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食、暮らし、生きること。
沖縄のおばぁに学ぶ一冊
『おばぁたちの台所』が発売中

コロカルニュース

posted:2023.8.9   from:沖縄県国頭郡大宜味村  genre:食・グルメ

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。

writer profile

Mayo Hayashi

林 真世

はやし・まよ●福岡県出身。木工デザインや保育職、飲食関係などさまざまな職種を経験し、現在はフリーランスのライターとして活動中。東京から福岡へ帰郷し九州の魅力を発信したいとおもしろい人やモノを探しては、気づくとコーヒーブレイクばかりしている好奇心旺盛な1984年生まれ。実家で暮らす祖母との会話がなによりの栄養源。

photographer profile

Hako Tamura

田村ハーコ

たむら・はーこ●写真家。2002年に独立し、沖縄へ移住。女性誌や企業広報誌等で撮影を手がける他、「残したいと思える写真を撮る」ことをテーマに、沖縄で暮らすおばぁやおじぃ、家族たちのポートレート撮影も行なっている。
instagram:@tamurahako

後世に伝えたい、食文化や暮らしがある

沖縄本島北部に位置する、大宜味村(おおぎみそん)。
隣接する国頭村、東村とともに「やんばる」と呼ばれ、
緑深い山々や美しい海が広がります。

長寿の里としても知られており、歳を重ねても
元気に自立した生活を送る人が多い自然豊かな地域です。

その大宜味村の集落に暮らすおばぁたちを取材し、
その記録を綴った『おばぁたちの台所』が今夏、発売となりました。

グラフィック社より2023年6月に出版。

グラフィック社より2023年6月に出版。

著者は、大宜味村で沖縄料理の食堂
〈笑味(えみ)の店〉を営む、金城笑子(きんじょうえみこ)さん。

名護市で育ち、東京の大学で栄養学を学んだ金城さんは、
笑味の店を始める以前は管理栄養士として学校給食に携わってきました。

本書では、金城さんが食の道へ進み、
笑味の店をオープンするに至った経緯や、
そこで実践してきたことが丁寧に描かれています。

1990年にオープンした笑味の店。季節の島野菜などを中心に沖縄料理をいただける。

1990年にオープンした笑味の店。季節の島野菜などを中心に沖縄料理をいただける。

大宜味村のおばぁたち、おじぃたちが
海や土の恵を大切に生かしながら食べ、すこやかに暮らす姿に触れたことで
“消えかかっているその知恵や足元にあるささやかな食材を、
次の世代に伝え残したい”と強く思ったという金城さん。

やんばる独自の食文化や知恵を絶やさずに伝え、
読者の日々の暮らしの手がかりになればとの願いから
『おばぁたちの台所』が出版されました。

「やんばる」の美しい海

第一章は、「海、畑とつながる おばぁたちの食卓」。

金城さんが15年以上にわたっておばぁ、おじぃの家を一軒一軒訪ね、
食卓をともに囲み、日々のごはんと暮らしを聞き取った記録です。
何十年とつくり、食べ続けてきた
“よそゆきでない日常の食事”を紹介しています。

登場するのは、17組19人のおばぁやおじぃたち。

いつもの台所でいつもの料理をつくるおばぁの表情や、
豊富な食材から生まれる賑やかな食卓が、多彩な写真や文章とともに綴られます。

ヤンバルタケノコを調理するハタラチャー(働き者)のおばぁたち。

ヤンバルタケノコを調理するハタラチャー(働き者)のおばぁたち。

例えば、87歳(取材当時)で元気に
釣竿を持って海に出かけるという前田サエ子さん、
洋裁が得意でおしゃれな82歳(取材当時)の山城イソさん。

まるで姉妹のようなふたりが台所に並べばおしゃべりは尽きません。

この日は、サエ子さんが釣ったグルクン(タカサゴ)を蒸して、
春が旬のヤンバルタケノコを調理しました。

サエ子さん、イソさんのある日のお昼ごはん。

サエ子さん、イソさんのある日のお昼ごはん。

“茶碗のなかはもちきびごはん。
「おいしいやー。ごはんが最高おいしい! 
これはね、かたく炊いたらおいしくないの。
水を多めに入れてね、そうしたら、粘り気が出ておいしい」とサエ子さん。”
(本文より引用)

この本を読み進めると、
著者と登場人物の間に流れた時間、
そこで生まれた信頼の深さを感じずにはいられません。

家族との思い出や人生談を、
まるで一緒にテーブルを囲みながら聞いているかのよう。
ユーモアあふれるおばぁたちの言葉に心が温まります。

著者の金城さん(左)と宮城道子さん(右)。沖縄のフーチィーバー(よもぎ)を使ってよもぎ餅をつくる様子。

著者の金城さん(左)と宮城道子さん(右)。沖縄のフーチィーバー(よもぎ)を使ってよもぎ餅をつくる様子。

高齢になっても畑仕事を続け、海で魚をとり、料理をし、
近所の人たちとおしゃべりを楽しむーー。

そんなおばぁたちの大切にする、食や暮らしを垣間見れることでしょう。

Page 2

残したい、やんばる伝統の食材と料理

やんばるのおばぁたちの「収穫して料理する」生活のリズムにチリビラなどの葉野菜がぴったりと寄り添う。

やんばるのおばぁたちの「収穫して料理する」生活のリズムにチリビラなどの葉野菜がぴったりと寄り添う。

第二章では、「残したい、やんばる伝統の食材と料理」として、
おばぁたちへの聞き取り、日々の関わりのなかで教わった
大宜味村の食文化を紐解きます。

地元で育つ個性的な野草や島野菜が目白押し。

野菜や豊かな海でとれる魚介など、
伝統食材から生み出される沖縄の家庭料理24品を収録しています。

ナーベーラーウブシー。ナーベーラーとはヘチマのことで、夏になるとやんばるの家々の軒先にはいくつもぶら下がっているそう。ウブシーは、味噌仕立ての煮物で、夏が旬のナーベーラーとの相性が抜群。

ナーベーラーウブシー。ナーベーラーとはヘチマのことで、夏になるとやんばるの家々の軒先にはいくつもぶら下がっているそう。ウブシーは、味噌仕立ての煮物で、夏が旬のナーベーラーとの相性が抜群。

ページをめくるごとに、「こんなにも食材を生かした料理があるんだ!」
と驚くほど、個性的な食材や調理法が盛りだくさん。

季節の食材を使った沖縄料理にチャレンジしてみるのもよさそうですね。

青パパヤーとピンガーイチャーの炒め煮。ピンガーイチャーとはトビイカのこと。金城さんの調理した料理が一品ずつ食材とともに詳しく解説されている。

青パパヤーとピンガーイチャーの炒め煮。ピンガーイチャーとはトビイカのこと。金城さんの調理した料理が一品ずつ食材とともに詳しく解説されている。

おばぁたちにとっては自分が食べることよりも
家族や来客に満足してもらうのが優先なのだとか。
戦後の食糧難を経験していることで、食べることの喜びを誰より知っているから、
おばぁたちは「カメーカメー(食べて食べて)」と勧めるそう。

「つくる」「食べる」「喜ぶ」というリズムが、
生活のなかで息づいていることが感じられます。

家庭料理の紹介というだけではなく、
栄養面、食材や調理法がどのように生活に根付いてきたかが、
個人のエピソードとともに丁寧に綴られている本書。

私たちの本当の暮らしの豊かさとは何か?

この一冊から、これからを生きるためのヒントがみつかるはずです。

information

おばぁたちの台所

著者:金城笑子

写真:田村ハーコ

定価:1980円(税込)

発行:グラフィック社

仕様:A5並製、152ページ

WEB:おばぁたちの台所

information

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金城笑子

笑味の店 店主。管理栄養士。

昭和23年、沖縄県生まれ。女子栄養短期大学卒業後、栄養士として学校給食に携わる。平成2年、沖縄・大宜味村の豊かな食文化を今に伝えるため「笑味の店」をオープン。おばぁ、おじぃたちがつくる島野菜など、旬の食材を使った伝統的な家庭料理を提供している。著書に『おばぁの畑で見つけたもの 土と海と人が育てた沖縄スローフード』(発行:女子栄養大学出版部、2003年)。

*価格はすべて税込です。

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