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いちはらHOMEROOM通信 vol.4

ローカルアートレポート
vol.054

posted:2014.5.2   from:千葉県市原市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

profile

SATOMURA Mari

里村真理

さとむら・まり●神奈川県出身。早稲田大学社会科学部卒業、立命館大学大学院文学研究科修士課程総合科学インスティテュート言語表象文化領域修了。ドキュメンタリー番組のADをしている頃、アーティスト日比野克彦氏の水戸芸術館とのワークショップに出会いアートプロジェクトに衝撃を受ける。その後、日比野克彦氏のアシスタント、ゼロダテアートセンター(秋田県大館市)プロジェクトマネジメント、十和田奥入瀬芸術祭(青森県十和田市)制作コーディネーター等、地域をフィールドにしたアートの現場を転々としながら日々勉強中。

credit

撮影:松本美枝子(メインカット)

中房総国際芸術祭「いちはらアート×ミックス」のメイン会場のひとつ、
旧里見小学校を改装したIAAES(Ichihara Art/Athlete Etc. School)。
ここでアーティスト中崎透さんが、さまざまな講師たちを招き
「NAKAZAKI Tohru HOMEROOM」を開催。
そのようすや芸術祭の風景を、中崎さんと仲間たちが5回にわたりレポートします。

はじめまして、「NAKAZAKI Tohru HOMEROOM」スタッフの里村です。
桜の頃も過ぎ、渡る風も爽やかな季節になりました。
「いちはらアート×ミックス」が開催されている南市原でも、
水の張られた田んぼは空の雲を映し、若々しい苗がちょこんと顔を出しています。
芸術祭に来られるお客さんも増え、里山に人の行き交う風景が見られる今日この頃。
ここでは芸術とともに日常や毎日の生活が続いています。

芸術祭に限りませんが、私自身、旅先でその地の暮らしに触れたり、
そこで暮らす人に出会ったりすることで、
その地に培われてきた時間や人の痕跡を感じることに幸せを感じます。
それぞれの人がひとりひとり、作品やその土地との出会い方を見つけられること。
芸術祭の面白さは、ここを訪れた人の数だけあると思うのです。
ですので、この連載がそんな出会いのヒントになることを願いつつ、
芸術祭の会場やその地域のことを少し紹介したいと思います。

しゃわしゃわと鳴くカエルの合唱をBGMに、IAAESを飛び出して、まずは養老渓谷へ!
NAKAZAKI Tohru HOMEROOMのメンバーも登場します~。

養老渓谷エリア

養老渓谷は、紅葉狩りで賑わう観光地。
それがこの土地の「オン」だとしたら、「オフ」の時間もとってもいいのです。
「オフ」とされてきた時間を「オン」に転換したり、
あるいは「オフ」のまま触れられるようにするのが芸術祭かなと思います。

養老渓谷駅裏手の坂を上ると、かつて小学校の校庭だった気持ちのいい広場が現れます。
いまは、ゲートボール場などがある住民の憩いの場所になっています。
一画には、キャベツが芽を出している小さな畑の下にモグラも暮らしているとか。
ん? モグラ?

開発好明「モグラTV」。会期中毎日(木曜休み)13:00〜14:00に日替わりのゲストを招いて、ustream番組「モグラTV」を生放送。これまでの放送もアーカイブされています。芸術祭参加アーティスト、地域のお父さん、市長までさまざまな方をお迎えしての放送は必見。

坂を下りて、崖に寄り添うように家が並ぶ道を抜けて鉄橋を渡ると、
「アートハウスあそうばらの谷」に辿り着きます。

HOMEROOMスタッフの林暁甫さんからの推薦の辞!

「アートハウスあそうばらの谷」は、
「いちはらアート×ミックス」に来たならば忘れずに立ち寄りたいところ。
ここには、大巻伸嗣さんの作品「おおきな家」が展示されており、
これがすばらしいのです。まっさらな気持ちで作品と出会ってほしいので、
敢えて画像や内容は紹介しません。
特に最後の作品は時間をかけてじっくり丁寧に体験してほしい。
その価値は保証します。(林)

作品鑑賞後は同じ敷地内にある「山覚俵家」で、腹ごしらえをオススメします。地域で採れた野菜とご飯を混ぜる「混ぜご飯」は、アートをめぐる旅にはうってつけです。

月崎エリア

月崎駅の詰所だった建物を苔で覆い、「森ラジオステーション」として
生まれ変わらせた木村崇人さんの作品に入ってみましょう。
扉を開いて中へ入ると、晴れの日には空間いっぱいに
木漏れ日と森の匂いが満ちています。木漏れ日の暖かさに包まれ、
いつしか森に溶け出していくような時間を過ごせると思います。

木村崇人「森ラジオステーション」。森との接点を思い出すきっかけがいま本当に必要だと思っているんだ、という木村さんのお話が印象的でした。

月崎駅を背に左へずっと進んでいくと「いちはら市民の森」があります。
その入口にある藁の家、ここが岩田草平×プロマイノリティ「サンタルの食堂」。
中は想像以上に広い快適な空間になっていて、藁のいいにおいに満ちていて気持ちいい!

「サンタルの食堂」サンタルカレーセット。

「サンタルの食堂」では、チキン、野菜、フィッシュの3種のカレーを味わえます。
個人的にフィッシュのサンタルカレーがお気に入りです。
ほかにも、サリーを着たり、「村民証」をつくったりする体験プログラムもありますよ。
村民証で使っている紙は、インドから持ってきたものだそう。紙マニアは要チェック!

月崎駅から市民の森への道中、チェーンソーアートを見ることができます。
チェーンソーアートのご紹介は、中崎先生にお願いしました。

市原市在住のチェーンソーアーティストの栗田宏武さんの呼びかけで
3月後半にチェーンソーアート大会を開催。
そのときに全国から集まった達人たちによる
数時間で制作されたチェーンソー彫刻がいくつも並びます。すごいです。
なお、栗田さんの出品作品は高滝エリアの「やもかのなかま」に設置されています。
大会のためにやってきたカーバー(チェーンソーカービングをする人)のみなさんが
我々と同じ宿舎だったので、交流ができて楽しい夜を過ごしました。(中崎)

チェーンソーアートをレポートする、きじとらさんのブログはこちら

月崎駅を背にして右へ進むと「山登里(やまどり)食堂」があります。
竹で組まれたテラスに、屋根から大根が干されて風に揺れているのが目印。
ユニット「とぬま」のおふたりと、シェフのルミちゃんが切り盛りする
アットホームなカフェです。

閉店した食堂「山登里」を改装したこともあり、ご近所さんが親しみを持って訪れたり、お仕事途中に寄った背広姿の人、作業着の人、さまざまな方が立ち寄るオープンな場所になっています。

地場産の食材を生かし、昼はサンドイッチやカレーなど、夜はイタリアンメニューがラインナップ。自家製果実酒や、生姜たっぷりのジンジャーエールなどドリンクも丁寧に作られていて、とにかく全部おいしい! 山登里『夜』食堂は、金土日祝限定。

月崎エリア・番外編

月崎駅周辺は人の手が入ったことで自然を感じられる場所がいくつもあります。
駅の近くの道の脇にふと現れる「素掘りのトンネル」。
壁面から浮かび上がる凹凸に、道を通すことの執念を感じたり、
人間は移動する動物だなあなんて思ったり。
トンネルをくぐって先へ進むと、静かな山の中に佇むことになり、
タイムスリップしたような錯覚に襲われたり。トンネルはみごとな舞台装置です。

里見、月崎、養老渓谷付近は街道を一歩入ると、変化にとんだ地形に寄り添いながら
工夫を重ねてきた集落に出会うことができます。
小高い丘から見下ろすと、この地は箱庭みたい。
時間があったら自転車に乗って、ときに道に迷ったりしながら、
複数の風景と出会ってほしいと思います。

いかがでしたか?
それでは後半戦に入ってきたホームルームのようすをダイジェストで。

まだまだ続くホームルーム

4月26日(土)、27日(日)には福島市を拠点に活動する建築家、
アサノコウタさんによるワークショップ「教室のなかのちいさな教室」と
トークを開催しました。

学校らしい「鉛筆」と「消しゴム」というシンプルな素材を使って、教室の中にコンパクトな教室を出現させました。

鉛筆と消しゴムで組む立方体は案外ユラユラして、
ワークショップ中に何度も崩壊の危機を迎えたりもしたのですが、
それが偶然に会場で出会った人たちを結びつけるきっかけとなったり。
「いままででいちばん楽しい」と一日中黙々と立方体をつくり続けた男の子や、
アサノさんのアシスタントとしてパーツの鉛筆をどんどん削り出してくれる女の子など、
みんなを主役にしてくれるアサノさんの人柄と、
部屋をつくるという人間の本能をくすぐられて(?)
一日中賑やかなワークショップでした。

トークでは「建築以下の設計」をコンセプトに活動する
アサノさんの仕事を紹介していただくとともに、
聞き手の中崎先生とも一緒に関わっている「プロジェクト FUKUSHIMA!」についても
面白く、ときにはシリアスにお話いただきました。

©MATSUMOTO Mieko

©MATSUMOTO Mieko

4月29日には、体育館を会場に環ROYさん、蓮沼執太さん、U-zhaanさんによる、
フリーセッションの1時間半、「体育館ライブ」を開催!!

左から、環ROY、U-zhaan、蓮沼執太。©MATSUMOTO Mieko

ラップ、シンセサイザー、タブラの異色の組み合せで、
即興でリリックを紡ぎ出していく環さんと、
寄り添いながらも音楽をつくっていく蓮沼さん、U-zhaanさん。
音楽もMCもみごとな駆け引きでかっこ良くも伸びやか、
クールでありつつアットホーム。
中崎先生の絶妙な空間づくりもあって最高に心地いい時間でした。
体育館の壁面にかかっている里見小学校校歌を即興で歌ったり、
なんと、お客さんの中に里見小学校の卒業生がいて実際の校歌が判明したり。
小さいお子さんから年配の方まで、学校という会場ならではの幅広い年齢層のお客さんが、
本当に楽しそうにしていたのがとても嬉しいライブでした。

©MATSUMOTO Mieko

©MATSUMOTO Mieko

©MATSUMOTO Mieko

©MATSUMOTO Mieko

©MATSUMOTO Mieko

それではみなさん、ゴールデンウィークは市原で会いましょう!!

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IAAESプログラム
NAKAZAKI Tohru HOMEROOM

会場:IAAES 旧里見小学校(千葉県市原市徳氏541-1)
◎Vol.7 藤井光《校内暴力のハードコア》
5月3日(土)13:00~16:00 ワークショップ
5月4日(日)13:00~16:00 ワークショップ、16:30~18:00 トーク
◎Vol.8 珍しいキノコ舞踊団《カラダと遊ぶ!ダンスの状態で楽しむ!》
5月5日(月・祝)14:00~15:30 ワークショップ、16:00~16:20 ショーイング
5月6日(火・祝)14:00~15:30 ワークショップ、16:00~16:20 ショーイング
◎Vol.9 辺口芳典《ヒップホップな作文の時間》
5月10日(土)13:00~16:00
◎「HOMEROOM/After school プログラム」Vol.2
松本美枝子《スライド》
4月19日(土)~5月11日(日)9:30~17:00
http://homeroom18.exblog.jp/
https://www.facebook.com/homeroom.nakazaki

information

ICHIHARA ART × MIX
中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス

2014年3月21日(金)~5月11日(日)
メイン会場:千葉県市原市南部地域(小湊鐵道上総牛久駅から養老渓谷駅の間)
連携会場:中房総エリア(茂原市、いすみ市、勝浦市、長柄町、長南町、一宮町、睦沢町、大多喜町、御宿町)
http://ichihara-artmix.jp

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