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連載

〈KINO〉
親は子のため、子は親のため。
東京の木を削る。

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.052

posted:2015.2.10  from:東京都千代田区  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:田中雅也

KINOからつながる東京の森のはなし

東京都には、標高2,000メートルを超す雲取山から亜熱帯性気候を持つ小笠原諸島まで
多様性に富んだ森が分布している。
森林面積は都の面積の4割(約8万ヘクタール)を占めているが、
その約7割が多摩地域西部に偏って分布し、さらに、その4分の3が私有林。
また、多摩地域の民有林では約6割が人工林で、
全国(46%)に比べて、高い人工林率となっている。
林齢構成は、41年生以上(9齢級以上)が約9割を占め、
40年生以下(8齢級以下)は約1割と、こちらも偏って存在している。
都では多摩地域で生育し、生産された〈多摩産材〉の利用拡大を進めている。
平成18年から〈多摩産材認証制度〉を導入。
多摩地域の適正に管理された森林から生産されたことを
〈多摩産材認証協議会〉によって産地証明されると〈認証材〉となる。
森林所有者から製材業者までの流通過程が、登録した事業者によって行われるため、
多摩産材の産地が確実に証明される。

東京の森の問題を、自分ごとに。

budoriは、サイト制作、グラフィックデザイン、商品開発などを通して、
社会問題を解決していこうという会社。
かつて被災地支援でオーガニックコットンの端材を使った
クリスマスオーナメントプロジェクトを手がけていた。
その活動を知ったあきる野市にある沖倉製材所の代表・沖倉喜彦さんから
「東京の山の問題を解決する方法はないものか」と話を持ちかけられた。
自分たちにできることを考えたときに、まず思い浮かんだのがオフィスの木質化だった。

東京の木で木質化したレンタルスペース〈KINOへや〉。budoriオフィスと併設している。

沖倉さんの案内で原木市場へ行き、
木質化に使用する材を選ぶ現場に立ち会ったが、
このとき、たくさんの木が余っている現状を知った。
海外から安く大量に輸入された木材に需要を奪われ、国産の材が売れない。
そのため、伐り時を迎えた木があっても伐られず山に放置されるようになった。
そして成長期を迎えたスギやヒノキから出る大量の花粉により
「花粉症問題」が引き起こされ、現在は花粉の少ない品種の木に植え替えるべく、
伐り旬を無視した伐採が行われている。
その伐採された大量の木が、使われずにそのままになっているのである。

沖倉製材所の代表取締役・沖倉喜彦さん。秋川木材協同組合の理事長も務める。

KINOを手がけるbudoriの有村正一さん。宮沢賢治好き。

「私たちは、節が多くて通常の建材として使えない木を
生かすことができないかと考えました」
そう話すのは、budoriの代表取締役である有村正一さん。

見た目に美しい節のない木ではなく、余っている木材を生かす。
そして山や木の現状を知ってもらう。

このふたつを考えてたどり着いたのが、カトラリーだった。
日常的に木に触れてもらうことで、木を身近に感じてもらう。
木を好きになってもらう。
素材である木に関心を持ってもらうことで、山や木のことを知るキッカケになればいい。
そんな想いから「KINO」というプロダクトブランドを立ち上げ、
匙や箸、バターナイフなどを発売した。

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箸の材のほかに、ヤスリ、布、ミツロウワックス、説明書がセットになっている。

KINOのプロダクトには、もうひとつ仕掛けがある。
販売しているスプーンや箸は、完成品ではないのだ。
おおまかなカタチになっているだけであって、
購入してから自分でナイフで削り、紙やすりをかけなくてはならない。
完成品よりも、自分でつくることで、木への意識がより高くなる。
日本の森はほとんどが植林された森であり、人が手をかけないといけない。
そんな森への思いにもなぞらえる。

おもなターゲットは、子どもとお母さん。
「林業はスパンが長いですよね。東京の木も約70歳です。
つまり数十年後を見据えた話だから、子どもに伝えないと継承されていきません。
いまの親世代が知らないから、子どもたちに教えられない。
だから親とお子さんが一緒に学べるような仕組みが必要だと思ったのです」

その答えのひとつが、〈つくる おやこさじ〉。
大小2本の匙がセットになっていて、
親が子の、子が親の、匙をつくることを想定している。
自分のためではなく、親のため、子のため、誰かのためのものづくり。

つくり手によってさまざまな表情を浮かべるスプーン。

「お母さんのために絵を描いてあげる、というような、
誰かのために何かをつくるというのが、本来のコミュニケーションのひとつであり、
経済活動の第一歩ではなかったかと思うんです。
人のためにつくると、たとえば“おじいちゃんなら細いのがいい”とか、
“お父さんなら大きいのがいい”などと考えるようになります。
それ自体メッセージになるのです」

キットの材は建築材を切り出した余りでできている。
この端材は多摩産のヒノキとスギである。

〈KINOへや〉には、KINO製品以外にも、さまざまな雑貨が販売されている。

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木と一緒に成長する、子どもの未来のため。

KINOでは〈つくるキット〉を利用したワークショップを頻繁に開催している。

「プロダクト自体だけでなく、思いも大事な商品。
だから卸してほったらかしでは無責任です。
自分たちも伝える活動を丁寧にやっていかないと、先につながっていきません」

親からすると、刃物を子どもに使わせることがハードルのようだ。
しかし一度体験してみると意外と使える。
そうすれば家で続きをやったり、あらたなものをつくってもらえるかもしれない。

「ワークショップでは最初に、東京の山の現状を描いた
アニメーションを見てもらうんです。
するとすごく興味を持ってくれて、一生懸命に作業してくれます」

オフィスの一画で、プランターで育てられていたスギの木。命の勉強だ。

ワークショップの最後に、自分がつくったカトラリーを実際に使って食べてみる。
すると、市販のものは“ちゃんとできている”ことを知る。
大き過ぎて口に入らなかったり、持ち手がゆがんでいたり。
スプーンの深さは思ったより浅いのだ。

切り出し方のわかる丸太を使えば、どの部位がKINOに使われているか説明しやすい。

ほかにも、KINOの商品はユニークなプロダクトが多い。
〈つくるカスタネット〉は、木の形をしたカスタネット。
カスタネットといっても鳴子のような構造で、
ゴムで3つのパーツを結び合わせたら完成。
好きに色を塗って楽しめる。
幼稚園のお遊戯や赤ちゃんのガラガラとしても使えると人気だ。
それが奏でる音は、まさに、東京のヒノキの音。

中南米生まれの楽器カホンもつくった。
それが〈さんかくのカホン〉〈しかくのカホン〉。
箱のように中が空洞で、叩いて楽しむ楽器。
さんかくにはスギ、しかくにはヒノキが使われている。

自由に色を塗ってカスタムできる〈つくるカスタネット〉。

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日本全国で森の問題は表面化している。
しかし東京は特殊なケースだろう。東京が一番、都心部と山との温度差が大きい。
「東京には木工所も少ないし、人件費も高い。そういう意味で難しい部分もあります。
でもそんな最も難しい東京からやることに、意味があるのではないか」と話す有村さん。

とはいえ、問題が大き過ぎると見えなくなるものも多い。
東京という地で、身近な自分ごとにできたら、
それは地方や未来にもつながっていくだろう。

宮沢賢治の童話『虔十公園林(けんじゅうこうえんりん)』を絵本化した。日本語、英語、エスペラント語の対訳版がある。

木のある暮らし 東京・KINOのいいもの

つくるキット(左)バターナイフ 価格:1,500円(税別)/(中)箸 価格:1,500円(税別)/(右)おやこさじ 価格:2,300円(税別) どれもスギとヒノキが選べる。

information


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KINO

住所:東京都千代田区岩本町2-11-9 イトーピア橋本ビル8F

TEL:03-5809-3057

http://www.kino-mono.jp/

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