連載
posted:2013.2.21 from:福島県郡山市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。
writer's profile
Kayano Miyoshi
三好かやの
みよし・かやの●ライター。宮城県生まれ。食材が産声を上げる最前線で取材すべく、全国を旅するかーちゃんライター。少女時代から無類のホヤ好き。震災から3年、ようやく復活する三陸のホヤを酒の肴に味わうのが、目下一番の楽しみ。創刊86年を数える「農耕と園芸」で、被災地農家の奮闘ぶりをルポ。東北の農家さんや漁師さんの「今」を、「ゆたんぽだぬきのブログ」で配信中。
http://mkayanooo.cocolog-nifty.com/blog
credit
撮影:内藤 博之(メイン・本文内・料理)/三好かやの(本文内)
「東北の食を元気にしよう!」
東日本大震災以来、奔走&奮闘し続ける「アル・ケッチァーノ」奥田政行シェフ。
2011年は、三陸沿岸部の被災地へ何度も通い続け、炊き出しの料理でみんなを励まし、
2012年は、スイス・ダボス会議や、
スペイン「マドリード国際グルメ博」に参加して、日本と東北の食をPR。
そして2013年は「福島を応援する年」。
1月19日、郡山市の料理専門学校で、
料理人のタマゴたちと福島産の食材満載の「エッセンシャル・キッチン」を開いた。
福島生まれの“未来のシェフ”たちは、徹底した奥田イズムを学び、
5年後には「故郷にフク・ケッチァーノを開く」ことを夢見て、目下のところ修業中。
「学校法人永和学園 日本調理技術専門学校(Nitcho)」。
ここは、福島県郡山市にある福島県唯一の調理専門学校。
校内には、高級レストランさながらのキッチンとスタジオがあり、
時おり市民を招いて、生徒たちが日頃の修練の成果をお披露目するレストランが開かれる。
1月19日、特別講師に山形県鶴岡市「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフを招き、
恒例の「エッセンシャル・キッチン」が、開催された。
この日のゲストは、光産業創成大学院大学の瀧口義浩先生。
放射線を長年研究してきた専門家で、
奥田シェフとは被災地支援活動の中で出会ったそうだ。
先生は、小さなお弁当箱ほどの大きさの、小型「Radiation Tracker」を開発。
これを携帯すると、立ちどころに放射線量がわかるという。
試しに郡山市内を歩くと、室内は0.2μSv前後で安定していたが、
外に出ると線量が3〜4倍に上がる場所が少なくないことも判明。
郡山では、見えない放射線がもはや身近な存在なのだ。
「その被曝線量を算出することが、健康を守ることに繋がる」と瀧口先生。
奥田シェフは、瀧口先生を介して、放射線測定器を店舗に導入し、
「食材を徹底的に検査して、安全が確認できれば、使う」というポリシーを貫いている。
詳細は末尾ですべてご覧いただけるが、この日提供された料理は全部で9品。
メヒカリの素揚に甘味とシャキシャキの食感を添えた白菜や、
トラフグのリゾットに使われた冬寒菜(キャベツ)、
そしてネギは、郡山市内の野菜農家、鈴木光一さんが育てたもの。
生産者であり、種苗店も営む鈴木さんは、郡山の若手農家のリーダー的存在。
伝統野菜や新品種の開発にも熱心で、
生でも食べられる「佐助ナス」や、糖度の高い「隠田かぼちゃ」など、
稀少でしかも高品質の野菜を栽培し、郡山の農業を復権しようと日々奮闘している。
実はこの鈴木さん、「Nitcho」でフランス料理を担当する鹿野正道先生が、
「何を作っても美味い」と太鼓判を押すカリスマ農家。
冬の寒さを耐え抜いて、甘味を蓄えた野菜たちが、シェフの創作意欲もかき立てるようだ。
「カブのヴルーテ」は、
いわき市にある坂本農園の聖護院カブを裏ごしし、
滑らかなスープに仕立てた前菜。
会場から「これ、牛乳でないの? ポタージュ? いや違う、カブだ!」
などと驚きの声が続出した料理でもある。
さらに一同を驚かせたのは、
いわき市の坂本和徳さんが育てた「西洋ゴボウ(サルシフィ)」。
日本のゴボウとは異なる姿形で、白と黒の2色ある珍しい品種。
奥田シェフも図鑑でしか見たことがなく、築地市場でもめったにお目にかかれぬ貴重品とか。
「こんなに立派なサルシフィが、いわきにあるとは知らなかった」
「牛蒡って、牛の房=尻尾って意味がある。だから牛とよく合うんです」
福島牛のタンと、いわき生まれの西洋牛蒡。「はじっことはじっこ」のステキな共演。
いわきのみなさんがたたえていた笑顔が、印象に残る。
「料理人には消費者と産地を守る責任がある」。それが奥田シェフのポリシー。
料理を支える生産者の元気を取り戻すことが、東北全体の復興につながる。
そして今、そうしなければ、東北だけでなく、日本全体の農業が失速してしまう。
そんな危機感を背負いながら、奥田シェフはキッチンに立っている。
「福島は、東北で一番豊かな場所。助けたいんです」
そんなシェフの意志を実現させるべく、学校の講師陣、職員、生徒など、
合わせて27人が68人のお客様のために、全力でサポート。
震災以降、除染作業や風評に悩む生産者が決して少なくない福島県だが、
しかし、基準値を超えるセシウムが検出されるケースは、徐々に減っており、
最近は特に野菜からはほとんど検出されていないとも聞く。
(※参照『ふくしま新発売。』)
そんな福島の産物を確実に理解して、ちゃんと料理することで、
食べる人たちみんなをシアワセにする。
そんな奥田イズムを徹底的に学び、福島の食を応援すべく日々奮闘している若者たち、
それがNitchoの卒業生たちだ。
奥田シェフが開いた鶴岡と東京の店で今、17人が働きながら修業中。
彼らの目標は、奥田シェフからがっちりと地産地消の哲学を学び、
故郷に「フク・ケッチァーノ」を創ること。
通常は10年修業を積むところ、なんとか5年で実現させたい。
そんな願いを胸に、日々修業に励んでいます。
「みんなの頑張りしだいでは、3年、いや2年後には実現するかもしれません」
故郷で、地元の素材を使うことで生産者を応援。
そして食べる人をみんなシアワセに……そんなフク・ケッチァーノを夢見て、
東京で、鶴岡で、若者たちの挑戦が続いている。
「ESSENTIAL KITCHIN」で供された皿の数々をずらり。
メヒカリの素揚げと鈴木農園の白菜の一夜漬けのサラダ
坂本農園のカブの冷たいヴルーテと、川俣シャモと福島牛コンソメジュレ&フォアグラ
ブロッコリーとアンチョビとホタテのソテー
鈴木農園の冬寒菜とトラフグのリゾット
川俣シャモと青大豆のフレーグラ
鈴木農園のねぎのマリネ シェリーヴィネガーとクミンで
坂本農園のごぼうのフォンデュータをかけた福島牛の牛タン
小沢農園のイチゴで作ったイチゴのシャーベット
キャラメルムース、エスプレッソのエスプーマ添え
奥田シェフが現在手掛けているお店情報
Al-che-cciano
アル・ケッチァーノ
住所 山形県鶴岡市下山添一里塚83 TEL 0235-78-7230
営業時間 11:30 〜 14:00(L.O.) 18:00 〜 21:00(L.O.) 月曜・火曜(月1回)休
※「イル・ケッチァーノ」も併設
YAMAGATA San-Dan-Delo
ヤマガタ サンダンデロ
住所 東京都中央区銀座1-5-10 TEL 03-5250-1755
営業時間 11:30 〜 14:00(L.O.) 18:00 〜 22:00(L.O.)※最終入店は20:30 月曜・年末年始休
Yudero 191 from Al-che-cciano
ユデーロ191 フロム アル・ケッチァーノ
住所 JR東京駅改札内グランスタ 1F TEL 03-3214-4055 営業時間 7:00 ~ 22:00(L.O.) 無休
LA SORA SEED FOOD RELATION RESTAURANT
ラ・ソラシド フードリレーションレストラン
住所 東京都墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ 31F TEL 03-5809-7284
営業時間 11:00 〜 14:00(L.O.) 11:00 ~ 23:00 ※ラストオーダーは20:00 無休
farm il aid FOOD RELATION CAFÉ
ファミレード フードリレーションカフェ
住所 東京都墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ 1F TEL 03-5809-7268
営業時間 10:00 ~ 21:30(L.O.) 無休
infomation
nitcho
学校法人 永和学園 日本調理技術専門学校
住所 福島県郡山市安積4-229 TEL 024-946-8600
http://nitcho.com
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