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posted:2022.2.9 from:大阪府大阪市 genre:アート・デザイン・建築
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writer profile
Yuri Shirasaka
白坂由里
しらさか・ゆり●神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、自然のなかで遊びながら、ラジオで音楽をエアチェックしたり、学級新聞を自主的に発行したり、自由な土地柄の影響を受ける。映画館でのバイト経験などから、アート作品体験後の観客の変化に関心がある。現在は千葉県のヤンキー漫画で知られるまちに住む。『WEEKLYぴあ』を経て、97年からアートを中心にライターとして活動。
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画像提供:大阪中之島美術館(外観・作品図版)
大阪のキタとミナミの間、堂島川と土佐堀川に囲まれた「中之島」は、
〈大阪市立東洋陶磁美術館〉
〈中之島 香雪美術館〉
〈国立国際美術館〉といった文化施設や歴史的建造物が立地し、
訪ね歩くのが楽しいエリアです。
さらに2月2日、〈大阪中之島美術館〉がついに開館しました。
開館までには約40年にわたる長い道のりがありました。
1983年、大阪市制100周年記念事業基本構想のひとつとして
近代美術館の建設構想が持ち上がり、
1990年に近代美術館建設準備室が設置されましたが、
バブル崩壊や大阪市の財政悪化で計画が停滞し、ようやくオープンに至ったのです。
一方、準備室ができてから30年の間には、
美術館の根幹はコレクションであるという姿勢で、
19世紀後半から現在までの国内外の美術とデザインを核として収集を続けたため、
約6000点を超えるコレクションが形成されました。
開館記念展『Hello! Super Collection 超コレクション展 99のものがたり』では、
その中から選び抜いた約400点の代表的な所蔵品を一挙公開。
国内外の展覧会にも積極的に貸し出されていたため、ホームへの里帰り感もあります。
30年間館長を務めてきた菅谷富夫館長は、喜びとともに
「ここからが始まり」と決意を新たにしていました。
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展覧会場は4、5階です。展示作品には併せて99の物語が紹介され、
100個目の物語は観客から募集しています。
見どころをピックアップしましょう。
まず第1章「Hello! Super Collectors」では、コレクション形成史の源を辿ります。
最初に紹介するのは、美術館構想の起点となった山本發次郎コレクション。
大阪の実業家で美術コレクター、山本發次郎が特に熱心に収集したのが、
1898年大阪に生まれ、パリで学んだ後、30歳で早逝した画家・佐伯祐三でした。
その数は最大150点にも及んだと言われますが、1945年6月の空襲で多くが焼失、
その前に疎開させていた約3分の1の作品が戦災を免れ、
そのうちの33点が山本の遺族から同館に受贈されたのでした。
亡くなる4か月前ほどに描かれた『郵便配達夫』もその貴重な一作。
今回はパリで描いた風景画なども併せて見られます。
同館にとって、大阪の美術やデザインに関する収集は大きな柱のひとつです。
大阪のまちを描いた風景画からは時の流れも感じられます。
池田遙邨『雪の大阪』は、1928年2月11日、
22年ぶりの大雪に雪化粧されたまちを描いた貴重な屏風作品です。
大阪は早期に写真が盛んになった「写真のまち」でもあります。
渡米して写真を学んだあと、1930年代以降、大阪で写真スタジオを構えた山沢栄子は
女性写真家の草分け的存在です。
戦後の前衛美術運動の中でも「GUTAI」の名で世界的に再評価著しいのが、
1954年に兵庫県芦屋市で結成された〈具体美術協会〉です。
1962年からこの中之島が本拠地となり、
1970年まですぐ近くに私設展示施設〈グタイピナコテカ〉がありました。
この施設にちなんだ黒い壁に、リーダーでもあった吉原治良の作品が展示されています。
今後、具体美術協会の展覧会も予定されています。
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続いて第2章「Hello! Super Stars」では、
近代・現代美術の代表作がズラリと並びます。
ジャン(ハンス)・アルプの抽象彫刻、
ルネ・マグリットのシュルレアリスム絵画といった20世紀初頭のヨーロッパ美術から、
第2次世界大戦後にアート界の中心となったアメリカ美術への流れを紹介。
いまも人気のジャン=ミシェル・バスキアまで、ワクワクする展示エリアです。
さらに大阪を拠点に国際的に活躍する森村泰昌などの作品も肩を並べています。
最後の第3章「Hello! Super Visions」は、
19世紀以降のデザインを中心とした展示です。
「生活の美術」をテーマとして最初に収集したウィーン工房の作品群から始まり、
空間の雰囲気ごと味わえます。
壁には、ロートレックやミュシャをはじめとする
ポスター芸術が展示されています。これらグラフィック作品は、
休館した〈サントリーミュージアム「天保山」〉から2010年末に預かった、
約18000点に及ぶサントリーポスターコレクションからの展示です。
東京生まれで大阪にも馴染み深い倉俣史朗の作品も見逃せません。
その独創性で世界に「クラマタ・ショック」とも評されたインテリア・デザイナーです。
アクリルの中に浮かぶ造花のバラの花。
代表作『ミス・ブランチ』は、テネシー・ウィリアムス
『欲望という名の電車』の主人公の名にちなんだ詩的な作品です。
世界の近代美術史やデザイン史を押さえながら、
大阪および関西のアート&デザインの再発見もできる贅沢な展覧会。
枠組みの外へ飛び出そうとするアーティストの心意気も感じます。
4階の階段横には、大阪生まれの作家ヤノベケンジによる
巨大な常設作品が立っています。
正面広場には、猫をモチーフにした守神となる彫刻も。
なお1、2階は無料で入場でき、
ミュージアムショップ〈dot to dot today〉などが利用できます。
3月18日にはデンマーク発インテリアプロダクトブランド
〈HAY OSAKA〉がオープン予定です。
中之島エリアの美術館やコンサートホール、科学館など14機関が参加し、
施設や人や文化をつなぐネットワーク「クリエイティブアイランド中之島」
も立ち上がっています。大きなビルが建ち並ぶ開発地、
一歩路地に入れば昔ながらのまち並みも残っています。
イベントなどをチェックしながら回遊してはいかがでしょうか。
*作品はすべて大阪中之島美術館蔵。
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