連載
posted:2015.4.30 from:神奈川県横浜市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
Nobuyuki Fukui
福井信行
1975年神奈川県生まれ。大学中退後3年半のニート生活を経て木工所勤務。1996年よりACME FURNITUREにてアメリカ中古家具のメンテナンスと仕入れを担当。不動産会社勤務を経て、2005年に株式会社ルーヴィスを設立。2013年より木賃ディベロップメント共同主宰。2015年より費用負担型サブリースを行う「カリアゲ」をスタート。古家や再建築不可物件など流通しにくい建物の再生を試みながら活動中。
皆さま、こんにちは。ルーヴィスの福井です。
vol.1では、「古さを、懐かしさにかえる」と題して
手探りでやっていた頃の「みどり荘」のお話をしましたが、
今回は、古い物件でも競争力は新築以上に出せると確認した
「築年数不詳。木造平屋のリノベーション」のお話です。
神奈川、特に東京に近い都市部では
比較的借り手の需要に恵まれた環境にあるとは思いますが、
それでも23区と比較すると、賃貸物件では改修費用もかけにくいですし、
入居者も誘致しにくいと思っています。
非都市部においては、より顕著なものと想像しますが、
そのような厳しい状況下において成功モデルをつくることが、
今後の日本において最も競争力のある先端モデルだと考えています。
そして「みどり荘」から数か月後に、横浜の地主さんから
さらに厳しそうな相談が来ます。
「もう3年ぐらい誰も住んでなくて、貸してもいない物件がある。
困っているわけではないけど、そのままにしておくとどんどん傷んでしまうし、
周りの人にも迷惑掛けちゃうから、どうにかしたい」と。
もちろん喜んで見に行きました。
横浜駅から平坦な道を歩いて20分。大きな道から細い脇道に入っていくと、
道はどんどん細くなり、行き止まりの手前に現れたのが、こちらの平屋です。
僕が小学生の頃、
みどり荘のようなアパートに住んでいる友達は何人かいましたが、
平屋に住んでいる友達はいませんでした。
そして内部はこのような感じです。
床は、もうよくわからない状態にあり、壁の元の色もなんだかわからず、
建物全体から負のオーラが出ていて、
懐かしさは通り越して香ばしい感じでした。
事務所に戻ってきてから、ボロボロの状態の既存写真を
呆然とただただ眺めていた記憶があります。
当時はまだ、「平屋=取り壊し」というのが当たり前で、
多くの人が直したところでどうにかなるもんじゃないという状況でした。
ただ、建て替えを選択しないのにはオーナーにも理由がありました。
後ろに崖を背負ったこの物件を建て替えようとすると、
セットバックをさせなくてはならず、
現状の建坪10坪強よりもさらに小さくなってしまうため、
建て替えでは費用対効果が得にくいという判断でした。
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築年数不詳、横浜駅から徒歩20分、平屋。
大手の不動産サイトでは検索からこぼれ落ちていく可能性の高い物件です。
たとえ検索に引っかかったとしても
僕でも借りないかもしれないような物件でしたが、
駆け出しの頃に、条件の整ったいい仕事なんて来るわけもなく、
「なんとか結果を残すしかない……」という思いで、計画を始めました。
しかし、改めて調査を進めてみると、
思いのほか、基礎も土台もしっかりしていて、柱や梁も生きていました。
これは、平屋のために建物が比較的軽く、
負荷のかかり方が少なかったためと解釈しています。
不思議なことに初見では、「ボロすぎる」と思っていた平屋も、
2、3日写真を眺めたりしていると、そのボロさにも慣れて、
「マンション主体の今のご時世、むしろ階段も無く、
専用庭のようなものが付いてくる平屋の方が、
違和感なく住めるんじゃないか?」
とポジティブに考えられるようになっていました。
クライアントから与えられた条件は
「改修費用を5年で回収したい。10年〜15年はもつようにしてほしい」
というものでした。
改修後の想定賃料から逆算すると、みどり荘よりは予算はありましたが、
東京の相場よりも賃料は見込めず、
内部の劣化状況から考えると潤沢な予算とは言えませんでした。
それでも、その設定されたハードルを越えなくては仕事として成立しないため、
提案した方針は、またしても「既存残し」でした。
今でこそポジティブに「使えるところは使いながらお願いします!」
と言っていただけるクライアントも多いですが、
当時は苦肉の策みたいなところがあり、
「何をつくるか?」の前に「何を残すか?」
を考えながら方針を決めていました。
苦肉の策も、経験を重ねていくと進化していくようで、
いつの間にか「残すなら主張するように残す」
と既存残しに対して自信が深まっていました。
リノベーション後はこのような感じです。
平屋感を主張させるため、もともとの天井を撤去し、
屋根型に天井をつくり直しました。
それ以外は「みどり荘」と同様に生かせる部分は生かしたのですが、
馴染ませるようにではなく、
この平屋では、なるべく既存を主張させるように残しました。
外壁の塗装はしていません。
塗装をしなかったのには、いくつか理由があります。
初めはコストの理由が強かったのですが、
仕事が薄かったこともあり、足繁く現地に通っていると、
ご近所コミュニティの結束が強いことがわかってきました。
そこで「無用な変化を周囲に与えない方が良いかも」と思い、
外壁の見え方は変えないことにしました。
もうひとつは、不動産屋時代に
「外壁を塗り替えると、賃料が上げられます!
オーナー様に勧めてください!」と
営業されていたことがあり、それに対しての疑問がありました。
当然、外部も内部も素敵にできればいいのですが、
外部か内部のどちらかにしかコストがかけられない場合に、
外部を優先するのはどうも腑に落ちず、外部はそのままで内装に注力しました。
そして、東京R不動産で周辺の新築物件の同じぐらいの平米単価で
募集をかけたのですが、予想以上の反響に!
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募集した週の週末に申込みが入ってすぐ入居者が決まってしまいました。
「古いから入居者が決まらない」「立地が悪いから決まらない」
という話を今まで数百回聞きました。
僕は、それは正解ではないと思っています。
大切なのは、需給バランスがどうなのか?
という本質的な対話だと思っています。
最近では、新築でも満室にならない物件をよく見かけます。
理由は供給数が多いからです。
リノベーション物件が成約しやすいのは、
需要に対する供給数がまだ少ないからです。
とはいえ、人口減少・世帯数減少下において部屋は余っていきます。
リノベーション物件だとしても、
成約に至らない時代は必ずやってくると思っていますが、
リノベーション費用のほうが回収スピードも速いのはやっぱり魅力的です。
2009年に手がけたこの平屋、現在も稼働中です。
この平屋が成約したと聞いた時、
僕は「これだけ条件が整ってない物件で結果を残せたんだから、
これからはもう少し条件の整っている物件を所有していて、
困っている人からたくさん仕事が来るかも」
と手応えをつかんで楽しみにしていました。
電話が鳴り止まないぐらいになるんじゃないかと想像していましたが、
そこが僕の甘いところで、
賃貸のオーナーさんからの依頼は予想以上に増えませんでした。
しかし、何軒か苦肉の策である
「既存残し」というアプローチを続けていた結果、
個人のお客さんからリノベーションの依頼が増えていきます。
次回は、前向きに古い建物を購入して
住んでいるお客さまのお話を予定しています。
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