奥能登国際芸術祭2017
さいはての芸術祭から見えるもの
さいはての地から美術の最先端を
「さいはての芸術祭、美術の最先端」を謳う、
〈奥能登国際芸術祭2017〉が、石川県珠洲市で開催中だ。
奥能登という言葉のとおり能登半島の最北端に位置する珠洲市は、
陸路から考えるとたしかに「さいはて」だが、
海運交通で考えると能登半島は古来から最先端の地だった。
古墳時代から奈良時代には、朝鮮半島の人々が能登半島に渡り大陸文化を伝え、
江戸時代には北前船の発達で、大坂から北海道までの品が
能登をはじめ日本海の多くの港で売り買いされた。
また能登半島沖は、南下してくるリマン海流(寒流)と、
北上してくる対馬海流(暖流)が交わるため、とれる魚も豊富。
漁業が栄えたのは言うまでもない。
そのほか珠洲には、塩田に海水を汲み上げて塩をつくる
「揚げ浜式」という古い製塩法がいまも受け継がれる。

10のエリアで作品が展開されている奥能登国際芸術祭。海岸沿いに回れるようになっている。

「塩田」という名前にも浅からぬ縁がありそうな、国際的に活躍する塩田千春『時を運ぶ船』。実際に塩づくりに使われていた古い船を使って作品をつくり上げた。

能登には大陸からさまざまなものが流れ着く。それらを「漂着神」として祀る風習が、日本海沿岸に見られるという。実際に海岸に打ち上げられていたものを使ってつくった深澤孝史の作品『神話の続き』。
また能登を語るうえで欠かせないのがお祭り。
キリコと呼ばれる巨大な灯籠を引き回す「キリコ祭り」は、
夏から秋にかけ、能登の各集落で行われる。
芸術祭期間中も、珠洲だけでも多くの祭りが見られそうだ。

芸術祭会期中には多くの集落でキリコ祭りが行われる。芸術祭開幕の夜には、特別にキリコが登場し、オープニングを飾った。

港にある使われなくなった建物を改装した「さいはての『キャバレー準備中』」では、EAT & ART TAROが食にまつわる作品を展開。昼間は準備中のキャバレー、夜はお酒と料理が楽しめる店に。設計は、建築家の藤村龍至が手がけた。
圧倒的な自然と、豊かな特色ある文化が残る土地ゆえに、
アーティストたちも刺激されたのだろう、多彩な、力ある作品が出揃った。

穏やかな木ノ浦の海。

鴻池朋子は、驚くべき場所に作品『陸にあがる』を設置。遠くから眺める作品だが、そのポイントに至るまでの道のりも含めて鑑賞体験となる。

さわひらきは、祖父母がかつて珠洲に暮らしていたという、珠洲と縁のある作家。今回は映像作品のほかインスタレーションなど、いくつかの部屋を使って多層的に作品を展開。
総合ディレクターの北川フラムさんは、新潟県越後妻有エリアの〈大地の芸術祭〉や、
瀬戸内海の島々を舞台にした〈瀬戸内国際芸術祭〉を成功させてきた、
言わずと知れた地域芸術祭の第一人者。
開会式では「あとのまつりになる前に、アートの祭りを」と
しゃれをまじえて挨拶したが、「さいはて」が最先端になり得る、
ポテンシャルを持つ土地での芸術祭開催に、大きな可能性を感じているようだった。

小山真徳の『最涯の漂着神』は破船とクジラをイメージした作品。クジラの肋骨のように見えるものは流木でつくられている。

開催中の第57回ヴェネチアビエンナーレ日本館の作家に選出された岩崎貴宏は、2トンもの塩を使って作品を制作。家の中に枯山水のような塩の庭が広がる。
珠洲にまつわるストーリーを作品に『奥能登口伝資料館』
奥能登の圧倒されるような風景の中で展開される作品も多々あったが、
大型な作品でなくても、珠洲の人たちと関わりながら
つくり上げられている作品にも注目したい。
東京・吉祥寺を拠点に活動するアーティストグループ〈Ongoing Collective〉の
『奥能登口伝資料館』は、10人の参加作家が、
珠洲の小泊(こどまり)という地区の人たちにリサーチしてさまざまな話を聞き、
それをもとに映像やインスタレーションなどの作品を制作。
保育所だった施設を使って作家それぞれが作品を展開している。

〈Ongoing Collective〉の参加作家のひとり柴田祐輔は、珠洲で漁業に従事するインドネシア人に出会い、彼らが暮らす家「パンダワハウス」を再現した作品を制作。インドネシアの人たちから見た珠洲が浮かび上がる。
口伝とは、語り継がれてきた民話や伝承のこと。
ただ、ここでいう“口伝”は昔話や言い伝えばかりではなく、
現代を生きる珠洲の人たちのさまざまなエピソードや思い出だったりもする。
作家たちは地元青年団の草刈りに参加し、その後の飲み会や偶然の出会いなどにより
それらのストーリーを収集し作品に昇華させていったそう。
といっても、その話がストレートに表現されているわけではないのが、
この“資料館”のおもしろいところ。
10人のアーティストの作品はまったく様相が異なるが、
それらすべてに、何らかのかたちで珠洲の要素が表れているはずだ。

小鷹拓郎は『村にUFOを誘致する』という映像作品を制作。地元の人に出演してもらい、彼らの話からさまざまなキーワードを「UFO」に置き換えて物語を構築。現実とフィクションがないまぜになった作品ができ上がった。