連載
posted:2014.5.26 from:千葉県市原市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。
profile
NAKAZAKI Tohru
中崎透
なかざき・とおる●美術家。1976 年茨城県生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科博士後期課程満期単位取得退学。現在、水戸市を拠点に国内のさまざまな地で活動。看板をモチーフとした作品をはじめ、パフォーマンス、映像、インスタレーションなど、形式を特定せず 制作を展開している。展覧会多数。2006 年末より「Nadegata InstantParty」を結成し、ユニットとしても活動。2007 年末より「遊戯室(中崎透+遠藤水城)」を設立し、運営に携わる。
中房総国際芸術祭「いちはらアート×ミックス」のメイン会場のひとつ、
旧里見小学校を改装したIAAES(Ichihara Art/Athlete Etc. School)。
ここでアーティスト中崎透さんが、さまざまな講師たちを招き
「NAKAZAKI Tohru HOMEROOM」を開催。
そのようすや芸術祭の風景を、中崎さんと仲間たちが5回にわたりレポートします。
こんにちは、中崎です。早いもので、寒空のもとで準備を始めた
中房総国際芸術祭「いちはらアート×ミックス」は、
のんびりとした初夏の日差しの中で無事閉幕しました。
この52日間で9本のイベントと、2本のレジデンス、
自分の展示作品も含めると12本の企画を担当させていただき、
なんとか事故もなく終えることができて正直なところホッとしています。
成功かどうか、まあ、何を持って成功とするかというのは難しいところですが、
現場での感触としてはなかなか好評だったようで、
関わってくださったアーティスト、スタッフ、サポーターのみなさん、
足を運んでくださったみなさん、本当にありがとうございます。
とりあえず、終盤のホームルームのレポートを。
GWの4連休、前半の5月3日、4日は
藤井光さんのワークショップ「校内暴力のハードコア」。
タイトルやアーティストの作成した広報イメージから、
だいぶ過激なものを想像したりもしましたが、
丁寧な映像に関するレクチャーに始まり、途中野外に場所を移して撮影に入ったり、
終始穏やかな空気でワークショップは進んでいきました。
映像制作のワークショップには手慣れている藤井さんですが、
今回は参加者を受講生といった立場ではなく、
共同制作者に近い立ち位置で関わるための枠組みを試したい、ということで
お互い手探りで進む部分も多く、リラックスしながらも緊張感のある有意義な時間でした。
1日目の演出編、体育館裏の草むらでカメラをまわします。
それぞれが過去の体験談を話したりするなか、
藤井さんのいくつかの言葉で場の空気がその都度変化します。
2日目の編集編、しばらく使われていないプールサイドで、
編集後の映像のイメージを意識しながら撮影に入ります。
アイデア出しを重ね、最終的にひとりの体験談をもとに
複数の人間がその出来事について話す、といった撮影方法を選択しました。
トークでは、この夏に公開を予定している、藤井さんの監督した
南相馬の映画館をモチーフにしたドキュメンタリー映画『ASAHIZA』の話を中心に、
東日本大震災の以前以後の活動を紹介していただきました。
今回の「校内暴力」というキーワードは、
たぶん「校内暴力」自体を問題としているわけではなく、
そこにまつわる個人の体験、記憶といったものを、
映像という技法を用いて、どう定着させ、どう他者と共有し、普遍化しうるか、
といった問題と向き合うためのきっかけであり、
震災以降、被災地で多くの個人へのインタビューを重ねていったなかで、
いま現在も藤井さんが試行錯誤していることの一部分に、
少し触らせてもらうような機会となっていた気がします。
4連休後半、5月5日、6日は、珍しいキノコ舞踊団のワークショップ
「カラダと遊ぶ! ダンスの状態で楽しむ!」。
今回は主宰の伊藤千枝さんを含め、6人のダンサーがやって来てくれた
超豪華ワークショップでした。
絶賛運動不足真っ盛りの私、中崎も両日参加させていただいたのですが、
楽しくてハード。普段意識しない身体の部分をたくさん発見しました。
伊藤さんの進行もすばらしく、ゆっくりとしたウォーミングアップのつもりが
いつの間にか面白おかしく過酷なポーズをとらされていたりしました。
離れて様子を見ていたスタッフの話だと、それ自体がダンス公演のようにも見える、
といった感じで、子どもから年配の方まで心地よい汗をかきました。
ワークショップ前の呼び込みダンスも披露していただきました!!
ワークショップ後に開催された20分ほどのショーイング。
さっきまで一緒にワークショップをしていたダンサーの皆さんが、
プロフェッショナルの舞台を見せてくれました。
本当にすばらしくて、両日100人前後の方が楽しみました。
演出で一部参加者が乱入してみんなで一緒に踊るシーンがあったり、
体育館ステージの緞帳が上がり伊藤さんのソロシーンがあったり、
20分と思えない濃密な時間となりました。
最終の週末、5月10日は辺口芳典さんのワークショップ「ヒップホップな作文の時間」。
約1時間のワークショップを3時間で3回り立て続けに開催、
そのたびに最後には辺口さんの新作の詩が披露されるという、
なかなかハードで贅沢なワークショップでした。
タイトルで掲げた「ヒップホップ」という言葉は、
いわゆるみんながパッと想像する「ヒッピホップ」のことを指すのではなく、
何もないなかで、それでも身の回りにある一見なんでもないものを使って、工夫して、
それを面白がる、身体を使って生まれてきたカルチャーであること、
そのなかでも今回は、サンプリングやリミックス、といった作法を詩に応用して
遊んでみること、自身の生い立ちも含めて熱血レクチャーから始まりました。
奇遇にも会場となったスペースに設置された中崎の作品も、
里見小にあった一冊の本『モモ』から引用したテキストでつくられており、
せっかくなので、ということで最初の練習用のテキストとして『モモ』の
あとがきの部分を使用してくださったりして、ちょっとしたコラボレーションも。
最後にはそれぞれ制作した詩を朗読して発表する場面も。
何気なく選んだだけの言葉が、声に出してみるとその人だけの詩になってしまう、
そんなことに、朗読する本人が声に出してみて初めて気がついて戸惑う、
みたいなことも何度かあったりして、僕自身も発見の多いワークショップでした。
というかんじでホームルームのプログラムも終わり、
翌日の最終日の閉会式ではIAAESの校庭に350人ほどが集まり、
各会場のメンバーがアトラクションを披露したり、
市長や北川フラムさんからのスピーチがあったり、
なんだかんだで深夜まで打ち上がったりしました。
みなさん、本当にお疲れ様でした!!
さて、そんなこんなで撤収も終わり、水戸に戻ってきたわけなんですが、
芸術祭やホームルームを振り返って少し書いておこうと思います。
会期中、滞在している時間が長かったので、
展示だけでなく公演やイベント、飲食だったり、全部は網羅できていないながらも、
ほかの作家と比べて芸術祭のいろいろな部分を見て回ることができたのですが、
正直なところ、なかなかよくできた芸術祭だと思いました。
僕たちの関わったIAAESは比較的準備期間が短く、
メイン会場のひとつとしてほかの会場よりも
たくさんの観客が足を運ぶエリアだったこともあり、
地元の方だったり、顔が見える限られた人たちと深くコミットする状況というのは
あまりなかったなあ、という印象なんですが、
会場やプロジェクトごとに役割や色があるように、各会場や作品のなかで、
アーティストが地元の人たちと長い時間をかけて一緒につくることを楽しみながら
進めている様子をあちこちで見かけて、なんだかいいバランスだなと感じました。
もちろん、運営なども含めていいことばかりではありませんが、
この地域での初めての芸術祭ということもあり、準備不足もあれば、
一体どんなことをするんだろう、と手探りなことも多かったし、
問題はいろいろなところでたくさんありつつも、それが一回目というやつで、
今回の開催があったことで、なるほど、こういうことか、と
だいたいのイメージを共有した人が、地元でどういう関わり方にしろ
何百人、何千人とできたということが大事なことであり、
それはよく思う人もいれば悪く思う人もいて、
でもだからこそ現実的な議論を始めることができるのではないかなと思います。
僕たちアーティストの立場からすると、たいてい地域の方には最初、
偉い芸術家の先生、もしくはわけわからんニーチャン、といった
どちらかに見られることが多いんですが、それってどちらも意外とやりにくくて、
でもだんだん顔なじみになってきて、
よくわかんないけど金なさそうな若いやつ、もしくは中年が一生懸命何かやってんな、
これ、うちで採れた野菜だけど食うか、そうかうまいか、
お、意外と面白いことやってるじゃねえか、
みたいなことがよくあります。
それはなんだかいい流れで、芸術かどうかはよくわからないけど、
そういうやつらがまたやってくるのは別に悪い気はしないな、
という空気感みたいなもの。そういうものが会期の終わり頃にあちこちで漂っていて、
それはアーティストはじめそれぞれの現場に関わった人たちが、
丁寧な仕事と地域への接し方をしたからなんだろうと思いました。
先日、芸術祭の動員数が8万7000人と発表されました。
目標動員数を20万人と設定していたので、大きく下回ったようです。
ですが、その数とは別なところで地域にとって開催の意義というか
得たものは大きかったようで、実行委員長であった市長は、
次回開催に向けて意欲的である、といった記事が出ていました。
芸術祭の評価というとき、目に見える数字として
動員数はひとつの基準とされるのですが、
実のところその数は実際の内容というより広報戦略に左右されることが多く、
そんなにあてにならないな、という印象を僕個人は持っています。
一方で、そのような数字になりにくいような出来事が、
ここ中房総では本当にいろいろな場面で多数起こっていました。
これからそういった出来事を誰がどのように評価し、
さらにはその種を拾い上げて育てていくなかで、
また数年後にこの中房総で開催されるであろう芸術祭に
どのように繋がっていくのか、とても楽しみです。
ということで、「いちはらHOMEROOM通信」もこれが最終回となります。
僕たち自身、試行錯誤しながら企画を進めていくなかで、
寄稿するためにその都度言葉にしていくことで
思考や実践を整理するいい機会となりました。
みなさま、お付き合いいただきありがとうございます。
information
IAAESプログラム
NAKAZAKI Tohru HOMEROOM
会場:IAAES 旧里見小学校(千葉県市原市徳氏541-1)
Vol.1 山城大督《映像芸術実験室〜時間を操ろう〜》
Vol.2 テニスコーツ&YOK.《School PICNIC》
Vol.3 下道基行《撃つか撃たれるか/Dead or alive》
Vol.4 遠藤知絵×木下真理子《あてはまらないところで、自分らしく生きてみる》
Vol.5 アサノコウタ《教室のなかのちいさな教室》
Vol.6 環ROY×蓮沼執太×U-zhaan《体育館ライブ》
Vol.7 藤井光《校内暴力のハードコア》
Vol.8 珍しいキノコ舞踊団《カラダと遊ぶ! ダンスの状態で楽しむ!》
Vol.9 辺口芳典《ヒップホップな作文の時間》
◎「HOMEROOM/After school プログラム」
Vol.1 友枝望
Vol.2 松本美枝子
http://homeroom18.exblog.jp/
https://www.facebook.com/homeroom.nakazaki
information
ICHIHARA ART × MIX
中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス
2014年3月21日(金)~5月11日(日)
メイン会場:千葉県市原市南部地域(小湊鐵道上総牛久駅から養老渓谷駅の間)
連携会場:中房総エリア(茂原市、いすみ市、勝浦市、長柄町、長南町、一宮町、睦沢町、大多喜町、御宿町)
http://ichihara-artmix.jp
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