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writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
かわいらしい外観の宿泊棟タイニーハウス。左から〈土〉、〈風〉、〈森〉。
北海道のほぼ中央に位置し、〈旭山動物園〉を有する旭川に、
ゲストハウス〈旭川公園〉が誕生しました。
最寄り駅は、「旭川」駅からJR宗谷本線で約15分の「永山」駅。
手がけたのは兵庫県西宮市出身の松本浩司さん。
東海地方を中心とする『中日新聞』の記者を経て、
2018年、家族で静岡県浜松市から旭川へ移り住みます。
松本さんご一家。3人のお子さまと奥さまと。
伝え手の記者という第三者の立場から、
「それぞれに良さはあるんですけど、当事者の感動の量には勝てない」と、
北海道でゲストハウス運営の道を選んだ松本さん。
「自分で企画した高校の卒業旅行を成功させた思い出の地でもありますし、
日本最北という、突き抜けている感じも好きで。
南はみんな行きたがるけど北はそれほどでもないですよね(笑)
未開拓の素材がたくさんあるイメージがあって、
まだまだ新しいことができる可能性の大地だと思って。」
冬の〈旭川公園〉。手前は地域の子どもたちの遊び道具になっている土管。奥はカフェにもなる〈コモン棟〉。
「特に旭川は、北海道で2番目に大きなまちだけど、
目立たないというか色がないというか、存在感が薄いなと前から思っていて。
経済も人口も右肩下がり。
十勝や札幌には地域をおもしろくする波が来ているけど、ここにはまだ来ていない。
自分にできることがあるなと思ったんです」
旭川公園があるのは駅から徒歩15分の住宅や学校が立ち並ぶ、
いわゆる観光地ではないエリア。
コモン棟の窓から見える“普段”の景色
道産のアカマツをフローリングに使った〈風〉の内観。(撮影:鈴木裕矢)
「海外や本州では、“ローカルの暮らしにふれる旅”がトレンドになってきています。
住宅街にあるので近所の人もふらっと立ち寄ることができるし、
森が近くて自然の遊び場に囲まれている。
調べてみると、職人やおもしろい人がたくさん暮らしていて、
遊びに行ったり、来てもらえたり、
ゲストが地元の人といろんなことができる可能性があると感じたんです」
伝えるのは、「普段着の旭川」。目指すのは、「いろんな人が交差する公園のような場所」。
土管など敷地内の遊具は、近隣の子どもたちと一緒にペンキを塗ったり、廃材を利用してつくったもの。これを機に地域の人も集う場所に。(撮影:鈴木裕矢)
「ホテルのように何時に必ず送迎しますというお約束はせず、
その都度相談にしています。
“普段の暮らしのなか”でゲストを迎えることを大切にしているので、
公園には地域の人も遊びに来ていますし、
“親戚の家や友達の実家”に遊びに来たような感覚で
リクエストしてもらうのが理想です。
アクティビティも、メニューがあって選んでもらうのではなく、
ゲストの気分によって、車で動物園に送ることもあれば、
地域のプロフェッショナルを紹介して山に登ったり、森で火おこししたり、
畑仕事をやってみたり、“地元の人と一緒に遊ぶ”体験を提案しています」
冬場自然のなかで体を動かしたい人におすすめしたいのはスノーシューやスノーハイク。写真の案内人は土地の資源を生かした遊びを生み出している当麻町の石黒康太郎さん。
「人を通じて得た思い出は絶対忘れないし、関係人口にもつながっていくと思うんです。
いい意味でこの土地に縛られて暮らしている、
土っぽい人たちに土地の魅力を話してもらう。その方が旅行者もうれしいはず」
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チェックインを行うコモン棟は、宿泊者の朝食会場でもあり、
11:00~16:00には誰もが利用できるカフェとしてオープン。
地域の人たちの憩いの場にもなっています。
コモン棟の内観。薪ストーブがあり冬でも暖かい。(撮影:鈴木裕矢)
カフェでいただけるのは、
地元で人気の珈琲店〈りむ商会〉とコラボした〈旭川公園ブレンドコーヒー〉や、
市内の老舗〈上森米穀店〉の黒米を加工した〈くろこめ茶〉、
隣町・当麻で人気のブーランジュリー〈廻りみち〉の焼き菓子など、
この地域ならではのもの。
使用する器も、9割以上が近くの〈突哨山〉で作陶する工藤和彦さんの作品です。
〈上森米穀店〉の〈くろこめ茶〉。湯呑みは工藤さん作。(撮影:鈴木裕矢)
朝食やカフェの軽食で提供される米は、
〈上森米穀店〉の〈旭川公園オリジナルブレンド〉、
味噌汁には、近くの〈屯田の里〉で、屯田兵の時代から伝わる製法で仕込まれた
保存料・添加物不使用の〈屯田味噌〉が使用されます。
旭川公園オリジナルブレンド米。購入も可能。
〈お米の朝ごはん〉。〈屯田味噌〉を使用してつくるグラノーラの朝ごはんもある。(撮影:鈴木裕矢)
松本さんが選んでいるのは、
地域でつくられているものであることはもちろん、
“一緒に遊ぶ”体験ができるなど広がりのあるもの。
「上森米穀店の鳥越弘嗣さんとは、
田んぼで一緒に黒米を刈り取って、店で〈くろこめ茶〉を飲み、
脱穀した黒米をゲストの自宅まで郵送する体験、
工藤さんとは、地元の蕎麦職人の蕎麦を
工藤さんの器に盛ってともに食卓を囲むというイベントを開催しました」
ブレンド米の魅力や楽しみ方を教えてくれる上森米穀店の鳥越さん。
このほか、北海道に多く生育し、
現在はほとんどがパルプ材として使用されている「白樺」の、
家具材としての可能性や樹液の活用などを模索する
〈白樺プロジェクト〉にも賛同。
近くの〈突哨山〉で地元の木こりの清水省吾さんに
伐採してもらった白樺を旭川で製材し、
松本さんがファンだった岡山県のメーカー〈ようび〉に
オリジナルスツールをつくってもらったり、
ニセコの隣町・蘭越で採取された白樺の樹液を
ウェルカムドリンクとして提供、
樹液を加工したシャンプーやボディソープもシャワールームに備えています。
白樺を使用した〈ようび〉のスツールがあるのは旭川公園だけ。(撮影:鈴木裕矢)
「旭川公園では、もの自体の紹介はもちろん、
この地で、どういう人が、どんな考えで
ものづくりをしているか伝えることができます。
工藤さんの器のように、本州や海外に根強いファンが多いのに、
意外と地元では知られていない上質なものはたくさんあります。
近くにおいしいお米や野菜を直接買うことのできる農家さんがいることもそう、
白樺プロジェクトに携わる木こりがいることもそう。
ものを通じてこの地域にはこんなにすごい、
おもしろい人がいるんだということを、
外から来た人だけではなくて、地元の人にも知ってもらいたいんです」
旭川公園のホームページでも、身近に暮らす魅力的な人たちを取材し、紹介しています。「気になる人がいれば一緒に会いに行くこともできます。そういう使い方をしてもらえればうれしいですね」
松本さんは〈旭川公園〉にとどまらない交流にも積極的。
かたちはゲストハウスの運営者ですが、
「地域のつなぎ役となって、いろんな人を混じり合わせ、
公共空間を豊かにしていきたい」と考えています。
年始には、冬場運動不足になる小学生と大学生が、体育館でキックベースを行い、
近隣農家の話を聞きながら、つくってもらったぜんざいを食べるイベントを企画。
「学生も地域資源だと思うんです。
回り回って旭川公園を知ってもらうことにもなるし、
地域で暮らす異年齢と出会うことで、
学校内に固定されてしまいがちな人間関係を広げることができる」
「自分がつなぎ役になることで、地域の人同士が交流したり、ゲストがこの地域の人にまた会いに来てくれるのが一番うれしい。」と話す松本さん。
人が出会うことで、まちはおもしろくなっていく。
宿泊はもちろん、カフェのみの利用でも
「普段着の旭川」の魅力を教えてくれる〈旭川公園〉。
旅のはじまりに、住んでいる人は地元の魅力の再発見に、訪れてみてはいかがでしょうか。
information
旭川公園ゲストハウス
住所:北海道旭川市永山1条24丁目2-4
電話:090-6664-4141
WEB:旭川公園ゲストハウス
〈カフェ〉
営業時間:11:00-16:00
定休日:日・月曜
〈宿泊〉
チェックイン:16:00-22:00
チェックアウト::10:00まで
定休日:不定休
森:1棟16,400円(*原則2名利用、トイレ、ロフト、シンク付き)
風・土:1名7,300円(*2段ベッドシェアルーム、トイレ・シャワールーム共用。)
*予約はホームページの問い合わせフォーム(3日前まで)または電話、楽天トラベル、Airbnb(森のみ)から
*キャンセル料は10日前より発生
*連泊の場合、2泊目以降から1000円割引。学割、地元割あり
*朝食:800円~(前日までに要予約)
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