連載
posted:2014.4.29 from:北海道赤平共和町 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
前編:どうせ無理だと思わなければ、宇宙開発だってできる。「植松電機」前編 はこちら
多くの講演などに呼ばれる植松電機の植松 努さん。
最近では、モデルロケットの打ち上げやプラモデルづくり教室など、
なるべく子どもを対象としたものを実現しようとしているようだ。
ものづくりを媒体にして、子どもたちの未来を案じている。
その理由を「いまの子どもたちの職業観や進路選択の考え方は、
あまり健全ではないと思っています。
親が子どもを愛するばかりにラクさせようとしているから」と語る。
試しに、ものづくり教室などに参加した子どもたちに
“いい会社とは何か?”と質問してみると、
“ラクできて、給料がよくて、安定している会社”という答えが返ってくる。
親がそう言うからだ。
そして子どもたちは、そういう会社に入るための勉強だと思っている。
「だから“学問は社会を良くするためのものだよ”と伝えています。
いろいろなことを犠牲にしながら勉強して、高い能力を得た。
その先が、いい会社に入ってラクをするということは、
大人になったら実はその能力は使わなかったということ。おかしいですよね?」
たしかに何のための勉強かわからない。何にもつながっていない。
「以前、ある頭のいい高校の学生を相手に話したときのことです。
偏差値的にはどの大学にでも行けるのに、
どこに進学して何をしたらいいかわからないといいます。
でも私が話をしたあとに、彼らから決意表明がきたんです。
そこには“世界の難病や貧困をなくす”など、夢のある内容が書かれていました。
彼らくらい優秀なら本当に実現してくれそうで、嬉しかったですね」
そうやって自分の勉強したことが活かされていくのを想定していると、
より勉強にも身が入るというもの。
それを夢というのかもしれない。しかし大人は現実を見ろという。
「そんなこと気にするなと私なら言います。
若い年齢で現実を見たら、当然できることが限られています。
しかし、できないと判断した瞬間に成長が止まります。
それからは、できることしかやらなくなる。
ひとは憧れて手が届かないときに、ジャンプするんです。成長するんです。
できるかできないかではなく、やりたいかどうかで判断してください」
いい学校、いい会社、いい仕事というものが、
偏差値的なものだけではなく、ほかの価値観もあるということ。
それは、地方と都会という問題にも関わってくる。
「どのまちでも、学力を向上させようとします。
しかし、いわゆる“いい学校やいい会社”がそのまちになければ、
都会などに出ていきます。赤平からも、札幌や東京に出ていきます。
だから教育に力を入れるほど、人材が外に流出してしまいます。
このあたりにもいい企業はたくさんあるのに、
みんな人材確保ができなくて困っています。
会社や就労、学校というものの概念を変えていかないといけないと思っています」
そうして新しい学校をつくろうとした。
それが先週紹介したARCプロジェクトでの学費ゼロの取り組みだ。
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「いまプロトタイプとして取り組んでいる仕組みとしては、
先生は全員、地元企業のひとたち。
決まった校舎はなく、企業の空き部屋を使って勉強します。
学生もいろいろな企業を選べるし、調べられます。
いい人材が集まれば企業は良くなるはずだし、
各地域で活躍できる人材を育てられるのではないかなと。
企業にとってプラスになるような育成システムをつくって、
それ自体を企業が運転してしまえば、学費はかからずに済むでしょう」
企業の面から考えても、人材育成は急務かもしれない。
特に植松さんがものづくりの立場から懸念するのは研究開発部門。
現在の日本の教育では、この人材育成は簡単ではない状況が広がっている。
「デジタル技術などが発達して、
CADで図面が描ければ、どこでも誰でもものがつくれる世界になってきました。
マスプロダクションが完全にオートメーション化され、
単純作業は日本からなくなりつつあります。
これから先は発案や研究開発能力がある人材が必要になってきます。
ところが多くの企業が、そういう人材がいないと嘆いています」
そういった思考をもった子どもたちを育てなければいけない。
未来をつくるのは、子どもたちなのだから。
教育のなかで重要なのが、親の意識改革。
植松さんは子どもに対して話をしているようで、
実はその向こうにいる、親御さんに向かって発している言葉がある。
たとえば、ふたつの言葉。
「我慢という言葉の意味。“我慢=あきらめること”ではありません。
何かをほしがっても、我慢しなさいとあきらめさせてしまう。
本当は、代替案を提示したときに初めて我慢は我慢になるんです。
そうしないと、大人になって我慢しなくてはならないときに、
ただあきらめる人間になってしまいます。
空気を読んで、顔色をうかがうことで我慢した気になっていると、
最後には居場所がなくなってしまいます。
我慢とは、いやな思いをしたときに悔し涙をぬぐって、いつか仇を取ることなんです」
まさに植松さんが常に唱える
「“どうせ無理”ではなく“だったらこうしてみたら”」の提案。
「もうひとつは、一生懸命。
これは一生やり続けることであって、ひとつのことだけに打ち込むことではありません。
いくつもやっていると、一生懸命やっていない、中途半端だといわれてしまいます。
それに中途半端はいけないことではありません。
金メダリストだけが一生懸命で、銀メダル以下は中途半端なんてことはないですよね?
何もできないよりはちょっとできるだけマシと思えばいい」
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また、「理想には届かなくてもいい」という。
それは残されていく子どもたちへの思い。
「自分の代で完結しないような夢がいいと思います。
すると次世代が大事になり、自分の仕事を引き継いでくれる人のことを意識する。
自分の代ではできない夢に突き進む人を増やさないと、
社会は一代限りでしか考えられない人に食い荒らされてしまい、
持続不可能になってしまう。だから理想は高く遠く」
植松さんは、子どものころ、学校の成績が良くなかった。
それでも宇宙開発ができることを実際に証明した。
夢を持ち続け、あきらめなかったからだろう。
いつまでも、子どものような遊び心を持って、ポジティブシンキング。
インタビューの最後にふとしたこんな質問にも、目を輝かせて答えてくれた。
“地球外生命体はいると思いますか?”
「いると思います。それは古代の地球人だと思っているんです。
地球上には過去に高い文明を持っていたらしい痕跡がたくさんありますよね。
彼らは過去にきっと何かをやらかして、地球から逃げたんです。
それで帰ってこようと思って、遠目から様子を見ている。
だからあまり直接的にコンタクトしてこないんです。
それが本当に地球外生命体なら、とっくに直接コンタクトしてきて、
敵対関係ならすでにやられていますよね。
そうしないで、そっと見守っている感があるのは、元人類だからだと思うんです」
いつまでも宇宙に夢とロマンを馳せる心。
その心がロケットを飛ばすし、人工衛星も実現させる。
ものづくりを進化させるのは、いつも理想を高く持っているひとなのだ。
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植松電機
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