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綾部 Part2
大失敗でも大成功でもない、
この10年について。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.015

posted:2012.5.17   from:京都府綾部市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:中島光行

作家・星川淳さんのライフスタイル「半農半著」にインスパイアされ、
「半農半X(はんのうはんエックス)」という生き方のスタイルを提唱する塩見直紀さん。
5月は、京都府綾部で暮らす塩見さんの「いま」のおはなしをうかがいます(全4回)。

「半農半X」と塩見直紀さんのこと。

山崎

初めてお会いしたのは、4年くらい前でしたか。

塩見

そうですね。雑誌「OSOTO」の取材でした。

山崎

本を読んで、どうしても会いたくて、綾部まで押しかけたんですよね。
田んぼにも入らせてもらって。

塩見

ええ。

山崎

半農半Xとは、小さな農のある暮らしをして、残りの半分の時間は「X」、
つまり自分のやりたいこと(ミッション)に費やすという生き方ですよね。

塩見

はい。でも、オリジナルではなくて、
作家の星川淳さんが著書のなかで使われた
「半農半著」というキーワードにひらめきを得たんです。

山崎

これ、サラリーマン時代にすでに発想されていますよね。

塩見

90年代半ばごろですね。
実は、社長にわがままを言って、ひとり部署のようなカタチで
「ソーシャルデザインルーム」というのをつくってもらったんです。
それが93年から95年くらいのことで……。

山崎

なんと、20年前にソーシャルデザイン!
どんなおしごとをされていたんですか。

塩見

おもに、会長秘書のようなしごとですね。
「地球サミット」関連、環境と教育をテーマにした海外フォーラムや
留学生を招いて「将来世代フォーラム」とか。
会社としても80年代後半から環境問題に取り組んでいたんですから、
ずいぶん先駆的ですよね。

山崎

ぼくらもいま、フェリシモさんと
「issue+design」というプロジェクトをやっています。
その感覚は、いまに脈々と受け継がれているということですね。

綾部市鍛治屋町の風景

故郷、綾部市鍛治屋町。お城も海も「なにもない」まちに、「なにか」を探究し続ける塩見さん。

誰かにとっての「次の行き先」を示す役割を担う。

山崎

塩見さんが33歳でUターンしたときの綾部市はどんな状況だったんですか?

塩見

限界集落に光をあてた四方 八洲男 前市長が就任されて1期2年目。
翌年の市制施行50周年に向けた市民企画を公募中。
母校の豊里西小学校が2か月後に閉校して空き地利用を模索……。

山崎

ものすごく、すっとなじんでいった感じですね。

塩見

そんな感じです(笑)。

山崎

四方さんは、全国でもかなり早い段階で
「限界集落」ということばに反応した方でしたよね。
そんなひとが市長になった、いわばエポックメイキングな時期に
塩見さんが帰ってきて、合流したようなイメージですね。

塩見

ほんとうに恵まれていましたね。

山崎

それで、最初に取り組まれたのが……?

塩見

母校の豊里西小の廃校利用ですね。
行政と二人三脚でNPO法人里山ねっと・あやべのスタートです。

山崎

民間とはやり方が違うでしょうから、
はじめはいろいろ勉強されたことと思います。

塩見

それはもうたくさん学ばせていただきました(笑)。
ときは里山ブームの中盤ごろのことなのですが、
大成功でもない大失敗でもなく「中の下、仕方がないかな」くらいのレベルで
10年なんとか継続してこれました。

山崎

うーん……。

塩見

3.11でもっと大きく日本は変わるかな、と思ったのですが、
世の中の状況はそれほど変わりませんでした。

山崎

そうですね。ローカルに興味はもつようになったけど、
まだ行動を起こせないでいるひとがほとんどです。

塩見

ええ。

山崎

でも、次に「万一なにかあったとき」に、
行き先が示されていることというのはとても大事なことだと思います。
塩見さんの半農半Xプロジェクトのなかにも、
そして、この「colocal」のなかにも。

塩見

だから、もっともっとたくさんのひとに伝えたいですね。
ぼく自身は3.11以降、企画や夢など自分の持ち弾は出し惜しみせず
どんどん撃っていこう、隠さず全部使っていこう、と思うようになりました。

山崎

そのひとつの弾が「書くこと」、というわけですね!

(……to be continued!)

廃校となった旧・豊里西小学校

1999年に廃校となった旧・豊里西小学校。NPO法人里山ねっと・あやべ事務局。教室に宿泊することもできる。

あやべ田舎暮らし情報センター

図書室のような風情の「あやべ田舎暮らし情報センター」。実は、もと保健室。塩見家からの寄贈書もたくさん。

まちを案内してくださる塩見さん

まちを案内してくださった塩見さん。よそものは思わず躊躇するような小径、わき道、曲り道を慣れた足どりですいすいと。

profile

NAOKI SHIOMI 
塩見直紀

1965年京都府綾部市生まれ。大学を卒業後、カタログ通販会社(株)フェリシモに入社、環境問題に関心を持つ。33歳で退社して故郷にUターン。「半農半X(はんのうはんエックス)」のコンセプトを提唱し、NPO法人「里山ねっと・あやべ」のスタッフとして綾部の可能性や21世紀の生き方、暮らし方としての「里山的生活」を市内外に向けて発信している。

Web:http://www.towanoe.jp/xseed/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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