連載
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
writer profile
Hikari Mimura
三村ひかり
みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島の中でもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
https://homemakers.jp/
小豆島にまたひとつおもしろい場所が増えました。
〈TUG BOOKS(タグブックス)〉という名の本屋さんです。
TUG BOOKSのこと、本屋の主である田山直樹くんのことは、
以前この小豆島日記で紹介しました。
ちょうど1年前です。
当時はお店を持たない本屋さんとして活動していて、
私たちが運営している〈HOMEMAKERSカフェ〉の庭でも本のイベントを開催してくれました。
さて、田山くんはこのイベントのあとも島のあちこちで本にまつわる企画を実施しながら、
お店オープンにむけてじわじわと準備を進めてきました。
彼が「本屋」という場として選んだのは、古い木造の民家です。
立派な木材でつくられた歴史ある古民家という感じではなくて、古い家です(笑)。
おー、そこで本屋さんをやるんだー、すごいなぁというのが話を聞いたときの最初の印象。
改修工事は2022年3月から始まりました。
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「古い建物を自分でリノベーションしてお店をやる!」
言葉にしてしまうとさらっと終わってしまいますが、それって本当に大変なことなんです。
私たちも今の自宅兼カフェはできる限り自分たちの手でつくりたいと工事を始めて、
内装工事など一部分はやりましたが、建物の基礎部分の工事や壁を立ち上げる工事などは
地元の大工さんにお願いしました。それでもとても時間がかかったし大変でした。
日常的に家の修理を自分でしていたり、日曜大工が趣味だったり、
もともとそういう人であれば別ですが、知識も経験も道具もない素人が
突然家の工事をするなんて無茶なんです。
でも田山くんはその無茶なコースを選び、自分で壁を壊し、床をはがし、
本屋をつくり始めました。
ひとりでの作業は気が滅入ることもあったと思います……。
自分がやらなきゃ進まないし、わからないことばかり。
大丈夫かなぁと私たちもちょっとだけ手伝いに行ったりしました。
でも彼の上手なところは、自分ひとりですべてやらなかったところ。
建築家の友人に相談してアドバイスをもらったり、島の友人と話して手伝ってもらったり。
それができたのは、地域おこし協力隊として活動していた数年の間に、
島のなかでしっかり関係性を築けていたから。
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もともとの予定からは少し遅れましたが、
2022年8月末にTUG BOOKSという本屋さんが小豆島にオープンしました。
棚いっぱいに並んだ本をみて、正直感動しました。
あの古い建物がほんとに本屋になった! すごいなぁ。
田山くんがつくった本屋は、ただ本を売る店じゃなくて、
いつも選ばないような本と出会いたい人、田山くんとお話したい人が
集まってくる場所という感じ。
今の時代、SNSで誰かが本を紹介していて、
気になったらそのままネットで注文して読めます。
自分が求めていそうな本に出会えちゃうというか、つながっちゃうんです。
でも、そういうんじゃなくて、想像してなかった意外な出会いが本屋にはあるんですよね。
だから小さくても身近な場所に本屋さんができたのはとてもうれしい。
そうそう、店内にはカウンターとテーブル席がふたつあって、お茶することができます。
本を購入して、そこでお茶をたのんで、ふっとひと息。お茶を飲みながら本を読むことも。
都会で暮らしていると、本屋にカフェが併設されていたり、
本屋のすぐ近くにカフェがあったりって当たり前のことのようですが、
島にはそういう場はなかなかないんです。
お茶しながら本を読むなんて、なんだか新鮮でした。
まだ始まったばかりのTUG BOOKS。
今回オープンしたのは建物1階部分で、将来的には2階も改装して、
静かに本を読んだり、書きものをしたりできるスペースとして開く予定だそうです。
自分たちが暮らす島のなかに、居たくなる場所ができるのはほんとにうれしいこと。
とっても楽しみです!
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TUG BOOKS
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