odekake
posted:2015.12.28 from:北海道上川郡下川町 genre:旅行
〈 おでかけコロカルとは… 〉
一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。
photographer profile
YAYOI ARIMOTO
在本彌生
フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp
writer's profile
Akiko Yamamoto
山本曜子
ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/
credit
取材協力:北海道観光振興機構
まちの財産である森林を育て資源としてフル活用し、
森と暮らす健やかな暮らしを推進する、
北海道で唯一の環境未来都市に指定されている、下川町。
このまちで2005年に発足した〈NPO法人 森の生活〉は
森と人との豊かな関係づくりをめざす下川町の森の案内人。
まちを訪れる観光客や地元住民へ向けて、
森のガイドや森林環境教育、森林療法といった
実際に一緒に森へ入る体験プログラムを行っています。
なかでも、下川の森を散策後、
森から持ち帰ったトドマツの葉で精油づくりを楽しむ
『プチ蒸留体験』は人気のプログラム。
まず、参加者は〈体験の森〉と呼ばれる場所で森歩きからスタート。
体験の森は下川町のなかでも、
静かな山間にあり、近くには炭酸泉で有名な五味温泉もあります。
ここはリスが遊び、冬にはエゾモモンガを見つけることができる豊かな森。
ひとたび森へ入ると、清々しい空につつまれ、その気持ちよさに思わず深呼吸。
未来にこの豊かな森を残すために、
下川町は60年1サイクルの伐採・植林・育林をする
循環型森林経営を行っているというお話をはじめ、
ガイドの佐藤さんが森の木々のこと、森づくりのことを教えてくれます。
森をゆっくり散策したあとは、
アイヌ語で「フプ」と呼ばれ、
森の生活では“北海道モミ”という愛称で呼ぶ、
北海道自生種のトドマツの葉を使った蒸留体験の準備が始まります。
まずは、自分たちで材料を得ることから
エッセンシャルオイルづくりがスタート。
精油がどんなふうにつくられるかを、1から知ることができます。
参加者自ら枝払いをして出たトドマツの枝を持ち帰ります。
蒸留体験の場所は、下川町のまちなかにある、
〈美桑の家〉と名付けられた森の生活の事務所も入っている建物。
早速、トドマツのエッセンシャルオイルづくりに入ります。
まずは枝からちぎった葉を蒸留器にいっぱいになるまで詰めたら、
水を注ぎ入れ、ヒーターにかけて煮出していきます。
すると気体になったトドマツの芳香成分が冷やされ、
芳香蒸留水とエッセンシャルオイルとして
ゆっくりと抽出されていくという仕組み。
煮詰めていく間に漂う香りの変化も、お楽しみのひとつです。
やがて、先が逆三角型となったガラス容器〈ろうと〉の部分に、
少し白みがかった芳香蒸留水がたまり始め、
その表面にはエッセンシャルオイルの層が見えてきました。
さあ、最後にふたつの液体を分けてゆきます。
「エッセンシャルオイルは香りを楽しむ専用に。
つくりたてから3か月ほど熟成したほうが、
より上品な香りになります。
芳香蒸留水は化粧水や入浴剤の原料になります」
お試しに、まだほんのりあたたかい蒸留水を肌においてみると、
びっくりするほどするりと浸透していきました。
あれだけあったトドマツの葉から
抽出されるエッセンシャルオイルはごくわずか。
オイルの香りは森そのもののように深く、
リラックスするひとときにおすすめです。
水と葉だけでつくられたナチュラルなエッセンシャルオイルと芳香蒸留水は、
もちろんおみやげとして持ち帰ることができます。
自分が歩いた森の樹からつくったものを持ち帰って使うことができる。
まるで森から贈り物をもらったようです。
下川町が森林循環型のまちづくりへとかじを切ることになる転機は、
1981年に訪れました。
湿雪被害で倒れた多くのカラマツを利用できないかと考えた森林組合が、
木炭を製造し販売する事業を立ち上げ、大成功を収めます。
「林業では森づくりのため間伐や枝を払う作業が行われますが、
幹以外の枝葉は山に肥料として捨てられるだけでした。
その葉っぱがいい香りだと気づいた森林組合で、
精油づくりのアイデアが生まれたのが始まりなんです」と佐藤さん。
トドマツの精油づくりは、森の恵みをあますところなく活用するべく、
林業の廃棄物を木炭・木酢液・木質バイオマスなどに変えて
有効利用する〈ゼロ・エミッション〉の取り組みの一端を担っています。
現在、森の生活の代表をつとめる麻生翼さんは、名古屋出身の31歳。
北海道大学農学部在籍中、
実習で訪れた下川町で豊かな自然のある暮らしに触れ、農山村にかかわる仕事を志したそう。
2010年、より地方の抱える課題にアプローチしたいという思いから森の生活へ入ります。
「下川でまちづくりや森づくりに長年携わってこられた諸先輩たちは、
僕みたいな外から来た若い人間をすごく応援してくださるんです。
そこに、次の世代を育てていこうという強い思いを感じます」
森の生活の活動拠点である美桑の家すぐ裏手にある、
雑木林に囲まれた〈美桑が丘の森〉は、まちぐるみで行う森づくりの舞台。
子どもから大人までまちのみんなが森を整備しながら、
その森を使っていくという試みです。
小さな頃から森の中で遊び親しめる下川の子どもたちは、
きっと森を近くに感じて大きくなるのでしょう。
今回蒸留体験を指導してくれた佐藤さんは元小学校教員。
関東圏では叶わずにいた子どもへの森林教育を森の生活で実現させました。
「こんなことをしたかったなっていうことを
いま、やらせてもらっているんです」と笑顔で話します。
それは、下川にやってくる若き移住者たちの共通した想いのようでした。
森のそばに暮らすことのほかに、
木でできた家具や道具を使うことなど、日々のなかに人の数だけある森の生活。
下川町の森が教えてくれる体験を通して、
あなた自身の新しい森とのつながりを、きっと見つけられるはず。
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NPO法人 森の生活
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