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ヌードルライター・
山田祐一郎が綴る
福岡の「うどんのはなし」。
第三回「牧のうどん」

コロカルニュース

posted:2016.2.18   from:福岡県糸島市  genre:食・グルメ

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。

text & photograph

Yuichiro Yamada

山田祐一郎

やまだ・ゆういちろう●福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライターとして活動中。麺の専門書、全国紙、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に「うどんのはなし 福岡」。 http://ii-kiji.com/ を連載中。

うどんのはなし 福岡」の出版を機に始まった、
福岡のうどん文化とその名店を紹介する本シリーズ。
第三回は、福岡県糸島市にある「牧のうどん 加布里本店」をご紹介!

「牧のうどん」創業の地、福岡県糸島市にある加布里本店は国道202号線沿いにあります。

どこからともなく聞こえてきます。「ようやくきたか!」「待ってました!」という声が。
今回、ご紹介するのは福岡を代表するうどんチェーン「牧のうどん」です。
福岡におけるこの店の愛され方はなかなか強烈です。
「うどんのはなし」を世に出すにあたり、いろんな方が「ココもおすすめだ!」
「あそこも行っておかないと」とアドバイスをくださいました。
その中で、最も熱量溢れる言葉によって勧められたのが、ここだったのです。
福岡にはたくさんのうどん店がありますが、この「牧のうどん」は
“異色”の存在であるにも関わらず、その「異色」=「他にない個性」が広く認知され、
地域にしっかりと根付いています。

広々とした加布里本店の店内。小上がり、テーブル席もあり、家族連れ、グループ客にも人気です

「牧のうどん」の個性はなんなのか。ちょっと頭に考えを巡らせると、
すぐに「増える」「ゆで具合が選べる」「釜揚げスタイル」という
キーワードが思い浮かびます。……ん、どれも“麺”にちなんだものばかり!?
そうなんです、この麺にこそ、「牧のうどん」の個性の秘密が隠されているのです。
それでは、「増える」「ゆで具合が選べる」「釜揚げスタイル」という
3つのキーワードから、「牧のうどん」の魅力を余すところなく書かせていただこうと思います。

見るからにポワンとやわらかそうな麺!

牧のうどんが開業したのは1976年。それ以前は「畑中製麺所」という製麺所で、
麺の小売りをしていました。
ところがある時、大きな方向転換が起こりました。
話によれば、近くの駐在さんがお昼時に丼を持参し、
「湯がきたての麺が美味しい」と言って食べていたそうで、
そんなに喜んでもらえる麺ならばぜひ多くの人に食べてほしいという具合に、
うどん店のオープンに至りました。

現在の加布里本店の前身にあたる店が「牧」という地名の場所にあったことから、牧にあるうどん店、それが転じて「牧のうどん」になったのは、福岡っ子には割と知られたエピソードです。

さて、話を戻して麺について。駐在さんが愛したその麺こそ、
「釜揚げ」スタイルでした。
一般的なうどん店では「麺切り」「茹で」「冷水で締める(洗い)」
「提供直前に温める」「提供」という調理フローが採用されます。
ここで整理すると、昔古来の博多うどんの提供店(第1回「因幡うどん」を参照)の場合、
「麺切り」「茹で」「冷水締める(洗い)」までの工程を先に済ませておき、
実際の店では「提供直前に温める」「提供」という2工程だけに
特化することで、スピーディーな提供を実現させていました。
「牧のうどん」の釜揚げスタイルの場合、「麺切り」「茹で」「提供」となります。
つまり、「冷水締める(洗い)」「提供直前に温める」の2工程がカットされているのです。

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実は、うどんは増えていない!?

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今まさに麺を茹でているところ。厨房の広さに圧倒されます

釜揚げ麺を採用した結果、うどんに「増える」という現象が起こりました。
先に言っておくと、実際には増えていません。増えているように“感じる”のです。
「冷水締める(洗い)」という工程を省いた結果、麺はありのままの状態で丼に移され、
かけつゆが注がれます。
すると、締まっていない麺がどんどん、このかけつゆを吸っていく。
麺はその分、膨らみ、「あれ!?食べても食べても麺が減らない!?」という不思議な事態に。

つゆを吸った麺は一段とふっくらやわらかに

汁気を多分に含んでおりますので、麺はぷわんぷわんのやさしい食感。
噛めばじんわりとかけつゆとの一体感が堪能できるんです。
それでは、麺が吸ってしまって、つゆがなくなってしまうじゃないかって。

左下に写っているのがヤカンですよ

安心してください。そのために、うどんと一緒に小さなヤカンが運ばれてきます。
中には温かいつゆが入っており、減った分をヤカンで注ぎましょう。
言い方を変えると、昆布や鰹節などでとった贅沢なつゆが飲み放題! なんという太っ腹ぶり!
こうしてやわらかく、増える麺は、その麺の特性そのままに、
地元っ子の支持をどんどん吸収していきました。
「ラーメンは固麺なのに、うどんはやわらかい麺を好む」という、
県外の方からするとちょっと不思議な嗜好が福岡っ子にはあります。
「牧のうどん」はそんな嗜好の醸成に確実に一役買っているでしょう。

見るからにボリューミーな肉うどん

素うどん(かけうどん)は310円から。ほとんどのうどんが500円以下。安い!

付け加えると、「牧のうどん」は自社で作る麺を使う、
つまり原価が抑えられることから、その抑えた分の原価を量に還元しています。
ちなみに福岡の一般的なうどん店の麺量のおよそ2倍。
ですので、大盛りを注文するときは、それなりの覚悟を持って臨みましょう。
その大盛りがさらに“増えます”からね。

自分で注文を記入する仕組み。正の字で数量を記していきます。右側に麺の硬さを選んで書けるようになっています

いよいよ最後のキーワード、「ゆで具合が選べる」について。
実は、「牧のうどん」では「軟めん」「中めん」「硬めん」というように、
麺の茹で加減を選ぶことができます。福岡の中でもこれは特に珍しいシステム。
「増える」(ように感じる)麺の醍醐味をとことん満喫したいなら、
基本の「中めん」、もしくは「軟めん」をチョイスください。その逆なら「硬めん」を。

麺の茹でわけをしているので、3タイプから選べるんです

厨房も合理的に作られていて、茹で釜についても「軟めん」用、
「中めん」用、「硬めん」用という3ブロックに分かれています。
これならどの麺で注文が入ってもスムーズに対応できますよね。

「ごぼう天」はお店の一番人気。三割くらいのお客さんが注文するそうですよ

ぼくはもっぱら、「ごぼう天」、「肉うどん」のどちらかを楽しんでいます。
「肉ごぼう」という2つを合わせた一杯も捨て難い。
さらに、お茶碗で食べる熱々のかしわめしも大好物で、決まって一緒に注文します。
ごぼう天が410円、そしてかしわめしが190円、セットでも600円というありがたさ。
本当にお腹いっぱいになりますからね。
つゆと一体となった麺をほおばり、かしわめしをかき込み、つゆで流す。
幸せの無限ループです。

贅沢なひと時を約束してくれる「肉ごぼう」。ネギは入れ放題ですよ

本店の敷地にはエリアマップがありました

「牧のうどん」では、本店の裏にある工場でつゆ、麺の元になる生地を作り、
ここから全店に配送。
土地が変われば水が変わり、湿度などの気候も変わるということで、
品質を維持するため、工場は一つだけなんです。
だから、この場所から麺や出汁の鮮度を落とさずに配送できる範囲にしか店舗を展開しない、
という徹底したポリシーを創業以来、貫いています。
つまり、福岡、そして本店からほど近い一部の佐賀エリアに来なければ、
絶対に食べられない究極のご当地うどんなのです。

ここで朗報。主に郊外に店舗展開している「牧のうどん」が3月、
JR博多駅に新しいお店をオープン予定です。
新幹線、飛行機を利用の方は、まずは博多駅店で“牧のデビュー”するのも良いですね。

information

map

牧のうどん 加布里本店(まきのうどん かふりほんてん) 

住所:福岡県糸島市神在1334-1 ※福岡、佐賀に18店舗 (3月以降は19店舗) 展開

TEL:092-322-3091

営業時間:9:00~24:00

定休日:第3水曜

最寄駅:JR筑肥線加布里駅から徒歩で約10分

information

書籍「うどんのはなし」

著者:山田祐一郎

発売元:KIJI|¥1,852(本体価格)

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