溶岩ではもちろんなく、
衣にヒジキと、関市特産であるしいたけを混ぜこんで
作られている鶏の唐揚げだった。
衣の漆黒とも言えるこの色は
体にいい食材でできていたのだ、ひと安心である。
しかも、写真からはそうは見えないかもしれないが
ものすごくいい匂いを放っている。
うなぎと唐揚げのいい香りで
腹ペコ度はマックスな状態でサンドを噛みしめる。
うなぎは、時間がたってしまったため外側のカリカリは減っていたものの
フワフワと優しく、口いっぱいに濃いタレの風味が広がっていく。
パンとの相性もとてもよく、
なぜうなぎパンが存在しないのか疑問に思うほどである(金額的なもの?)。
さらに黒唐揚げのやわらかさとジューシーさがすばらしい。
ヒジキの味はよくわからなかったが、
ニンニクとしいたけの旨みが染みこんでいた。
そして初めて食べた〈ムカゴ〉の正体は
粘り気のある自然薯の小さいもので、
塩がふってあってこれはコレでうまい。
その個性豊かな組み合わせに、
三輪さんは「ラオウたちが集まってるみたいです」と驚嘆していた。
フランスパンと黒唐揚げのコンビがかたそうに見えたけど、
食べてみるととてもやさしく、噛めば噛むほどに味がにじみ出てくるサンド。
まるで関市の頑固な職人さんと、
使えば使うほどアジが出てくる刃物のような関係性であった。
・ペイザンのバタール…275円
・角丸のうなぎ…2000円
・関サービスエリアの黒唐揚げ…360円
・関鍛冶伝承館のトマト…200円
・マルヘイのむかごの天ぷらとレタス…200円
・キウイジャム…三輪さんの奥さんの手づくり
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合計 3035円
商店街サンド #09 -- Spherical Image -- RICOH THETA
Information
関市商店街
住所:岐阜県関市本町
Webサイト:http://seki-akindo.com/
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