連載
posted:2012.5.25 from:京都府綾部市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:中島光行
作家・星川淳さんのライフスタイル「半農半著」にインスパイアされ、
「半農半X(はんのうはんエックス)」という生き方のスタイルを提唱する塩見直紀さん。
5月は、京都府綾部で暮らす塩見さんの「いま」のおはなしをうかがいます(全4回)。
山崎
まちづくりのための塩見さんの手持ちの弾、まだまだありそうですね。
塩見
いま「かくまちBOOK」と平行して考えているのは、「2万アート@綾部」です。
山崎
2万アート?
塩見
綾部には約200の自治会(集落)あります。
それぞれの集落で100個のおもしろい宝物
(地域資源、アート的なものなど)を見つける。
合計2万個のおもしろいものを集める、というプロジェクトです。
たとえば、笑ってるように見えるトラクターとか、曲り具合が絶妙な曲り道とか。
しかも、これをひとりでやってみようと思っています。
山崎
それはインパクトありますねえ。そのココロは?
塩見
地域資源を可視化するのが目的です。
山崎
なるほど。地域のひとたちが綾部のよさを再認識するきっかけになるとともに、
あらたに綾部を訪れたり、移住してくるひとたちが
そのよさを知るための材料になる。両面の効果がありそうですね。
塩見
はい。お金をかけず、インパクトを狙おうと(笑)。
山崎
移住者について、塩見さんは以前、
「1集落1移住者」ということばを使っていらっしゃいましたが……。
塩見
ええ。
山崎
このことばの意味、集落へ行けば行くほどわかるんですよ。
現代の集落では、よそ者=誰かわからないひとを受け入れるのに
どうしても抵抗がある。つまり、最初の1人目が難しい。
でも、この1人目がうまく集落の活力になれば、
2人目、3人目は受け入れやすい、と。
だからまずは「1移住者」が肝心ということですよね。
塩見
ええ。綾部では、その考え方がうまく機能して、
すっかり空家が埋まってしまった集落もあります。
山崎
おお、それはすごいですね。
塩見
最近では、そういうところを「積極集落」、
反対に変われなくて衰退の一途をたどるところを「消極集落」と名付けています。
限界集落が二極化している。
山崎
そうなんですよ。
高齢化、戸数減の集落をひとくちに「限界集落」とくくってしまうのは、
実はとても不幸なことなんじゃないか、とぼくも思っています。
笑っているように見えるトラクターも、おもしろい宝物=地域資源になる。
「学生の力を借りるのは簡単だけど、ひとりで歩いてみようと思っています。民俗学者の宮本常一のように」(塩見)
山崎
だから、移住者もだれでもいいというわけじゃない、
できれば面接したほうがいい、ということもおっしゃっていました。
塩見
そうですね。
山崎
結(ゆい)も講(こう)もない都会人が、ただ空家を埋めればいいわけじゃない。
この考え方にも共感しています。
塩見
ありがとうございます。
山崎
いまやインターネットを駆使すれば最先端の情報はどこでも入りますから、
クリエイティブな力をもっているひとであれば、
集落で暮らしながらはたらくことが可能になっています。
その稼ぎで、集落に少しでもお金を落とせば、集落全体の生活が変わりますからね。
塩見
ええ。むしろ、そういうことができないと、もう集落に入れないような時代ですね。
山崎
うーん。綾部、進んでますね!
塩見
しごとがないことを、まちや国のせいにしないひとでないと。
たとえば、お客さんが来ないのを
お客さんのせいにするレストランオーナーはマズいわけですし。
山崎
たしかに(笑)。
塩見
困っていることはたくさんあるので、センスさえあれば、
しごとはじぶんで生み出せるんです。
山崎
デザインと同じですね。社会的な課題がどこにあるのかを認識した上で、
みんなが共感してくれるようなカタチの美しいものとして生み出す。
しかも、ひとつでなくいくつかの課題を解決し、
みんなが欲しくなるような美しいモノ。
これを買えば買っただけ社会はよくなる……。
つまり、課題の本質にアタックして美しくデザインすることができれば、
政治家にもできないような解決策を出すことさえできる。
塩見
それが、はたらくということですよね。
山崎
はたらくとは、「はた」つまり隣で困っているひとを「らく」にすること。
これも、塩見さんに教わりました。
綾部には、解くべき課題がたくさんあるのだから、
しごととしてそれらを解決していけるひとが、綾部をよくしていく。
そういうことですね。
(……to be continued!)
「ふるさと振興組合 空山の里」は、農協がなくなり困った住民が、1戸につき2万円を出し合って作ったスーパーマーケット。このまち唯一の「お店」。
profile
NAOKI SHIOMI
塩見直紀
1965年京都府綾部市生まれ。大学を卒業後、カタログ通販会社(株)フェリシモに入社、環境問題に関心を持つ。33歳で退社して故郷にUターン。「半農半X(はんのうはんエックス)」のコンセプトを提唱し、NPO法人「里山ねっと・あやべ」のスタッフとして綾部の可能性や21世紀の生き方、暮らし方としての「里山的生活」を市内外に向けて発信している。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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