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posted:2022.11.24 from:青森県弘前市 genre:アート・デザイン・建築
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writer profile
Kanae Yamada
山田佳苗
やまだ・かなえ●島根県松江市出身。青山ブックセンターやギャラリースペース、ファッション・カルチャー系媒体などを経て、現在フリーのライター、編集者として活動中。まだまだ育ち盛り、伸び盛り。ファッションと写真とごはんが大好きです。
田根剛さんが改修したことで有名な、
青森県弘前市にある〈弘前れんが倉庫美術館〉。
「かりに事業が失敗しても、
これらの建物が市の将来のために遺産として役立てばよい」
そんな実業家・福島藤助さんの思いを受けて
もともと酒造工場として建てられたこの煉瓦造り建物ですが、
美術館に転変したきっかけが、奈良美智さんの展覧会に
あったことをみなさんご存じでしょうか?
奈良美智さんは弘前市の出身。
文化芸術に精通していた弘前れんが倉庫美術館の前身、
煉瓦倉庫のオーナーで吉井酒造株式会社社長である吉井千代子さんが、
「奈良さんの作品を倉庫で展示をしたい」と
ギャラリーに問い合わせたことからこのご縁は始まったといいます。
そこから奈良さんと吉井さんがつながり、
後日煉瓦倉庫で多くの人々を巻き込んで、
『I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.』(2002年)、
『From the Depth of My Drawer』(2005年)、
『YOSHITOMO NARA + graf A to Z』(2006年)と、
3回も奈良さんの展覧会を開催。
約1500人のボランティアや地域の力を借り、
弘前における奈良さんの展覧会という側面だけでなく、
ローカルなアートプロジェクトという側面においても大成功を収めました。
現在弘前れんが倉庫美術館で開催されている、
「『もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?』
奈良美智展弘前 2002-2006 ドキュメント展」は、
弘前での最初の奈良さんの展覧会から20年を迎える今年2022年に、
その軌跡をさまざまな資料で振り返る展示で、
非常に興味深い充実した内容となっています。
ここからは同展覧会の様子をレポートしていきます。
まず入口すぐの展示室1では、「一本の電話から」と題し、
地元の人の協力を得て集まった「奈良美智展弘前(以降「ナラヒロ」)」
の資料を9つの切り口で紹介。
当時制作されたポスターやチラシ、グッズのほか、
新聞や雑誌取材の切り抜き、吉井さんが所蔵するこぎん刺しの資料、
関係者が大切に保管していた奈良さんのドローイングなど
ありとあらゆる細かな資料が展示されています。
展覧会の実現に携わった4人のインタビュー映像も。
当時の様子がそれぞれの言葉の重みを持って伝わってきます。
資料からも分かる通り、展覧会はさまざまな工夫がなされ、
美術展としてどこにも引けを取らない唯一無二だったのはもちろん、
その輪は大きく広がり、アートのあるまち・弘前の発端にもなりました。
なぜそこまで大きなうねりとなったのか。
その奇跡ともいえる連鎖をそれぞれの資料から、
読み取ることができるでしょう。
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その奥に進むと、写真家の永野雅子さんと細川葉子さんが撮影した
奈良美智展の会場風景やまちの様子を捉えた写真が展示されています。
展示室内には素朴でかわいらしい小屋が設けられ、
その中にそれぞれが選んだ写真を小さな個展形式で紹介。
この場所はまるで展覧会の思い出アルバムを見ているよう。
ボランティアの方の活気や会場の様子が細やかに伝わってきます。
その奥には吹き抜けの大空間が。天井には、ボランティアの方が制作した
色とりどりのフラッグガーランドの装飾が飾られ、まるでお祭り会場です。
二人の記録写真を大きなスクリーンでスライドショー形式で紹介するほか、
『YOSHITOMO NARA + graf A to Z』の展覧会バナーも掲示されています。
過去に弘前での奈良美智展で展示された作品も一部展示しています。
約3メートルの大型絵画『Milky Lake』は、
2002年に煉瓦倉庫で展示されたあとに高松市美術館に収蔵され、
今回初めて館外に貸し出された作品です。
ほかにも、奈良さんのドローイング作品が
第一期、第二期に分けて小屋の中で展示されています。
【奈良美智 ドローイング作品の展示期間】
第一期:2022年9月17日(土)〜12月25日(日)
第二期:2023年1月2日(月)〜3月21日(火・祝)
さらに2階は、奈良さんと故郷の弘前との関係性を探る展示が。
奈良さんの感性を形づくった弘前時代に手に取った30冊の本が置かれ、
壁一面には300枚以上のレコードジャケットが並んでいます。
「NARAライブラリー」のコーナーでは、
奈良さんが影響を受けた書籍を自由に手にとって読めたり、
展示室内各所では奈良さんが選曲した音楽がBGMに。
奈良さんの博学さや研究熱心な姿勢を垣間見れるはず。
その奥では「動き続ける場へ」と題して、
ナラヒロに影響を受けたアーティストの作品や市民参加型プロジェクトを紹介。
こちらの画像はナラヒロのボランティアに参加し、
それをきっかけにアーティストへの道を歩んだ
1990年⻘森県黒石市生まれの佐々木怜央さんのガラスの立体や写真作品です。
隣には、「ナラヒロとは何だったのか?」をリサーチして演劇に落とし込み、
新たな視点で展覧会を見つめ直すプロジェクト〈もしもし演劇部〉の部室となるスペースが。
現在ワークショップが行われており、完成作品は
2022年12月18日(日)にドラマリーディング(朗読劇)形式で発表されます。
(…)みんなががんばってオープンした直後は花が咲いてお花見をする感じ。
そして、花は必ず散るように、会期があるから展覧会も終わる。
でも、終わった後には、種とかいろんなものをみんなが落とすんじゃないかな。
(…)花が咲く背景には、土に還って養分となったたくさんの葉っぱがある。
—奈良美智の言葉より(『A to Z 奈良美智+グラフ』フォイル、2006年)
この言葉の通り、さまざまなものを残していった弘前の奈良さんの展覧会。
会場の充実した資料に触れ、純粋に奈良作品を楽しむのはもちろん、
展覧会のポテンシャルや、展覧会にはどのような意味があったのかなど、
さまざまに考えを巡らせてみるのも大きな学びになりそう。
ぜひ、アートのあるまち弘前の発端となった素敵な物語を、
弘前れんが倉庫美術館で触れてみてください。
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