odekake
posted:2016.8.26 from:北海道石狩市 genre:旅行
〈 おでかけコロカルとは… 〉
一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。
photographer profile
YAYOI ARIMOTO
在本彌生
フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp
writer's profile
Akiko Yamamoto
山本曜子
ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/
credit
取材協力:北海道観光振興機構
運ばれてきたプレートをひと目見て、周りのお客さんから歓声が上がりました。
やってきたのは輝くほど新鮮な旬の野菜と〈望来豚(もうらいとん)のリエット〉が
ぎゅっと重ねられた〈本日のサンド〉(1200円・セットつき)。
ボリュームも美しさも満点なうえ、
野菜はすぐそばの農園で採れたものばかり。鮮度までお墨つきです。
札幌方面から石狩川を越えて畑の広がる道を進むと、
防雪柵が続く道沿いに小さな看板が見つかります。
石狩の農家の田中勝吉さん一家が営む〈わがまま農園Café〉は、
農園でとれた新鮮野菜をはじめ、
地元産の厳選食材をふんだんに使ったランチメニューが人気を集めるカフェ。
ゆったりと心地よい時間の流れる店内。什器選びは奥さまの民世さん担当。中央の大きなテーブルは改装時大工さんにつくってもらった、ガラスをはずすといろりにもなるすぐれもの。
農園を手がける名古屋出身の田中勝吉さんは、もとは普通のサラリーマン。
「たまたま転勤で初めて来た北海道に魅了されました。
念願だった土いじりをここで本格的にやってみようと思い立ったんです。
54歳で早期退職し、石狩地域で初の新規就農として入植しました」
売りに出されていたこの農地と巡り合った勝吉さんは、
農家となるべく隣家の農家さんに研修を受け、
2001年に〈わがまま農園〉をスタートさせます。
15年間農薬の入っていないわがまま農園。ハウスの中ですくすくと育つかぶはこの日カフェで、素材本来のおいしさが際立ったとろとろな〈かぶのスープ〉に変身。
丁寧に畑を案内してくれた勝吉さん。
無農薬でさまざまな種類の野菜を少しずつ育て、
本州の友人たちへ年間の契約での個別発送と直売とで
野菜を販売してきましたが、勝吉さんが心臓病を経験し、
2015年からは畑の規模を半分ほどに縮小。
ガーデニングの好きな奥さまの民世さんと二人三脚で
2ヘクタールの畑を切り盛りしながら、
石狩の直売所〈とれのさと〉と農園での直売を行っています。
カフェの大きな窓の向こうには、わがまま農園が広がっています。
そして同じ2015年の秋、
もともと身近な人向けのゲストハウスとして使っていた
2階建ての納屋を全面改装し、わがまま農園Caféをオープン。
そのきっかけは、手づくり料理やスイーツで人をもてなすことが好きな民世さんが
昔、まだ幼い娘たちと散歩中に話した
「いつかお店をやってみたいね」という夢にありました。
現在、お店づくりやメニューづくり、料理全般をこなすカフェ担当は、
東京で10年以上シェフやパティシエの仕事に就いていた三女のえみさん。
農園にカフェをつくる話を民世さんに持ちかけられ、石狩の地に戻ってきました。
凛とした立ち姿できびきびと作業をこなすえみさん。盛りつけや色合いにもえみさんのセンスとこだわりが表れています。
「自分のお店を持ちたいとは思っていなかったんですが、
いい機会かなと思って。東京では、頼めばいつでも同じ素材を使えましたが、
ここでは使える時期が限られます。そのなかで地産地消を大切に、
おいしいものを一番おいしい時期に生かして使っていこうと思っています」
野菜料理が得意というえみさんは、地元素材の研究をしながら、
旬のメニューを開発しています。
ひよこ豆を地元産大豆に変えてつくった濃厚なフムスや、
わがまま農園で一番人気のアスパラほか、
グリーントマトなど野菜を使ったスイーツも好評です。
今日のお魚ランチは〈イナダのソテー〉。木の子のソテーとズッキーニを合わせ、タプナードを添えて。ほろりとほどけるイナダに、味つけされた木の子が絶妙に絡みます。
今日のお肉とお魚2種類から選べるランチ〈わがままスペシャル〉(各1200円)は
メインのほかサラダ、スープ、ミニデザート、ドリンクがセット。
お肉はレアな石狩市内のブランド豚〈望来豚〉を、
お魚は同じ石狩市内の厚田で揚がった魚介類を中心に使用。
他にも、生野菜、マリネ野菜などをバランスよく、
しかもたっぷりと盛り合わせた幸せメニュー
〈わがままサラダボウル〉(セットつき1200円)も人気です。
この日は、かぶのスープ。素材の甘みがきいた身体にしみいるおいしさ。
野菜をはじめ、石狩や近郊のこだわり食材は
勝吉さんのつながりで仕入れています。
安心かつおいしい食材を近郊でまかなえるのは、
小規模で多品種を栽培している石狩の土地柄もあるそう。
ちょっと恥ずかしがり屋さんな、ホール担当の民世さん。えみさんに教わりながら接客の修行中なのだとか。手に持っているのは〈わがままサラダボウル〉。
ここに暮らしてから、「好きなことをしているので苦労はしていないです」
ときっぱり語る勝吉さん。
移住や新規就農を希望する若い人たちに、アドバイスしたいことは?
「農家を生業にして以来、悪いときがあっても頑張れるのは、
この仕事が好きだから。自分がこころから楽しいと思えることをやれば、
継続できると思いますよ」
ピカピカのとれたて野菜が破格で並ぶ販売コーナー。
わがまま農園の命名を、「私がわがままだからです」と笑って語る勝吉さん。
そこには「我」の想いの「あるがまま」、
この地に根づいて暮らしを切り拓いてきた強さが見え隠れしていました。
カフェのメニューは時期ごとの素材を使って日替わり、月替わりで提供しているので、
色合いも内容も移り変わります。
季節ごとに、最も旬な石狩のおいしさがつめこまれたわがままメニューを、
味わいに行ってみませんか。
アスパラのチーズケーキ(350円)。どっしりチーズにしっかりアスパラの組み合わせが衝撃のおいしさ。
information
わがまま農園Café
住所:石狩市八幡町高岡町87-3
TEL:080-1885-0050
営業時間:11:00~日暮れまで
定休日:水曜日(不定休あり)、12月下旬から3月末まで冬期休業
※駐車場 あり
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