連載
posted:2015.2.9 from:千葉県山武市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Yoko Aramaki
荒巻洋子
あらまき・ようこ●ときに編集者、ときに原稿の書き手。斜に構えるところがあるのを自覚しているが、意外に単純でやさしくされることに弱い。東京の西の地・青梅生まれ。自然いっぱいの中で育つ。自然、人、食に興味がある。
credit
撮影:岡田善博
「地域の宝」の山武杉を“千産千消”できるシステムをつくりたい
石井工業のある山武市は、千葉県の東部に位置する。
マスコットキャラクター・チーバくんでたとえるならば、ちょうど後ろ首のあたりだ。
(チーバくんは横から見た姿が千葉県の形をしている)
この山武の地で、山武杉の製材から建築までを一手に引き受ける
石井工業を営むのが、石井充さん・涼平さん親子だ。
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現在、社長を務める充さん。
「私は、じいさんの代から継いで3代目。
じいさんの代には建具を、親父の代には材木を、
そして私の代になってからは建築を主としてずっと山武杉に携わってきた」
山武杉にこだわる理由をたずねると、こんな答えが返ってきた。
「うちみたいに小規模経営だと、どうやっても
大手のハウスメーカーには太刀打ちできない。
それならば、大手ができなくて、
うちにしかできないことをするしかないと思った。
それは何だろうと考えたときに、山武杉があるじゃないかと」
さらに、山武杉を使うことがよい循環を生み出すとも充さんは話す。
「私たちがこの仕事でがんばれば、
山主、目立て屋(製材機のノコを砥ぐ職人)、建具屋、瓦屋、大工など、
いろんな人に仕事が回り、地元の人たちが潤う。
そうすれば、その存在を残すことができるし、
貴重な技術もつなぐことができるんだよ。
そして、最終的には山主にお金が入るので、
山主はそのお金で山の手入れができ、結果的に山の更新が進む。
難しいことではあるけれど、その流れをつくりたい」
充さんが山武杉を使う理由には、こんな思いも込められていた。
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「山武杉は地元の財産」これがすべての原動力
「何度も言うようだけど」と前置きしながらも、
幾度となく充さんの口から発せられた言葉が、
「山武杉は地元の財産」。これは言い換えると
「山武杉のよさを地元の人にもっと知ってもらいたい」ということだろう。
この思いは商売だけにとどまらず、山武杉を使った積み木を
子どもたちに贈るという活動にまで及んだ。
もともと、充さんが会長を務める有限責任事業組合グループ〈木と土の家〉では、
地元の小学校や幼稚園に積み木を貸し出す活動をしていたそうだ。
これが好評で、「ほしい」という声が聞こえるようになった。
しかし、山武杉を愛する充さんも、材料費や人件費がかかるので、
さすがに贈呈というわけにはいかず困ってしまった。
そこで、3年計画で行う市の補助金制度に応募したことが始まりだという。
1、2年目は、山武市の幼稚園と子ども園に、
1回に2000ピース、1年で8000ピースもの積み木を贈り、
2年かけて全幼稚園と子ども園に贈り終えた。
このとき、大人がつくったものを渡すだけではつまらないと思い、
形だけを整えたものを用意し、子どもたちと保護者で仕上げてもらったそうだ。
全幼稚園と子ども園に行き渡ったあとの3年目は、
かつてから何かができないかと考えていた
東日本大震災の被災地へ積み木を贈ることを思いついた。
先と同様に、ただつくって贈るだけではないのが興味深い。
市内の3校の小学校に木材を渡し、小学生に積み木をつくってもらったのだ。
これにより、地元の子どもたちが山武杉に触れる機会ができるし、
山武市と被災地の子どもたちのつながりも生まれる。
「完成した積み木を手に、バスを貸し切って届けに行ったんだ。
プレゼントを開けたときの子どもたちの歓声っていったら。
いまでも耳にこびりついているよ。やってよかったなと心から思ったね」
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一方の涼平さんはこう話す。
「ぼくは、正直なところ、社会貢献とか森を守るとか、
そんな立派な大義名分はないんですよ。
ただ、若い人にも木のよさを知ってもらいたいというのが一番なんです。
そのためには、どんな方法があるのか、それを模索していますね。
残すものはなにか、変えていくべきものはなにか、
この見極めをしっかりしたいし、しなくてはいけないと思っています。
そうした行動をすることによって結果的に社会貢献にもつながるならば、
それは最高だといまは思っています」
最後に、これからのことについて、
充さんは涼平さんへのエールを込めて、こう話してくれた。
「先祖から受け継いだ生業だから、正直、後継者はほしかった。
でも、肉体的にも経営的にも厳しい業界であるのは事実。
だから、せがれに継いでくれとは言いづらかった。
そんな思いがあったから、『あとを継ぐ』と言ってくれたときは、
本当にうれしかった。せがれはせがれのやり方でやっていけばいいと思うけど、
山武杉にはこだわってほしい。厳しい状況になっても、
本人にやる気があってまじめにやればなんとかなる。
損をして得をとるだよ!」
木のある暮らし 千葉・石井工業のいいもの
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石井工業株式会社
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