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連載

〈サカモト〉
山とともに暮らすまちが育んだ、
軽やかで柔和なスギのブラインド

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.057|Page 1

posted:2015.3.4  from:鳥取県八頭郡智頭町  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

writer profile

Masatsugu Kayahara

萱原正嗣

かやはら・まさつぐ●フリーライター。主に本づくりやインタビュー記事を手掛ける。1976年大阪に生まれ神奈川に育つも、東京的なるものに馴染めず京都で大学生活を送る。新卒で入社した通信企業を1年3か月で辞め、アメリカもコンピュータも好きではないのに、なぜかアメリカのコンピュータメーカーに転職。「会社員」たろうと7年近く頑張るも限界を感じ、 直後にリーマン・ショックが訪れるとも知らず2008年春に退社。路頭に迷いかけた末にライターとして歩み始め、幸運な出会いに恵まれ、今日までどうにか生き抜く。

credit

撮影:片岡杏子

サカモトからつながる鳥取の森のはなし

鳥取、と聞いて砂丘を連想する人も多いだろう。
だが、鳥取砂丘が県土に占める面積は1%にも満たない。
県土はおよそ3,507平方キロメートル、砂丘は5.5平方キロメートル弱である。
むしろ、県土の大半、74%は森林が占める。
砂丘というのは、川に削られた土砂が砂となって海へ流れ込み、
それが潮と風の力で海岸線に押し戻され、堆積した地形のことだ。
乾燥した砂漠とは異なり、鳥取全土で雨も降れば雪も降る。
鳥取は、西日本有数の雪の多い地域でもあり、
西部の大山(だいせん)の湧き水で知られるように、水の豊かな土地柄を誇る。

そんな鳥取の東南部に、奈良県の吉野杉、秋田県の秋田杉と並び、
スギの名産地と称される智頭町(ちづちょう)がある。
そこは中国山地の1,000メートル級の山々に囲まれた山間のまち、
急峻な山肌を縫うように、鳥取砂丘を育んだ千代川(せんだいがわ)の源流が湧く。
まちの総面積の9割以上を森林が占め、古くから林業が盛んに行われてきた。
町内には樹齢350年以上の慶長杉と呼ばれる人工林が残り、
江戸時代の寛永年間(1624〜1644年)には、
鳥取藩主の池田侯が山奉行を置き、造林を奨励した歴史もある。
いまも林業はまちの中核産業で、
町内人口およそ7,600人のうち、森林組合員は1,200人近い。
木とともに暮らすまち、それが智頭町だ。

智頭町にある牛臥山(うしぶせやま)からのまちの眺望。木々をいただく山に囲まれて、まちの人々は暮らす。(写真提供:智頭町町役場)

智頭町が誇る銘木の智頭杉は、町の東部に自生する
天然杉の原生林、沖ノ山杉から苗をとって育てたものだ。
木目が緻密で粘り強い性質をもつその苗を、専業林家が丹念に手を入れる。
樹齢80~100年ほどにもなると、高さ30~40メートル、
太さ40~60センチの、節のない真っ直ぐな木が育つ。
木の断面は、心材(木の中心部)が濃淡のある褐色、辺材(周辺部)は白色と、
はっきりしたコントラストを示す。
端整で緻密な木目の美しさから、建材はじめ、家具や工芸品まで広く愛用されてきた。

加工前の智頭杉の原木。褐色の心材(中心部)と白色の辺材(周辺部)はコントラストが際立つ。

風土が育む智頭杉の粘り

そんな智頭町に、樹齢80~100年の智頭杉の良品を選りすぐり、
家や暮らしにまつわる木製品を製造する〈サカモト〉という会社がある。
「まるごと家1軒分のスギ材」を掲げ、建材から家具までさまざまな木材加工品を扱う。
1957年、日本の林業が活況を呈していた時期に先代が坂本材木店として創業。
1996年には、2代目の坂本トヨ子さんが、木の世界には珍しく女性ながら代表に就任、
建材に加えて壁材や床材などの内装材や外装材の製造を始め、
2008年からは家具の製造も手がける。

サカモト最大の強みは、銘木の智頭杉と、
その特徴を十二分に引き出す製材・加工技術にある。
それを象徴する製品が、智頭杉でつくる木のブラインド〈ウッディブラインド〉だ。

オフィスにかけられたウッディブラインド。光を浴びた木の淡い色目が、心に和らぎをもたらしてくれる。静電気が起きないのも木のブラインドの特徴のひとつだ。

やさしく光を遮る薄いスギ板は、光を浴びて白と褐色が混じり、
薄紅色にも肌色にも見える。
空調や人の動きで起きた風を、スギ板が静かに受け止め軽やかにゆらぐ。
見た目が実に心地いい木のブラインドは、
一見すると、薄い板材に穴を開けて紐を通せば簡単につくれそうだが、
トヨ子さんいわく「普通のスギではまずつくれない」とのこと。

その理由は、スギという木材がもつ性質にある。
軽くて加工しやすいスギは、古くから建材として重宝されてきたが、
材としての強度はそれほど優れているわけではない。
1センチにも満たない厚さの板材に、ブラインドの紐を通す穴を開けようとすると、
普通のスギだと強度が足りずに割れてしまう。
だが、粘り強い性質をもつ智頭杉は、穴を開けてもヒビすら入らない。
その粘り強さは、智頭の風土によってつくり出されていると、トヨ子さんはいう。

「このまちは、四季の変化に富んでいます。1年の寒暖の差は大きく、
夏は40度近くまで気温が上がり、冬は氷点下の日も続きます。
今日みたいに、雪が降ることも多いですね」

取材で訪ねたこの日、まちは、靴がすっぽり埋まるほどの雪に覆われていた。

「冬が智頭杉をつくる」
そんな言葉があるそうだ。冬の寒さで冬目(*)が締まり、
山の斜面に張りつくように生える木が、雪の重みに耐えて粘りを増す。
その粘りが、穴を開けてもビクともしない強さとなる。
温暖な気候で育ったスギではそうはいかない。

*冬目:木の年輪の境目になる色の濃い部分。色の白いところは夏目という。

木と山について熱っぽく語る坂本トヨ子さん。オフィスの床と壁、机とイスはもちろん、調度品はすべて智頭杉でできている。横型のウッディブラインドがかかる奥の窓は、枠までが木製だ。

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