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三陸映画祭 in 気仙沼

TOHOKU2020
vol.011

posted:2012.10.20   from:宮城県気仙沼市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

気仙沼で映画祭が行われる“希望”を、園子温が語る。

10月5〜7日にかけて、三陸映画祭が宮城県気仙沼市で行われた。
気仙沼のカフェやバー、コミュニティスペースなど、
津波に堪え、残っている建物12か所が会場だ。
一番大きい市民会館こそ1000人規模の会場だが、
他はすべて30〜40人程度の小さな会場ばかり。
座布団の上でお茶を飲みながら“寅さん”を観たりと、
のんびりとした雰囲気が漂う会場もあった。

東北が舞台となっている『男はつらいよ』を上映。寅さんのイメージキャラクターもサマになっています。

「映画はもちろん楽しく観て欲しいですけど、気仙沼を始め、
とにかく被災地は情報を発信し続けなくてはならない。
そうすることで、何かにつながる。
気仙沼という名前が出ることに意義があります」と話すのは、
実行委員のひとり、伊藤雄一郎さん。
メディアに出る機会が減っていくなかで、私たちを忘れるなという願い。
また、どうしても仮設住宅などに引きこもりがちになってしまうという市民に、
何かの目的を持ってまちへ出てきやすい仕掛けもつくり続けないといけない。
映画祭と銘打ってアピールし、県外などからもたくさんひとが訪れたが、
地元のひとの交流にも一役買うことになるのだ。

市民会館に飾ってあったのは流されてしまった大漁旗を洗ったもの。小さな布にメッセージを書き込んで、思いを縫いつける。

三陸映画祭では何人もの有名な映画監督が訪れ映画を公開したが、
なかでもひとつの話題作がジャパンプレミアとして初公開された。
『希望の国』。園子温監督が気仙沼をロケ地のひとつとした原発を巡る物語だ。

舞台挨拶直前、「だんだん緊張してきた」という園監督。

園監督は、釜山国際映画祭からその足で舞台挨拶のために気仙沼を訪れた。
映画の内容としても、
気仙沼という地で舞台挨拶の直前に受けるインタビューという意味でも、
緊張感のある、神妙な面持ちであった。

「すぐに映画を撮らないといけないと思って、
昨年の夏には取材を始めていました。
風化する前に、急いで公開しないといけない。
日本映画がだまっててはイカンと思って」と語る園監督。

気仙沼など、本当の被災地がロケ地として使われたことで、当然批判もあった。
「今日、ここに来るまでの間も、もうあの頃の風景ではありません。
撮影しているときも、日々、変わっていくまちを目の当たりにしていました。
だからこそ、記録に残そう、歴史に刻もうと自分を奮い立たせて
撮影に臨んでいました」と、撮影時にはかなり葛藤があったようだ。

(C) 2012 The Land of Hope Film Partners

『希望の国』をどのような気持ちで見ればいいのか、
複雑な感情が生まれてくる。
ただわかることは、被災者とそうでないひとを分ける映画ではないということ。
「東京から気仙沼に来ると、自分は被災者ではないような気がする。
でも東京でも放射線が検出されることもある。
だから被災者なのか、そうではないのか、というのは
角度によっていくらでも変わるものなんです。
これは取材をしていたときの僕の素直な気持ち。
両方の気分が行ったり来たりします。日本は小さな国なんだし、
そういうことはもうそろそろ言わなくてもいいんじゃないかな」

気仙沼がロケ地となったカット。(C) 2012 The Land of Hope Film Partners

すべての日本国民にそんな思いを喚起させたい。だから映画を撮る。
「すでにここで取材を受けている時点で映画を制作した意味があります。
何か一歩踏み出せば、それなりに反響が起きる。そして何かを変えていく。
それを信じられなかったら、映画をやっている意味がありません。
この映画を撮ったことで、自分が映画監督であることを誇りに感じています。
でもなんで僕なんでしょうね。
あの監督やこの監督が撮っても良さそうなのに(笑)」

マルト齊藤茶舗は、明治30年創業のお茶屋さん。全壊状態だったが、ボランティアと店主の手で修復された。こんなところも会場に。

このインタビューの直後には、舞台挨拶に立つことになる。
被災地で映画を観終えた観客が待っている。これはかなりの緊張感だろう。
「正直、気分は良くないですよ(苦笑)。
“みなさん、今日は楽しんでもらえましたか?”
なんて言える作品じゃないですからね。でも観てもらわないといけない。
すごく覚悟を決めて舞台に立たなければなりません。
ただ、こんな覚悟を決めなければならない映画を撮れて良かったとも思います。
自分にとっても一歩前進しました」

撮影時にフィルムコミッションのスタッフからもらったという、気仙沼のゆるキャラ「ホヤぼーや」ジャケットを着て登壇。

最後に『希望の国』というタイトルの話。
皮肉のようにも取れるし、ストレートな気持ちのようにも思える。
「最初は皮肉のつもりだったんですけど、
でもだんだんそんなこともないかなと。
今年の初日の出を福島県の南相馬町で見たんです。
かつて凶暴だった海が静かに広がっていて、
徐々に上ってくる初日の出が海を赤く染めていく。
その太陽があまりにも輝いていて、
今までの人生でもっとも美しい初日の出でした。
それを見た瞬間に、何の理屈もなく直感的に、
この国は希望の国であると確信しました」

園監督は、3.11をテーマした映画をこれからも撮り続ける。
「やめられなくなってしまった」という。
今作のラストシーンは、衝撃をもたらすものだったが、
時間とともに変化していく園監督の心情を
これから公開されるであろう映画で追っていきたい。

みなみまちcadoccoは、ドラえもんやポケモンなど、子どもたち向けのコンテンツで賑わっていた。

このように大物監督から子ども向けのアニメ映画まで、
幅広い映画を放映した三陸映画祭。
でもなぜ「気仙沼映画祭」ではないのか? 実行委員の伊藤さんはこう話す。
「三陸全体で盛り上げていきたいんです。
だから来年は可能なら、石巻、南三陸、陸前高田とか、
ほかの場所で三陸映画祭をやりたい」
さて、来年はどちらのまちで映画を観ましょうか。

鹿折地区の復幸マルシェでは、プレゼント争奪じゃんけん大会が開催。ストライダーやゲームソフトが景品だ。

informaion

『希望の国』

監督・脚本 園子温
出演 夏八木勲、大谷直子、村上淳、神楽坂恵、清水優、梶原ひかり ほか
制作 「希望の国」制作委員会
配給 ビターズエンド
10月20日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次ロードショー

http://www.kibounokuni.jp/

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