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posted:2019.11.25 from:秋田県秋田市 genre:アート・デザイン・建築
〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
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writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
こちらまで顔がくしゃくしゃになってしまうほどの笑顔で迎えてくれたのは、
書籍『秋田デ、~秋田で、デザインをするということ~』を出版した、
澁谷和之さん。
お父様を亡くした2009年から、「東京で、デザインすること」を辞め、
生まれ故郷の秋田県美郷町で〈澁谷デザイン事務所〉を営んでいます。
独立してから10年、パッケージやロゴマークをデザインする
「いわゆるデザイン」だけではないデザインに、
秋田という地で向き合い、走り続けてきました。
「デザイナーってなんだろうって考えるんです。
絵がうまいとか、パソコンが得意とかそういうことではなくて。
デザインは特定の人ではなく、みんなが持つべき思考だと思っているので」
「この本は、肩書きが“デザイナー”ではない人にこそ読んでほしい1冊」
と話す澁谷さんに、その思いをうかがいました。
ページをめくって目に飛び込んでくるのは、
いわゆるデザインされた商品ばかりではなく、人、人、人。
それも皆、「いい顔」をしています。
書籍には、依頼されたロゴマークを「つくらない」ところから始まる、
コーヒー屋さんと、毎月“ラブレター”をやりとりするかのように
気にかけ合う関係のなかで築き上げてきたブランドデザインや、
屋号やロゴマークのデザインをお手伝いしていた農家さんの、
仲人までしてしまった「結婚というデザイン」など、
「いわゆるデザイン」の枠を超えて、秋田で暮らす人が抱える本当の問題を掘り起こし、
一緒に考え、寄り添ってきた物語がちりばめられています。
読み終えて感じたことは、澁谷さんの前ではみんなかっこつけずに、
素直になっているということ。
そこで思い浮かぶのは、ものづくりのみならず、
家族や農業など、澁谷さんの日常が綴られるブログ『泣いた“なまはげ”の天気読み』。
「デザイン会社は実績をかっこよく並べたホームページを持っているのが
一般的だと思うんですけど、あまり人が見えないなと思っていて。
僕はこういう人間なので(笑)、その部分だけは素直でいたい。
ブログを読んで僕のことを感じてもらって、デザインを相談してくれるのが健全で、
このかたちが密に人とつながれると思うんです」
たくさんの「いい顔」は、さらけ出して一緒に悩んで、
モヤモヤとした問題を解決した晴れやかな笑顔なのかもしれません。
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2009年、秋田に帰ってきた澁谷さんは、
パソコンで作業する「いわゆるデザイン」から離れ、農業をはじめます。
そのひとつが、お父様が退職後に挑戦していたメロンづくり。
「『親父の形見的につくろう』って、母さんと、長靴履いて、
軽トラ乗って、鍬で耕すことをやってみたんです」
『メロンと母と息子』は、苦労して育てたメロンができたとき、記念に撮った写真。
「皮までも愛おしく、ただ捨てることができなかった」と、
皮に墨を塗り、魚拓ならぬメロン拓をつくります。
「この体験が、今のデザインの根っこ。
秋田はやっぱり農業の県なので、一次産業は大事にしていて。
土に触れることが、本当のデザインを考える軸になっています。」
2013年には、〈勝手に宣伝組合〉を旗揚げします。
北秋田市根子集落在住のカメラマン船橋陽馬さんと、
補助金でも、クライアントからの依頼でもない、
秋田県内の「いいな~大好きだな!」と思ったものを“勝手に”取材して、
“勝手に”宣伝していく活動です。
「本というかたちになったのは、
メッセージしたいことがいっぱい出てきたからなのかな」
県外と県内メンバーでつくられた
秋田県発行のフリーマガジン『のんびり』の制作の先で、
地元クリエイターふたりで、どこまでできるかというチャレンジでもあったそう。
「僕にとっては、本でもあるんです」と、
2017年からつくっているのは、〈百目木(どめき)人形〉。
地域の言い伝えや歴史をかたちにしたもので、〈冬告げ銀杏〉がはじまりでした。
「僕が住んでいる百目木という名の集落には、
大きなイチョウの木があって、真っ黄色になると、全部葉っぱが落ちるんだけど、
落ちた次の日に必ず、雪降ってくるんですよ! 僕も1回本当に体験して。
今はスマホで『明日雪だね』って予報を見られるけど、
この集落のおじいちゃんおばぁちゃんは、
『おめ(お前)、あの銀杏の木の葉っぱ落ちてくれば、雪降ってぐるから、
雪囲いせぃよ。さびくねぇ(寒くない)ようにせぃよ』っていう基準だった。
木一本に対して感受性があるって、人として財産だと思っていて。
そこに天気を感じられる言い伝えを、
自分の息子が大きくなったときに話したいと思ったんです。
人形を何気なく玄関に置いておいて
何気なくインプットされていって、物心ついたころに『あれって何なの?』って探ると、
『この村にイチョウの木があってね……』って話すことができる
これって本にもできるでしょ。
でも人形という形にして次世代に伝えるんです」
「郷土玩具って時間が経ってからおもしろがられるので、
未来への楽しみをつくっているのかな。
20年後くらいにおもしろがられていたらいいなって」
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10年を記念するデザイン展も、
〈ココラボラトリー〉をメイン会場に、
秋田市の〈川反中央ビル〉で開催されます。
地下から屋上まで全館に「デザインの課程や考え方」が散りばめられる予定。
〈ココラボラトリー〉は、
澁谷さんが秋田に帰って来た年に開催した、『視線の解像度』展の会場のひとつ。
それまでに培ったノウハウを凝縮させたデザイン展で、
もともとは前年、30代を前に東京で開催したもの。
秋田での開催は、そのとき見にきてくれたお父様との約束でもありました。
「あそこ(ココラボラトリー)が僕のスタート。
あそこに耳のコップを置いて、あそこでいろんなご縁をいただいた。
僕がゼロのころから知ってくれている場所に感謝したい」
会期は2019年11月27日から12月8日まで。7日にはトークショーも開催されます。
本展を前に、〈東北スタンダードマーケット仙台PARCO2店〉では、
連動企画展『東北デ、~東北で、デザインするということ~』も開催されました。
「東日本大震災のとき、東京から『東北大丈夫?秋田大丈夫?』って
連絡をたくさんもらったんです。
そのときに『あ、俺、”東北”の秋田の人間なんだな』って顕著に意識して」
「東北のそれぞれの土地で、
“ちゃんと暮らしながらデザインを考えている人たち”に会いたい。
農家かもしれないし、先生かもしれない。
10年間、秋田にこだわってデザインして来たんですけど、
これからはそういう人たちと一緒に、東北という塊でメッセージしていきたい」
そんな思いで掲げられた『東北デ、』。
澁谷さんからは何度も、「寄り添う」「気にかけ合う」という言葉が聞こえてきました。
依頼されたものをつくって終わりではなく、
そこで真剣に暮らしている人や生み出されているものに
伴走者のように全力で寄り添ってきた
10年の記録『秋田デ、~秋田で、デザインするということ~』。
デザイナーという肩書きを持たない私たちが、
デザインするということ、
その土地で暮らしていくことを考えるきっかけになる1冊です。
information
『秋田デ、~秋田で、デザインするということ~』
発行:澁谷デザイン事務所
判型:A5 224ページ
定価:1800円(税込)
編集・アートディレクション・デザイン:澁谷和之
2009年に〈澁谷デザイン事務所〉として独立。商業デザイン・ブランディング・書籍編集・イベント企画など、東北・秋田県内を中心に活動。
ブログ:『泣いた“なまはげ”の天気読み』
購入のお問い合わせ:shibuya523@honey.ocn.ne.jp(澁谷デザイン事務所)
*澁谷デザイン事務所10周年デザイン展
期間:2019年11月27日(水)~12月8日(日)
メイン会場:ココラボラトリー(川反中央ビル内 全館に展示予定)
営業時間:10:00-19:00(最終日は17:00まで)
定休日:月・火曜日
住所:秋田県秋田市大町3-1-12 川場中央ビル1F
電話番号:018-866-1559
Web:ココラボラトリー
*東北スタンダードマーケット
住所:宮城県仙台市青葉区中央3-7-5 仙台PARCO2 5F
電話番号:022-797-8852
営業時間:10:00-21:00
定休日:不定(仙台PARCO2に準ずる)
Web:東北スタンダードマーケット
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