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連載

どうせ無理だと思わなければ、
宇宙開発だってできる。
「植松電機」前編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.001

posted:2014.4.22  from:北海道赤平共和町  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。

伊勢谷友介さんがパーソナリティを、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

“宇宙に行きたいから”が理由ではない宇宙開発。

父親が営んでいた車のモーターを修理する仕事からスタートし、
ロケットを自分たちの手でつくって、打ち上げ運用までできるようになった。
そんな植松電機の取り組みは、まるで夢物語のように思われる。
“どうせ無理だと思わなければ、宇宙開発だってできる”と語るのは植松 努専務。
年間講演数が最高で374回という植松さんの言葉は、胸が熱くなることばかり。

植松さんは、「宇宙開発は手段です」と言い切る。
もちろん子どものころから飛行機や宇宙に憧れる少年ではあったのだが、
宇宙開発に取り組み始めたのは
「“どうせ無理”という言葉から、
社会のさまざまな問題点が生まれている」と感じたから。
その“どうせ無理”という言葉が象徴する最たるものづくりが宇宙開発だ。

誰もが一度は憧れるが、宇宙開発なんて一部の選ばれし優秀な人が、
莫大なお金をかけてやるものと思い込み、“どうせ無理”とあきらめてしまう。
しかもその言葉を発するのは、やったこともないひとたちだ。
そんな宇宙開発を植松さんがやってのけたら、
“どうせ無理”という言葉に負けないひとができるかもしれない。
だから植松さんにとって、
ロケットや人工衛星をつくるというものづくりは、社会へ訴えかける手段なのである。

無重力実験棟を下から見上げるとまるでSFの近未来! 世界中から実験し集まってくるのだ。

こうして今ではロケットづくりから打ち上げ運用、
人工衛星もまるごとつくれるようになり、実際に宇宙で動いた。
無重力実験施設は、世界で一番稼働している。

ロケット開発の直接のきっかけは、北海道大学の永田晴紀教授との出会いだった。

「ロケットエンジンは、爆発して危ないからつくってはいけないと思っていた」

ところが永田教授は爆発しにくいエンジンを開発していた。
しかし実験するのに、大きな音が出るので場所が必要だった。
そこで最初は場所を貸すくらいのつもりでいたが、
よくよく聞いてみると、お金がなくていつ実験を始められるかわからないという。

「国立大学の研究機関の教授のはずなのに、国もお金を出してくれない。
そこで、うちでつくってみようかと思ったんです、
お金はないけど、部品をつくることはできる」

なかなか燃えないポリエチレンを急速に燃やす技術を開発した。たった3kgのポリエチレンから、25,000馬力を取り出すことができるようになった。

ロケットを、なぜ自分でつくれると思ったのか?
ここにも植松さんのものづくり哲学が秘められている。

「新しい分野の仕事を始めるときには、必ずその分野の歴史を調べるんです。
どんなものでも最初は、個人が手づくりでつくっているんです。
それを知れば、つくれる気がしてくる。
ロケットエンジンも、アメリカのゴダードさんの手づくりロケットを調べてみました。
そうしたら、あきらかにもっといいものをつくれそうだなと思って(笑)。

例えば60年代のアポロは月までたどり着いたけど、
当時のコンピュータなんて、
ファミコン以下の性能といってもいいくらい。
いま僕たちが普段使っているコンピュータなんて、
当時でいえばスーパーコンピュータ以上ですよ。
だったらもっと素晴らしいことができそうじゃありませんか」

すごくポジティブな考え方だ。
でも笑い話に終わらせるのではなく、実際にそれで原理原則を勉強し、
あとは一足飛びに現代の技術を使って応用していく。
“どうせ無理”ではない。

パラシュートが納入されているフェアリング部分。

キャッシュ以外にも資本はある。

宇宙開発を始めて、まずは植松電機の社内が変わってきた。
“どうせ無理”とあきらめる社員は、もういない。

「“どうせ無理”の反対語は“だったらこうしてみたら”です。
うちの社員は、この言葉を頻繁に使っているので、ほっといても開発が進んでいます。
変わったことをしてくれるし、勝手におもしろい仕事を持ってきてくれます。
本業の売り上げも伸びています」

これを植松さんは“ひとりスピンオフ”と呼んでいる。
宇宙技術においては、それが民間に活かされることをスピンオフというが、
社内でそれが起こってしまう。

「自分で研究開発した成果で、会社の売り上げに貢献できる。
これが本当に起きるということを、ほかの会社にももっと知ってほしい」

植松電機の稼ぎはマグネット。
産業廃棄物から鉄を取り除くためのバッテリー式マグネットだ。
これが壊れたから修理に来てくれという本州からの依頼が、
北海道の企業にとっては実は一番つらかった。
そこで、壊れやすい箇所を徹底的に研究して改良し、どんどん壊れないものに、
たとえ壊れてもお客さん自身で修理できるようなものにまで進化させていった。
製品としてはすばらしいが、すべてに行き渡ってしまったら終わりだ。
一生続く仕事はないということ。

「どんな仕事にも寿命がある。
大事なのは、寿命を延ばす努力ではなく、次の仕事に変化する努力だと思います。
あったらいいと思うものが、世の中にまだないのなら、それを僕たちがつくればいい。
50%で“食いぶち”を稼いで、50%で未来へとつながる道を探すべきです。
研究開発は、どんな企業でも必ずやらないといけないことだと思っています。
でも、日々の食いぶち100%で生きている企業が多いのが心配です」

こうしたものづくりへの姿勢を広めたいがために、
宇宙開発をお金儲けではなく、手段として利用する。
植松さんはいう。
「キャッシュは増えないけど、知恵と経験と人脈は着々と増えています。
これって絶大な資本ですよね」

“UE”マークとともに植松努さん。プラモデルやモデルガンがいまでも大好きな、永遠のものづくり少年だ。

ライフスタイルを変えるARCプロジェクトも夢物語か?

植松さんが宇宙開発とともに取り組んでいるのが、ARCプロジェクトだ。
住宅コストを10分の1、食のコストを2分の1、
学費を無料にするという目標を掲げている。
その出発点は、通常使っているお金のうち、
住宅と子どもの学費が多くを占めているが、
その価格が適正なのか? という疑問からだ。

マイホームを建てても、払い終わるころには価値はなくなってしまう。
そしてリフォームという名の解体を繰り返すのみ。
そこでARCプロジェクトでは、解体しない家づくりを目指している。

「実はものづくり企業を退職したひとたちで、
老後を研究開発に費やしたいというひとは多いんです。しかし設備がない。
そこで、ここに住んでもらって、施設を貸す。
そうすれば何でもできるし、人脈ごと来てもらえる。
それぞれが開発した家に住んで、それぞれが被験者。
おそらくリビングコスト10分の1は容易に達成できると思います」

改善していける能力のあるひとが自分で住めば、どんどん良くなりそう。

「食に関しては、北海道の農家は、一次製品を出すだけで止まっています。
ちょっとした加工までできるとぐっと付加価値は上がり、
利益も上がると思うのですが、機械が高くて買えない。
そこで、農家のみなさんと協力しながら、一次加工の機械を開発しています」

教育に関しては、ARCプロジェクト以外にも植松さんは熱心に取り組んでいるので、
その思いを次週紹介する。

現在は、宿泊可能な研究施設としてARC棟をつくり、研究が進められている。
13万㎡という植松電機の敷地内にまちをつくってしまうとしている。
ものづくりのまちだ。

車の修理からロケット、そして住宅や食を包括したまちづくりへ。
まだお金は儲けられないかもしれない。
でも、なんだか夢がある。

後編:【植松さんの語る教育とものづくりの未来。「植松電機」後編】はこちら

Information

map

植松電機

住所:北海道赤平共和町230-50
TEL:0125-34-4133
http://uematsu-electric.fte.jp/
http://uematsudenki.com/UE1/HOME.html

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