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日本最北の造り酒屋〈国稀酒造〉。
明治建築の酒蔵は見応えあり!

おでかけコロカル|北海道・道北編

posted:2016.2.6   from:北海道増毛郡増毛町  genre:旅行

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

photographer profile

YAYOI ARIMOTO

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp

writer's profile

Akiko Yamamoto

山本曜子

ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/

credit

取材協力:北海道観光振興機構

日本海に面し、江戸時代中期の1750年頃に豊かな漁場として開かれた、
北海道でも長い歴史をもつ増毛町(ましけちょう)。
かつてニシン漁で繁栄をきわめた明治の頃、
ある呉服店の敷地内で、従業員用の日本酒造りが始められました。
これが、現在創業134年を迎える、
日本最北の造り酒屋〈国稀酒造〉が生まれたきっかけです。

いまも1902年築の工場で、
南部杜氏の手法を汲んだ酒造りが行われている国稀酒造。
その工場の一部は一般公開されているので、
館内を歩きながら歴史と日本酒の香り漂う酒蔵見学を楽しむことができます。

軒先にかかる杉玉は造り酒屋の目印。緑は新酒ができたことを知らせ、枯れて茶色くなっていく過程は新酒の熟成具合を表すと言われます。

1918年築という建物の入口から、
奥の工場へ向かって長く伸びる廊下を進みます。
売店コーナーの先には、元は製品貯蔵庫として使われていた資料室が。
国稀酒造の母体となる呉服店〈丸一本間合名商店〉に残されていた、
当時のさまざまな酒造りの道具や酒器などが展示されています。
今も残る堂々とした巨木の大黒柱も見どころのひとつ。

増毛近郊の軟石が使われているという元製品貯蔵庫。当時の面影を伝えています。

さまざまな商品のラベル。昔は味噌もつくっていたそう。

昔からの定番商品〈國稀〉(900ml 872円)の元の名は“国の誉れ”。日露戦争で名を馳せた乃木希典将軍の名前にあやかってその商品名を変えたというエピソードも。左の〈純米 吟風国稀〉(720ml 1234円)は酒米の吟風100%使用。中辛口の凛とした風味。

大きな貯蔵タンクが並ぶ酒蔵の先には、
大人のお楽しみ、売店で取り扱うすべてのお酒を試飲することができる
利き酒コーナーが待っています。
さっぱりとした辛口が定番の銘酒〈國稀〉シリーズをはじめ、
国稀でつくられるお酒は本醸造、吟醸、大吟醸、純米酒、特別純米酒と
種類も飲み口もさまざま。
いろいろと飲み比べて、自分の好みのお酒を見つけることができます。
ここ増毛でしか買えない地域限定酒も販売しているので、ぜひチェックしてみましょう。

お気に入りが決まったら、入口横の売店へ。
日本酒以外に、
時を越えて復活させた本格酒粕焼酎〈初代泰蔵〉(1404円)のほか、
保湿力たっぷりの酒屋のハンドクリームなどのオリジナル商品も並んでいて、
おみやげ選びには事欠きません。

試飲コーナーには、現在販売中の国稀酒造の銘柄がずらり。それぞれ丁寧に解説してくれた佐藤さんは増毛生まれの増毛育ち。訪れたのは10月。奥にはこれから酒の仕込みを待つタンクが並んでいます。

「実は、酒蔵見学は酒の仕込みを始める11月〜3月の冬場がおすすめなんです」
酒蔵を案内してくれた佐藤敏明さんがそう語るわけは、
その時期、工場全体が蔵人さんたちの酒造りの活気に満ちているから。
搾りが終わる1月から春までは、
お客さんに板粕を使った甘酒がふるまわれるといううれしいサービスも。
酒粕は10月中旬頃、板粕は11月下旬頃から数量限定で販売しています。

2000年頃から始めた酒蔵見学は道内外から人気を集め、
国稀酒造は今や年間13万人もの方が訪れる増毛の人気スポットとなりました。
「まずはここに来て、建物や歴史を見て、味を楽しんで、
国稀酒造を知っていただくことが大切だと思っています。
あわせて、ここ増毛のまちも見ていただけますしね」と佐藤さん。
増毛町のランドマークとして、すっかり定着しています。

日本酒づくりの要は、なんといっても、おいしく良質な水。
国稀酒造の仕込み水は、
創業当時から、増毛が誇る暑寒別岳(しょかんべつだけ)連峰の豊かな伏流水を使用しています。
長い年月をかけて地下で濾過された水は夏場でも冷たく、とてもまろやかな飲み口。
工場の中には、この伏流水を自由に飲めるスペースも設置されています。

こちらは入口脇にある伏流水の水汲み場 (冬期間閉鎖)。

もうひとつは、酒造好適米といわれる酒米。
これまで本州産の米を使用してきた国稀酒造は
近年、増毛をはじめ道内各地でつくられる酒米〈吟風〉を
積極的に酒造りに使用しています。
とくに増毛産の〈吟風〉は生産農家と契約をかわし、全量買い取りをしているそう。
地元の天然水と酒米でつくられる、増毛ブランドのお酒づくりが進んでいます。

国稀酒造の外観。隣の裏手には〈米蔵ギャラリー〉、すぐ近くには増毛のニシン漁文化を伝える〈千石蔵〉も。いずれも入場無料。

国稀酒造の並びには、旧本店であり、
いまはまちが管理する国指定重要文化財、
〈旧商家 丸一本間家〉が残されています。
こちらでは国稀酒蔵創業者以来の直系の方々が住んでいた
往時の暮らしぶりと重厚な店構えとを、ゆっくりと見学できます。

〈旧商家 丸一本間家〉は敷地面積590平米。店舗部分は防火に長けた木骨石蔵造で、新潟から呼び寄せた宮大工が建設したのだそう。(冬期閉館)

〈丸一本間合名会社〉および〈国稀酒造〉創業者の本間泰蔵さんは、
新潟から小樽の呉服店へ入り、
その後1876年に増毛で独立して呉服雑貨店を開業。
折しも増毛がニシン漁の好景気に沸きはじめた頃で、
泰蔵さんは呉服店の成功からニシン漁の網元、
不動産業、海運業などあらゆる事業を手がけ、
一代で“天塩国一の豪商”としてその名を馳せました。

事業の拡大で従業員が増えるにつれ、需要が高まってきたのがお酒です。
当時手に入るのは本州産の高級なお酒のみというなか、
酒造りに多少の造詣があった泰蔵さんは、酒の自家醸造を始めます。
これが軌道に乗り、20年後、現在の場所に大きな酒蔵を建設しました。

意匠をこらした美しい伝統建築は見応えあり。こちらは土間上部に飾ってあった天狗のお面。

やがて一大商社並みの多角経営は時代に合わせて縮小へ。
残された事業は、奇しくも酒造業のみとなります。
国稀酒造を生んだ本間家の歴史は、ニシン漁の歴史とともに、
まるで一編の物語のようなドラマに満ちています。

このふたつの建物を含め、
増毛駅からのびるレトロで風情あるまち並みは
〈増毛の歴史的建物群〉として北海道遺産に認定されています。

廃線が決定した留萌本線の終着駅は増毛。閑散としていた駅や列車は、現在は多くのファンで賑わっています。

伝統を守りながらも、受け継がれてきた酒造りを広く発信し続ける国稀酒造。
激動の時代とともに歩み、
増毛の恵みに育まれたその歴史に思いを馳せながら、
清酒を味わってみてはいかがでしょうか。

information

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国稀酒造株式会社

住所:増毛郡増毛町稲葉町1-17

TEL:0164-53-1050

営業時間:9:00~17:00 ※酒蔵見学は9:00~16:30

定休日:年末年始、不定休あり

入場料:無料

※駐車場 あり

http://www.kunimare.co.jp

information

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旧商家 丸一本間家

住所:増毛郡増毛町弁天町1丁目

TEL:0164-53-1511

営業時間:4月下旬~11月上旬/10:00〜17:00

定休日:木曜日(木曜日が祝日の場合はその前日)※7・8月は全日開館、冬期閉館

入館料:一般・大学生 400円、高校生 300円、 小・中学生 200円(団体割引あり)

http://honmake.blogspot.jp

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