odekake
posted:2017.11.29 from:北海道二海郡八雲町 genre:旅行
〈 おでかけコロカルとは… 〉
一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。
photographer profile
YAYOI ARIMOTO
在本彌生
フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp
writer's profile
Akiko Yamamoto
山本曜子
ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/
credit
取材協力:北海道観光振興機構
濃い緑の木々に包まれた入り口を抜け、
樹齢1000年を超える水松の大木越しに見えてくるのは、
歴史を感じる風雅なたたずまいの〈温泉旅館 銀婚湯〉。
JR函館駅から車で1時間半、八雲町市街地からは車で30分の、
落部川上流の山あいにある銀婚湯。宿の対岸には、5000坪もの庭に宿泊者限定で、
“隠し湯”と呼ばれる露天風呂がしつらえられ、
美しい景観に囲まれた源泉かけ流しの湯めぐりを味わえる極上の秘湯宿です。
創業昭和2年、昭和37年築以来増改築してきた
純和風の広々とした館内は風情にあふれ、上質な木のぬくもりに包まれています。
銀婚湯に滞在するなら、夜は18時まで、
朝は6時から受付の隠し湯めぐりを満喫したいところ。
チェックイン開始は13時。気合を入れて早めの到着か、
もしくは連泊がおすすめです。
5つの隠し湯はそれぞれ貸切なので、運が良ければすべてのお湯に入れることも。
まずはフロントで隠し湯の空きを確認。
ちょうど空いていた一番人気の〈トチニの湯〉へ、
鍵を借りて浴衣姿で出かけてみました。
隠し湯の中でも一番奥にあるトチニの湯までは歩いて10分ほど。
館のそばの美しい庭園を抜け、先代社長の川口忠勝さんが
種から植えたという立派なカツラ並木を眺め、
落部川にかかる吊り橋をアトラクション気分で渡ります。
その先に広がるのは、手をかけられた木々や花が自然に寄り添いながら息づく庭。
まるで森の中のような散策路を楽しみつつ、看板を目印に進んでいきます。
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森に囲まれたトチニの湯は、自然と見事に調和した名湯です。
米杉の大木をくりぬいた湯船と、奥にある小さな湯船を、
生い茂る緑や眼下の川面を眺めながら貸切で利用するのは、この上もない贅沢気分。
すぐそばに湧き出る単独源泉100パーセントの少し熱めなお湯に浸かれば、
体の芯までポカポカに。良質のお湯に身をゆだね、
忘れられないひとときを過ごせます。
温泉が点在するこの庭は、かつて農家の畑だったというのが信じられないほど、
白樺やミズナラ、ブナなど多くの木が植えられた豊かな景観が広がっています。
そして銀婚湯の見どころのひとつが、館や庭、温泉周りに植えられた紅葉の木。
6月には新緑の緑の葉を、秋には美しい紅葉を、
湯船からも楽しめることで有名です。
トチニの湯を満喫したあとは、次なる隠し湯〈どんぐりの湯〉へ。
清流をすぐ近くに感じられるこぢんまりとした野天風呂は、屋根のある脱衣所つき。
ひたひたと石段を降りて、心地よい空気を胸いっぱいに吸い込みながら、
絶景の湯を心ゆくまで味わいましょう。
このほかに、隠し湯は〈もみじの湯〉〈かつらの湯〉〈杉の湯〉があるので、
滞在の間にこまめに空きをチェックしてみて。(もみじの湯と杉の湯は冬期閉鎖)
敷地内には5本の源泉が引かれ、温泉成分を生かすため
塩素殺菌や循環ろ過は一切なし。いずれも湯温が高いため、
一部は地下水を加えて適温にしています。
5つの館に分かれた客室の窓からは、
それぞれ美しい中庭や落部川の景色を眺められ、
自然を感じながら深いくつろぎのひとときを過ごせます。
湯めぐりの後の体をゆっくり休めたら、
1階にある個室の食事処〈静山〉での夕食が待っています。
夕食は、和食をベースに旬の土地の恵みをとりいれた料理が豪華に並びます。
山奥にありながら、車で30分の距離にある太平洋に面した落部港で水揚げされる
新鮮な魚介を贅沢にいただけるのが、銀婚湯の魅力のひとつ。
丁寧に手をかけられた料理はほかにも、吉次(キンキ)のソテー、豚やわらか煮、
天ぷらや季節のカルパッチョなど、おいしさはもちろん、ボリュームも満点。
宿の近くにはお店がないため、
お食事をたっぷりと召し上がっていただきたいという宿の心づかいが込められています。
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すっかりお腹いっぱいになったら、このあとには
6月下旬〜7月上旬限定の夏の夜を彩るお楽しみが待っています。
それは、お客さんからも大人気の〈ホタル鑑賞ツアー〉。
銀婚湯すぐ裏の小川に放したホタルが5年越しに育ち、今や宿の夏の風物詩として、
毎夜ごと、闇に浮かび上がるホタルの舞を見ることができます。
明かりを消して、山の深い闇に包まれながら体験する
幻想的な風景は、きっと旅の思い出になるはず。
ツアーの開催は夏の間の2週間ほど。ぜひ見たいという方は、
前もって時期を問い合わせておくのが確実です。
ひと息ついたら、銀婚湯が誇る館内の大浴場へ。大浴場は24時で男女入替となるので、翌朝は早めに起きてどちらの湯も楽しみたいところ。
ひとつは、最も歴史ある、元は混浴だった岩風呂の大浴場〈渓流の湯〉。
窓の外の自然を眺めながら、やわらかなお湯に浸かってのんびりしましょう。
もうひとつの新しい大浴場〈こもれびの湯〉も大きな窓からの光が美しく、
開放感に浸れます。いずれも川のせせらぎを聞きながらの露天風呂は心地よく長湯必至。
朝湯なら、湯上がりの朝食もしっかりいただけそうです。
銀婚湯のある落部川中流の中州では数百年前から湯が沸き、
アイヌ民族の人々が親しんでいました。のちに蝦夷地を旅した松浦武四郎も訪れ、
戊辰戦争では幕府軍が負傷者を湯治させたという記録も残る土地です。
銀婚湯の名は、大正14年、大野(現在の函館市)出身の川口福太郎さんによって
温泉の大量湧出に成功したその日が
大正天皇の銀婚式に重なったことから命名されました。創業以来、
全国各地から銀婚式を迎えるご夫婦の来訪が絶えない宿としても知られています。
山奥の環境を生かしながら、館の対岸にも敷地を広げて整備し、
隠し湯に至るまでをすべて造作したのは、先代社長の川口忠勝さん。
その背中を見ながら、子どもの頃から庭木の手入れを手伝ってきた、
長男で現社長の川口洋平さんは、
「どこにもないこの自然と、それを生かした庭園、そして隠し湯。
館も含めて維持管理は大変ですが、父のつくってくれた基礎を受け継いで、
多くのお客さまに楽しんでもらえるよう守っていきたいですね」
と語ってくれました。
訪れる人の心を潤す美しい景観とたぐいまれな温泉を堪能する特別なひとときを、
銀婚湯で過ごしてみませんか?
information
温泉旅館 銀婚湯
住所:二海郡八雲町上ノ湯199
TEL:0137-67-3111
チェックイン:13:00〜
チェックアウト:11:00
駐車場:あり
Web:http://www.ginkonyu.com
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