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瀬戸内国際芸術祭 2013
豊島「島キッチン」

ローカルアートレポート
vol.044

posted:2013.9.5  from:香川県小豆郡土庄町  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●東京都出身。エディター/ライター。美術と映画とサッカーが好き。おいしいものにも目がありません。

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撮影:田子芙蓉

瀬戸内国際芸術祭が開催されている島のうち、
小豆島、直島に続く人口となる約1000人が住む豊島。
島では水がとても貴重な資源だが、豊島は昔から水に恵まれ、
瀬戸内では米がとれる数少ない島のひとつ。
前回芸術祭が開催された2010年に、
美術家の内藤礼と建築家の西沢立衛による「豊島美術館」や、
クリスチャン・ボルタンスキーの「心臓音のアーカイブ」が誕生し、
アートファンにはその名を知られる島となった。
そして今年もまた、芸術祭のシンボル的な作品が豊島に生まれた。
コンセプトから横尾忠則が手がけ、建築家の永山祐子とつくり上げた「豊島横尾館」だ。
古民家を改修し、平面作品だけでなく、
庭園や煙突のような塔でのインスタレーションなど、
横尾の壮大な世界観が表現されている。

世界中の人の心臓音が聴ける「図書館」というコンセプトのクリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」。(写真:久家靖秀)

夏会期からオープンした「豊島横尾館」。既存の建物の配置をいかし「母屋」「倉」「納屋」で構成される。塔のような建物では《滝のインスタレーション》を展示。

竹林の上に船のように浮かぶのは、アメリカのマイク+ダグ・スターンの作品「Big Bambu」。竹の道を歩いて船まで上がることもできる(ツアー制。条件などは芸術祭HPで要確認)。

島の恵みが味わえる場所。

この豊島で、前回の芸術祭からすっかり定着しているのが「島キッチン」。
安部良設計によるレストランで、島でとれた食材を使い、
東京・丸ノ内ホテルのシェフと島のお母さんたちがつくる料理が楽しめる場所。
シェフはレシピ開発や調理指導だけでなく、夏会期は島に常駐し、
お母さんたちと一緒にキッチンに立っている。

島キッチンで店長を務めているのは「瀬戸内こえびネットワーク」の藤崎恵実さん。
もともと豊島出身の藤崎さんは、島を出て岡山県で働いていたが、
島に帰ろうと考えていた頃、2010年に瀬戸内国際芸術祭が開催されることを知り、
島に戻って「こえび隊」に登録した。
「こえび隊」は瀬戸内国際芸術祭のボランティア組織で、
さまざまなかたちで芸術祭の運営をサポートしている。
瀬戸内海近隣はもちろん、全国各地から人が集まり、
週末だけ首都圏から参加する人や、アジアや欧米など海外から参加する人もいる。
年齢層も学生からお年寄りまで多彩で、家族で参加する人もいるという。

通常、こえび隊のメンバーは毎日違う会場で活動するが、
自宅も近い藤崎さんは会期中ずっと島キッチンに携わることに。
会期後も島キッチンは継続し、週末やGWなどに営業することになり、
島に住む藤崎さんが店長となった。
「島に帰って何をするかは決めていなかったんです。
でもなんとなくいつか帰りたいとずっと思っていました。
そもそもこの島が好きなんでしょうね。
自分らしくいられるのが、この島なんだと思います」と笑顔で話す。

半屋外の開放的な空間「島キッチン」。テラスでイベントが行われることも。

この日の「島キッチンセット」(1500円)。鯛を蒸したものに、野菜の天ぷら。島のレモンを使ったぽん酢がかけられている。ラタトゥーユに、鯛のすまし汁。お米は豊島でとれたもの。見た目も洗練され、素材のひとつひとつがおいしい。

マイナスのイメージを乗り越えて。

でも、最初から島にそんなに人が来るとは思っていなかった。
島の人たちはみんな半信半疑だった、と藤崎さん。それもそのはず。
それまで豊島といえば「ゴミの島」というイメージが強かったのだ。

豊島では1970年代から悪質な業者によって有害な産業廃棄物の不法処理が始まった。
住民たちの反対運動もむなしく、香川県が業者に事業許可を出したことから事態は悪化。
島外から運ばれた廃棄物を積んだダンプカーが島内を横行し、
有害物質のせいか、ぜんそくの子どもたちが増えたという。
ぜんそくに関してはその因果関係ははっきりとは立証されていないが、
藤崎さんも子どもの頃はぜんそく持ちだったそう。
また、処分場から猛毒のダイオキシンが検出され、
廃業を余儀なくされた漁業従事者もいた。
やがて住民たちは立ち上がり、
1993年に故・中坊公平弁護士を中心とする弁護団が結成され、公害調停を申請。
2000年にようやく香川県知事が謝罪し、調停が成立するに至った。
廃棄物は現在も直島の溶融処理場で処理が進められているが、
その量は膨大で、処理は2016年までかかるとみられている。

芸術祭には、そんなことを知らずに島にやって来る人もいるが、
なかには島全体がゴミの山だと思っていた人もいた、と藤崎さん。
「そういう面はごく一部であって、本当は自然豊かで緑が多く、
作物もいろいろなものがとれます。
アート作品もすばらしいものがたくさんありますが、
芸術祭がきっかけで島に来てもらって、
ゴミの島というイメージとは全然違うということを実際に感じてもらい、
また豊島に来たいとお客さんに言っていただけるのは、とてもうれしいです」

古い空き家を改築して食堂に。開店した途端、あっという間に席が埋まってしまうことも。

島が、自信を取り戻していく。

島キッチンの厨房で働く地元のお母さんたちのなかに、
藤崎さんのお母さん、藤崎令子さんもいる。
そもそも、藤崎さんに島キッチンの話を教えてあげたのが令子さんなのだ。
最初は、芸術祭なんて自分たちに関係ないと思っていた島のお母さんたちだったが、
総合ディレクターの北川フラムさんたちと話し合っていくうちに、
少しずつ変わっていったという。

「最初は私たちも困りました。でも物事って
そういう強い力がないとなかなか動かないんですよね」と令子さん。
もちろん、東京のシェフと一緒に作業するなんてことも初めて。
「シェフたちは島のお母さんたちが日頃食べているものを
全面的に受け入れてくださり、メニューに加えてくださいました。
島のお母さんたちは、料理本でしか目にしないプロの料理をシェフたちから教えてもらい、
その作り方や野菜の丁寧な取り扱いに感心させられました。
みなさんとてもいい方たちで、お母さんたちの個性を受け止めてくださり、
すばらしい出会いに恵まれたと思っています」

令子さんも、島にこれほど人がたくさん来るとは思ってもみなかったそうだ。
芸術祭が始まって、島も変わってきたと感じている。
「たくさんの人が島に来てくれて、ここがどんなにすばらしい島かということを、
みなさんが私たちに教えてくれました。
私たちがふつうに食べていたものをおいしいと言ってくれて、ああそうなんだ、と。
子どもたちの世代にも、こんなにおいしいものがとれて、景色がきれいで、
安心して暮らせる島なんだと、私たちの口からではなく、
第三者がそれを伝えてくれたことは、とてもよかったとしみじみ思うんです。
子どもたちも、自分たちの住んでいるところはすばらしいんだと、
堂々と胸を張れると思います」

令子さんは、若い世代が島の土地を守りながら農業をやってくれたら、と話す。
豊島はほかの島ではなかなかとれない米がとれる。昔の人たちが開墾した棚田もある。
住民が高齢化して荒れた田んぼも増えてきていたが、
芸術祭で人が来ることによって、景色のためにもと、
少しずつまたお米を作る人が増えてきたそうだ。
「後世も豊かな島でありたい」という令子さんの言葉が印象的。
島の人たちは、文字通り、豊島が豊かな島であり続けることを願っている。

島のお母さんたちが働くことで雇用を生むことにもなっている。

藤崎さん親子。「島の人たちにも、もっとたくさん島キッチンに来てほしい」

information

Setouchi Triennale 2013
瀬戸内国際芸術祭 2013

夏会期 7月20日(土)~9月1日(日)
秋会期 10月5日(土)~11月4日(月)
会場 瀬戸内海の12の島+高松・宇野(直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島、高松港・宇野港周辺)
http://setouchi-artfest.jp/

information


map

島キッチン

住所 香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃1061
営業時間 10:00~16:30(L.O. 15:30)
*芸術祭の会期中は無休、会期と会期のあいだは土・日・月・祝のみ営業
http://shimakitchen.com/

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