連載
〈 この連載・企画は… 〉
本屋が減少し、まちにひとつも本屋がないという市町村もあります。
一方で独立系書店と言われる本屋は少しずつ増加しているし、そこで取り扱うようなジンやリトルプレスの発行も増えています。
まだまだ本や活字の文化が消えることはなく、そのあり方を進化し続けながら活動する人たちを紹介します。
editor profile
Akane Yamazaki
山崎 茜
やまざき・あかね●富山県出身。編集/ライター/ジンスタ。県外の大学で語学を学んだあと、地元にUターン。趣味は積ん読。紙の本への愛から、ZINEやアートブックを自主制作して各地のイベントなどにも出展しています。乙女座のO型。
全国にはたくさんの本屋さんがあり、多様化している。
大型書店とはまた違うセレクトだったり、何かのジャンルに特化していたり、
立地が独特だったり、店構えが本屋さんの域を超えていたり。
実際に足を運べば何かに出合える、それは本だけでないかもしれない。
知れば行ってみたくなる、そんな本屋さんたち。
そこで北は北海道から南は沖縄まで、
ローカルにあり、特徴のある本屋12店をお届けする。
2023年に北海道・夕張郡長沼町の農場にオープンした
「岩波少年文庫」のみを取り扱う本屋。
世界の古典文学シリーズが古本、新刊問わず並ぶ古民家は、
北海道の雄大な山々と夕張川を背にして、
見渡す限りなにもない土地に建つ。
敷地内でハーブ農家を営む店主の柴田翔太さんが本屋を始めたのは、
数年前に祖父の本棚から見つけた古い岩波少年文庫の巻末にあった
「岩波少年文庫発刊に際して(1950年)」という文章に感銘を受けたことが
きっかけだった。
小鳩書房に入るには、まず農場内にある小屋で鍵を受け取る。
来店者が自身で鍵を開け、誰にも干渉されずひとりで本を選ぶ、
自分だけの時間を過ごすことができるようになっているのだ。
ここへ来てから帰路に着くまでのすべてが
「1冊の本を買った体験」として来店者に刻まれそうだ。
information
小鳩書房
Page 2
青森県八戸市〈八戸ブックセンター〉は、
2016年の立ち上げ時にブックコーディネーター・内沼晋太郎さんを
ディレクターに迎えてオープンした、全国的に珍しい市営の本屋。
「本のまち八戸」を推進する拠点として
「本を読む人を増やす」「本を書く人を増やす」「本でまちを盛り上げる」という
3つのコンセプトを軸に運営されている。
民間の本屋が扱いにくい、売れ筋ではないがいま読んでほしい本を揃え、
市内の近隣書店と品揃えをすみ分けるなど、公共施設ならではの強みを生かしている。
おもしろいのは「読書会ルーム」や「カンヅメブース」の存在。
読書会を開催したり、おこもりで執筆作業もできたりするというから、
市民活動の強い味方になっているようだ。
毎年主宰している「本のまち八戸ブックフェス」では、市内の本屋や飲食店が出店。
トークショーや作家のサイン会などのイベントを通して、
本を中心とした市内のコミュニティづくりを担っている。
information
八戸ブックセンター
住所:青森県八戸市六日町16-2 Garden Terrace 1階
TEL:0178-20-8368
営業時間:10:00〜20:00(日曜・祝日は10:00〜19:00)
定休日:火曜(祝日の場合はその翌平日)、1/1、および12/29〜31
Web:八戸ブックセンター
Instagram:@hachibookcenter
横浜市の丘陵地にある公営住宅「若葉台団地」には「団地の本屋」がある。
もともとあった新刊書店が5年ほど前に閉店してしまったことなどをきっかけに、
新しい団地の本屋のかたちを模索しようと、
店主・三田修平さんの住まいでもあるこの地で2022年にスタートした。
本屋を日常使いする近隣住民と、お店を目指して訪れる本好き。
ふたつの客層がどちらも楽しめるように、雑誌や実用書、ベストセラー本から、
リトルプレス、古本まで幅広いラインナップを揃えている。
ともすれば情報が偏ってしまう団地という閉じた環境のなかで、
「世界との接点としての本屋」であること、
そしてこの本屋があることが
住民のシビックプライドにもつながればという思いがあるという。
ドリンクカウンターのある店内では、
お気に入りの1冊を持ち寄ってお酒とともにお喋りを楽しむ
「BOOK SNACK」という楽しそうなイベントも定期的に開催中。
information
BOOK STAND若葉台
住所:神奈川県横浜市旭区若葉台3-5-1
TEL:070-8532-3643
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火曜(そのほか臨時休業あり。詳細はSNSをチェック)
Instagram:@bookstand_wakabadai
Page 3
東京・駒沢にある書店〈SNOW SHOVELING Books & Dialogue〉は、
全国を廻る「移動本屋」の顔も持っている。
深いグリーンのバンに詰め込まれたのは、
村上春樹作品やアメリカ文学、60年代のカウンターカルチャーに関する書籍など。
駒沢の店舗でもブッククラブ(読書会)の開催や店頭での何気ない会話を通じて、
本好きのコミュニティをつくってきた店主の中村秀一さん。
移動本屋をはじめた理由のひとつは、「人(お客さん)に会いに行ける」こと。
まちやお客さんが支えることでその場にいつまでも存在し続ける「持続性」。
そして、カフェや集会所など書店以上の機能を持つ「拡張性」。
ローカルな書店に求められる役割も、全国を駆け抜けるなかで見えてきた。
今秋は青森から東北地方を南下予定。
「移動本屋に来て欲しい」という全国の書店やお店からのリクエストも
受付中とのことで、ピンと来た人はSNSなどをチェックしてみては。
information
SNOW SHOVELING Books & Dialogue(スノーショベリング ブックス アンド ダイアログ)
※実店舗の情報。移動本屋の情報はSNSを参照。
住所:東京都世田谷区深沢4-35-7 2F
TEL:03-6432-3468
営業時間:13:00〜18:00
定休日:火・水曜
Web:SNOW SHOVELING Books & Dialogue
Instagram:店舗 @snow_shoveling
移動販売 @snowshovelingbooks_on_the_road
雄大な自然がすぐそばにある八ヶ岳の南麓。
〈のほほんBOOKS&COFFEE〉は山暮らしの本を集めた本屋だ。
「森の中でページをめくると一気に没入できる本」をテーマに、
ジャンルレスにセレクトされている。
併設のカフェでは、オリジナルのブレンドコーヒー「のほほんブレンド」や、
地元の専門店がつくるブラウニーなどもいただける。
購入した本を片手に、窓の外の自然を眺めながら過ごす時間は格別だろう。
東京から移住した際、本をじっくりと選んだり、
コーヒーを飲みつつ読書を楽しめたりする場所がなく、
それなら自分たちでつくってみようと決めた店主の渡辺潤平さん。
お店を起点に、周辺で観光や食事を楽しめる、そんな目的地になれる書店であること、
そしてとにかく長く続けることを目指している。
おすすめのローカル本は、『父のつくったものたち』(増満兼太郎)。
地元北杜市在住の造形作家である著者が、
彼の息子のために長年つくってきた品々が掲載されている心温まる1冊だ。
information
のほほん BOOKS&COFFEE
Page 4
長野県松本市にある「栞日」は、インディペンデントマガジンをはじめとした
独立系出版物をメインに取り扱う書店兼喫茶。
JR松本駅から真っ直ぐに延びる「あがたの森通り」にあり、
昔の家電販売店をリノベーションしたまちに溶け込むような風貌だ。
このまちに出合い、県外から移住した店主の菊地徹さんが、
ここで暮らし続けたいという思いでオープンさせた。
古材などを活用してつくられた壁一面の本棚には、
県内在住の編集デザインチームが発行する、
長野県の地域探訪誌『涌出(わきいづ)』など、
ここでしか出合えないユニークなローカル出版物が見つけられる。
周辺には、中長期滞在ができる宿〈栞日INN〉や、
運営を継承した地元銭湯〈菊の湯〉など、
栞日を中心とした滞在エリアが既にできあがっているから、県外からも訪れやすい。
店名は「流れ続ける毎日に、そっと栞を差す日」のこと。
その地域に暮らす人にとっての居場所のひとつになり、
「まちの句読点」になることを目指している。
information
大阪、北浜にある〈FOLK old book store〉は、
〈谷口カレー〉が間借りする、スパイスの芳香漂う1階のカフェスペースを抜けた先、
地下に広がるのが書店の空間だ。
漫画、イラストレーションに関連する本の品揃えに力を入れている。
同店が最近出版した、
5名の作家による「本」をテーマにした短編漫画集『キーホルダー』など、
サブカルチャーを中心としたジャンルの本、雑貨、アート作品などが魅力だ。
知らず知らずのうちに本に触れてほしいという店主・吉村祥さんの思いのもと、
イラストレーションや写真の展示、音楽ライブなども開催するなど、
さまざまな人に来店の入り口を開いている。
お店の隣には子ども用の絵本などを扱う「子どもの本屋ぽてと」も
2021年に新しくオープン。
大阪の文化発信の拠点のひとつとして、ますます幅広い世代に愛されていきそうだ。
information
FOLK old book store(フォークオールドブックストア)
Page 5
瀬戸内海に浮かぶ、香川県の小豆島。
〈TUG BOOKS〉は、島に移住した元書店員・田山直樹さんが営んでいる。
幼い子どもを持つ島の知り合いから、島外に買い物に出る際、
船の時間の関係から絵本をゆっくり選んで見る時間がないという悩みを聞き、
島の人が時間を気にせずゆっくりと本を選べる場所をつくりたいとオープンした。
文芸書や児童書から、人文・社会・自然科学書などの専門書、
短歌、詩、リトルプレスなど、多くのジャンルを幅広く揃えるのは、
本屋は「未知との出合いを届けられる場所」だという考えから。
読書会やZINE制作ワークショップも開催し、
本を買うだけでなく、本を媒介として参加者が出会い、つながる
地域の「情報のハブ」となることにも積極的だ。
現在は島内の有志による島のZINE制作プロジェクトも進行中。
information
TUG BOOKS (タグブックス)
住所:香川県小豆郡土庄町淵崎甲1926
TEL:080-3883-1574
営業時間:金曜18:30~21:00、土・日曜12:30~18:00
定休日:月~木曜
Instagram:@tugbooks_shodoshima
Note:tugbooks
●コロカル「小豆島日記」で紹介された記事はこちら
鳥取県湯梨浜町、東郷池のほとりにある〈汽水空港〉は、
おもちゃ屋の倉庫を改装・増築した書店だ。
「買う暮らし」から「つくる暮らし」への移行を望んでいた店主のモリテツヤさんは、
「どこかの小さなまちで田畑をしながら本屋をやる」と決め、
偶然辿り着いた鳥取を拠点にした。
あらゆるジャンルの本を取り扱うが、最近は個人的な探究から文化人類学や形而上学、
哲学の本がどんどん増えているのだとか。
手づくりの本棚にはリトルプレスなども数多く並び、
店内では定期的に行われるイベントやワークショップ用のカフェスペースもある。
最近では店の近くに開墾した土地の区画を無償で開放するなど、
お金を介さない公共のあり方を模索中。
新たな人やアイディアを受け入れ育む「気持ちのいい畑のような本屋」を目指している。
information
汽水空港(きすいくうこう)
Page 6
福岡市にあるアートブック専門の書店〈本屋青旗〉は2020年にオープン。
地元出身の店主・川﨑雄平さんが作品集や写真集、アートブックや雑誌、
ZINEなどをセレクトするだけでなく、関連する作家らの展示も開催している。
また店頭には、同店が自ら出版した本も並ぶ。
国内外のデザイナーたちに彼らにとってのスペシャルな1冊を尋ね、
彼らが「どのように」アートブックを読んでいるかを紹介した
『THE BOOK CHOOSES 01』は、そのうちの1冊だ。
今年6月、太宰府天満宮で福岡初開催となった
アートブックフェア「Pages | Fukuoka Art Book Fair」も同店を含めたメンバーで
企画・運営された。
アジアをはじめ世界とのつながりを見せるアートブックの世界で、
今後ますますその動きに注目したい書店だ。
information
本屋青旗(ほんやあおはた)
「暮らしの本屋」をテーマに選書する〈MINOU BOOKS久留米〉。
9年前、福岡県うきは市に1号店をオープンして以来、
昔から文化的な交流が盛んな地域同士だった同じ筑後川流域の久留米市に、
2号店として開店した。
地域の食や文化を反映しているという本棚には、
衣食住といった生活の本から、歴史・文化、思想・哲学、政治・社会、子ども本のほか、
最近ではフェミニズム関連本も多く並んでいる。
店主の石井勇さんは、ローカル書店としてその土地の風土、食物、
人々の気風、話し言葉など、
その場でしか得られないものごとを反映させることをモットーに店づくりをしている。
久留米市内で商いを営む7組にインタビューした『キキキii』(福永あずさ)など、
ローカルに根づく観点でセレクトされた本にも注目したい。
information
MINOU BOOKS 久留米
住所:福岡県久留米市小頭町10-12 1F
TEL:0942-64-8290
営業時間:11:00〜19:00
定休日:火曜
Web:MINOU BOOKS 久留米
Instagram:@minoubooks
Page 7
沖縄・北谷に佇む1台の黄色いスクールバスは、
沖縄本、絵本、洋書などを扱う古書店だ。
那覇市生まれの絵本作家・儀間比呂志著の絵本『エイサーガーエー』など、
沖縄の文化、風土、歴史に関する書籍が9割を占める。
ローカル書店ならではの役割を、
「地域の子どもたちや親子、お年寄りたちに寄り添う役割を担えること」だと考える
地元出身の店主・畠中沙幸さん。
地元住民が気軽に集える
「まちやぐゎー」(沖縄の小さな商店)のような場所を目指している。
子どもたちが読み終わった本を自分たちで持ち寄り、
屋号や看板づくり、会計も自分たちで行うイベント「こども古本市」や、
地元の老舗ショッピングセンターで行った書店を集めたイベントもその一環だ。
北谷では珍しい個人経営書店は、
子どもからお年寄りまで地域に開かれた拠点として賑わいを見せている。
information
ブックパーラー砂辺書架(しなびぬしょか)
全国津々浦々、個人の思いが詰まった本屋さんが増えている。
その思いが強くなるほど、ジャンルが特化したラインナップになったり、
変わった立地になったり、一見本屋かどうかわからない店舗になったりする。
本屋に行くことは、本を買うという目的だけではなくなってきたようだ。
その場所や空間、そして店主とのコミュニケーションを楽しむのだ。
これはまだまだ一例。
気になるエリアの本屋さんに遠征してもいいし、
あなたのまちに、お気に入りの本屋さんも見つけてほしい。
Feature 特集記事&おすすめ記事