連載
posted:2016.9.6 from:愛知県名古屋市ほか genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。
writer profile
L PACK.
エルパック
1984年生まれの、小田桐奨と中嶋哲矢によるアーティストユニット。2007年より活動スタート。最小限の道具と現地の素材を臨機応変に組み合わせた「コーヒーのある風景」や、前回のあいちトリエンナーレではビジターによるビジターのためのスペース〈VISITORCENTER AND STANDCAFE〉などを展開。各地のプロジェクトや展覧会にも参加。
text: 小田桐奨
3年に1度開催され、現在開催中の国際芸術祭〈あいちトリエンナーレ2016〉。
3度目となる今回は、名古屋市、岡崎市、豊橋市で開催されています。
参加アーティストや広報チームが、その作品や地域の魅力を紹介していくリレー連載です。
僕たちL PACK.(小田桐奨と中嶋哲矢)は、わかりやすく言うと
「人が集まる場所をつくること」を活動にしています。
例えば廃旅館を改修しカフェと展示空間にコンバージョンしたスペース
〈竜宮美術旅館〉や、埼玉県の森に佇む一軒家を
若いアーティストたちの活動拠点にした〈きたもとアトリエハウス〉。
そして、前回のあいちトリエンナーレ2013では、
まちの人やアーティスト、来場者が気軽に集える場所
〈VISITORCENTER AND STANDCAFE〉をつくりました。
今年のあいちトリエンナーレでは『“E”についての設計(Scheme for the “E”)』
というタイトルのもと、エデュケーションプログラムのための
3つの部屋と4つの拠点を設計しました。
普段の活動と同じように人が集まりとどまりたくなる場所をつくることを考えながら、
制作を担当するインストーラーチームと
運営を担当するエデュケーションチームと協働し、みんなのアイデアをかたちにして。
ここでは前回に引き続き、設営からの12日間の
僕たちの旅路を振り返ってみたいと思います。
滞在先近くには古くからやっている喫茶店がたくさん残っている。
今日も近くの喫茶店でモーニング。
水族館も近く、休日ということもあり、落ち着いた内装の店内はほぼ満席で、
地元の人と観光客とが混じって不思議な雰囲気だった。
コーヒーについてくるパンの種類が選べる店だったので、今日は小倉トーストを。
車を借りてホームセンターへ買い出しに出かけた。
ついでに近くにリサイクルショップがあったので、そこでも使えそうな素材を探す。
リサイクルショップは各まちに行くごとになるべく行くようにしている。
リサイクルショップに行くと、なんとなくではあるけれど
そのまちの特徴のようなものが見えてくるのである。
例えば、東京の世田谷にあるリサイクルショップのファッションコーナーは、
東京ど真ん中だけあって掘り出さなくてもいいものがゴロゴロしていたりするし、
地方都市の国道沿いなんかにあるところに入ったりすると、
これなんで置いてあるの!? みたいなものが格安で売られていたりする。
この日行ったのはゲームやアニメが主の店だったので、
そんなにナゴヤらしさというものはわからなかったけど、
オープン前から待っている人がいて、
会社が休みで気合い入ってるのかなぁなんて考えたりした。
好きなことに熱中するのはいいことだ。
午後、友人のアーティストが子どもを連れて
制作途中のファクトリーに遊びに来てくれた。
子どもは目の前にあるものに素直に反応してくれるからちょうどうれしい存在になった。
「ライブラリー」には展示資料が、キャラヴァンファクトリーには
ワークショップで使うたくさんの素材や工具が運び込まれた。
愛知芸術文化センター12階の通路に設置するバナーが届いたので、看板を制作する。
ひとりではできない作業も複数人でやればどうってことない。
このキャラヴァンファクトリーはそんな当たり前のことが
当たり前に気づける場となってほしい。
外に食べに行く時間がもったいないということで、今日から昼食を弁当にした。
愛知芸術文化センター付近はオフィスが多いので弁当屋さんも多いし安い。
もっと早く気づけばよかった。
うなぎ弁当をひとつだけ買ってみんなであみだくじをやった。
今回のチームはいつでもなんでも楽しめるメンバーなのでとても気持ちがいい。
うなぎはミラクルファクトリーの谷 薫さんがゲットした。
12階の作業後、ライブラリーの仕上げ作業を行う。
港 千尋芸術監督や出展作家の森北 伸さんが覗きに来てくれる。
いよいよもうすぐ、みんなが待ち望んだあいちトリエンナーレが始まるのだ。
そんな実感が少しずつ湧いてきた。
名古屋市美術館への搬入からこの日は始まる。
名古屋市美術館のエスタシオンは駅の切符のイメージで、
クエスチョンのアンサーが1枚1枚紙に書いてある。
100枚以上が三角くじのように透明なボックスの中に入っているので、
知りたい答えにはなかなかたどりつかないだろうけど、
すべてスムーズにいかないのも旅の醍醐味だから、それを楽しんでもらいたい。
午後は岡崎の残りの制作、そして豊橋の調整へ向かった。
前回馬鹿にされたので今回は高速道路を使って。
それでも時間がギリギリになってしまい、岡崎へはまた翌日も作業に行くことにした。
美術館に戻り、前日につくった看板を通路に置いてみる。
この日までに何枚も何枚も描いてきたイメージどおりの風景が目の前に現れている。
むしろみんなの力でイメージ以上のものが次々と現実の世界につくり出されていく。
この感覚はそうそう簡単に味わうことができるものではない。
本当に僕たちは人に恵まれている。キャラヴァンファクトリーで使うピンボールも、
ワークショップの素材で仕上げをしてとても楽しくできあがった。
僕たちが生きているこの時代はとても恵まれている。
この場所にだって1回のワークショップでは使い切れないくらいの素材があるし、
世界は一生をかけても知り尽くせないほど
たくさんの未知なる「モノ」で埋め尽くされている。
それらを組み合わせたらおもしろくて楽しくて見たことのない
新しいものがなんだってつくりだせるかもしれない。
そんなことを子どもたちが気づいてくれるかもしれない空間が、
またひとつできあがった。
2か月半後、すべてなくなってしまうのが惜しいくらいのすばらしい空間。
この空間もそうだし、ビルや車や道路や地下街まで、
まちのなかで眼に映るほとんどすべてのものをつくってしまう人間って
本当におもしろい。
人間はこれからどんな旅をして、どんなまちをつくっていくのだろうか。
そしてこの場所で子どもたちはどんな楽しいものをつくり出すのだろうか。
それを想像するだけでお酒が飲める。
オフィスでは終電間際だけどまだ大勢のスタッフの人たちが仕事している。
明後日はいよいよ内覧会。
Page 2
愛知県美術館10階のエスタシオンも完成した。
この場所はほかのエスタシオン拠点とは少し異なり、
トリエンナーレ作品をより楽しむためにエデュケーションチームが作成した
ツールバッグの貸し出し場所にもなっている。
展示室の中間に位置しているため、少し休んだり、
気持ちを入れ替えるための小さな駅舎のような設えだ。
このデッキに人が腰掛けて休んでいたりしてくれたらいいな。
この日は開店待ちして東急ハンズに向かい、岡崎で使う素材を購入して
前日の作業の続きをするために岡崎へ向かう。
思っていた以上に作業時間がかかってしまったけど、
閉館時間ギリギリでエスタシオンが無事に完成を迎えた。
この場所もなくなるのがもったいないほどいいものができあがった。
ルイ・ヴィトンのディスプレイに使われてもおかしくないくらいかっこいい。
そうなったらいいけど、いまのところは10月23日までしか見られないので
会期中ぜひ見てください。引き出しを引いてください。
つくったスタンプを押してください。(SNSにアップしてね!)
これでついに『 “E”についての設計(Scheme for the “E”)』はすべて完成した。
なんともいえない達成感と高揚感を、駅へ向かう道中味わった。
名古屋に戻り、ミラクルファクトリーたちが
先に世界の山ちゃんで始めていた打ち上げに参加した。
この日は本当に本当においしいビールと手羽先だった。
内覧会とレセプションパーティー当日。
横浜から家族が来たので豊橋で合流し、一緒に豊橋会場をまわる。
会場のひとつ、開発ビルで展示されているいくつかの作品、
元ホールのスペースを使い映像作品を展示している石田尚志さんと、
暗闇で光が揺れる久門剛史さんの作品、
東海道をおもしろおかしく旅する映像とインスタレーションの小林耕平さんが、
場所の力含めとても印象に残っている。
2歳の息子は触りたいけれど触れない美術作品のもどかしさを味わう。
豊橋会場はひとりの作家が空間を大きく使っているので見応えがある作品が多いし、
会場になるのが初めてということもあるけれど、まち自体、
特に僕たちの興味の対象である建築にもとても魅力があるまちのような印象があるので、
いつか時間をとってゆっくり探索してみたい。
夕方から名古屋に移動してレセプションパーティーに参加した。
参加作家として呼ばれてステージに登ると、
それまでいたフロアとはまったく違う世界が目の前に広がっていた。
僕たちは間違いなくあいちトリエンナーレ2016に参加している。
そう強制的に思わされるほどの多くのカメラが向けられ、
みんなの視線が注がれている。気恥ずかしいけど素直にうれしい。
シャンパンを数杯飲んで誰なのかよくわからない人に
ビールを何杯か注がれて飲んでいるうちにパーティが終わり、
長者町で開催されている2次会に参加した。
そこは3年前にお世話になった長者町の社長さんたちが中心に
つくりあげたウェルカムパーティだった。
今年も展示会場の協力やさまざまなサポートで精力的に動いて盛り上げていた。
名古屋というまちは本当にパワーがある。
展示会場にもなっている〈喫茶クラウン〉のママにも久しぶりに再会。
前々回の2010年に浅井裕介くんが展示をした名残がお店にまだ残っている。
今年は今村文さんが展示をしていて、ママはすてきな作品に囲まれてうれしそうだった。
3次会は、あいちトリエンナーレをはじめ名古屋を拠点に美術作品の撮影をしている
カメラマンの怡土鉄夫さんが始めたバーへ行ってみることにした。
何やら3年前のVISITORCENTER AND STANDCAFEのようなスペースが
必要だと思ったらしく、完全に自主的にオープンさせてしまったようだ。
参加作家の森北 伸さんや〈403architecture dajiba〉の辻 琢磨くん、
ミラクルファクトリーなど大勢で朝方まで飲んで、
下階の店でハマグリーラーメンで〆て記念すべき日を終えた。
朝はきちんと起きてホテルでしっかりと朝食をとり、
いよいよ始まったあいちトリエンナーレへ向かった。
12階へ向かうと、キャラバンファクトリーもダミコルームも
すでに多くの親子連れで盛り上がっていた。
息子も含め、子どもたちが楽しんでいる風景がいまここにあるということが
とても重要なことだなぁとあらためて思った。
子どもたちには未来があるというけど、その未来をよくしてあげられるかどうかは
間違いなく僕たち大人にかかっている。
子どもたちには、大人が本気で楽しんでいるところや
楽しんでつくった場所の空気を感じてもらいたい。
夜は豊橋で石田尚志さんのプロジェクションライブを見学。
息を飲むほどの完成度にただただ圧倒される30分間。
いつかあんな圧倒的な存在感のある作品にもチャレンジしてみたい。
10月の3連休、埼玉県立近代美術館でイベントを開催するので、
そこでチャレンジしてみることができるかもしれないな。
ライブを見たあと、路面電車に乗って豊橋でのオープニングパーティー会場に向かった。
受付では作家が胸につけるバラの花飾りや手首につけるケミカルライトが渡され、
地元の酒造メーカーによるお酒、オープンデッキ、豪華な食事などなど、
前日のクラシカルなホテルで行われたレセプションパーティーとはうって変わって、
現代的で開放感のあるパーティーでとても心地よい。
僕は最終の新幹線を予約していたため、30分ほどしかいられなかったけど、
友人たちとその場を存分に楽しんだ。
これで、ひとまず僕たちのあいちトリエンナーレの旅路は終わった。
L PACK.のこれからの旅はどうなっていくのだろう。
未来を見据えて、また新たな旅に出ようと思う。
旅はいつでもどこからでも始まるのだから。
information
あいちトリエンナーレ2016
会期:2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日)
主な会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか(長者町会場、栄会場、名古屋駅会場)
豊橋市内のまちなか(PLAT会場、水上ビル会場、豊橋駅前大通会場)
岡崎市内のまちなか(東岡崎駅会場、康生会場、六供会場)
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