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連載

買った山に2000本の木を植える。
植林という未知の世界に踏み込む

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.054

posted:2017.11.9   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

どんな種類の木を植える? プロの意見とわたしたちの想いがぶつかる

昨年春に岩見沢に山を買い、いま、わたしは“植林”という新しい世界に足を踏み入れた。
連載第45回で書いたように、総面積8ヘクタールのうちの
1ヘクタール分は人工林だった場所。
木はすでに伐採されているが、もともと国や北海道の補助金を利用して
植林をしていた場所だったために、所有者は植林をして森林に戻す義務がある。

そこで、今年の6月に、森林組合や道の森林室の皆さんと
植える樹種について相談する機会があった。
連載で書いた通り、皆さんのおススメは、カラマツやトドマツなどの針葉樹。
成長が早く、広葉樹に比べて動物の害に遭いにくいことから、
このふたつがもっともポピュラーなのだという。

けれど、わたしも山の共同購入者の農家の林宏さんも、
植林のビジネスという側面にピンとこないところもあり、
広葉樹を植えてみたいという希望があった。

買った山で植林の話をする。左端が北海道空知総合振興局森林室の栗田健さん。右端が森林組合の玉川則子さん。

「カラマツやトドマツのほうがいいと思いますよ……」

森林室の栗田さんは、何度かそう語り、広葉樹を植えたいというわたしたちの意見に、
どうやら賛同していないような雰囲気が感じられた。
ただ、わたしも林さんも、植林のことについてまったく知識がなく、
常識はずれのことを言っているのかさえ、よくわからない。

「植林と言ってもイメージがわかないと思うので、
今度、近くの現場を見に行ってみましょう」と森林組合の玉川さんからの提案もあり、
岩見沢で実際に植林を行っている土地を3か所見せてもらうことになった。

新芽は動物たちのごちそう。食害の多さに驚く

まず1か所目は、昨年秋にカラマツの苗を植えたばかりという土地だった。
ほとんど植林の現場を見たことのないわたしにとっては、
「えっ、苗はどこにあるの?」と言いたくなるような感じだった。
よくよく見ると草のあいだに、等間隔で植えられた苗を発見。
40センチから1メートルくらいの背丈のもので、ひょろひょろっと頼りなげ。
これらがやがて森になるのだろうかと思うほどだった。

昨年秋にカラマツの苗を植えた場所。

土地を案内してくれた森林室の栗田さんが、先端が切り取られた苗を見せてくれた。
動物に食べられた跡だという。シカ、ウサギ、ネズミなど、
春に伸びた新芽は動物たちの恰好の餌となり、針葉樹も被害に遭うそうだ。
一度、新芽を食べられても生えてくるが、その分、成長が遅くなる。
また、何度も被害に遭うと枯れてしまうこともある。

そのため、植林する木としておススメなのが、苗の成長が早い樹種だ。
動物たちが届かない高さまで成長すれば、
新芽を食べられることはなくなるというわけだ。
ちなみに、食べられなくなる高さは、わたしの背丈と同じくらい(150センチ)で、
早く伸びる樹種でも3~5年はかかるという。

新芽の部分がなくなっている。ウサギやネズミの仕業?

もともとカラマツが生えていた土地だそうで、松ぼっくりが残っていた。

伐採されたカラマツは50年ほどたったものだった。年輪を数えるとだいたいの樹齢がわかる。

次に案内してくれたのは、ヤチダモという樹種を植えている場所。
ヤチダモとは広葉樹の一種で、バットの材料に適したものだという。

「人気のある樹種ですよ」

針葉樹を強く推していた栗田さんだが、ヤチダモはおススメらしい。
理由は、広葉樹のなかでは成長が比較的早く、一度食害に遭っても、
成長が止まらないことがあげられるという。

7年経ったヤチダモ。このくらいの高さになるとシカの食害に遭いにくくなる。

食害されやすいのはどんな樹種か。栗田さんは資料を見せてくれた。

そして3か所目は、カラマツを植えたが苗が育たず、
次にヤチダモを植えたという場所だ。
ここは、もともとカラマツ林だった場所だが、
以前と同じ樹種を植えても育たないこともあるそう。
シカに食べられた跡もあるので食害かもしれないが、
その理由ははっきりとはわからないそうだ。

ヤチダモを植林した土地。といっても、どこに苗があるのかは、瞬時には判別できない。

次にヤチダモを植えた理由は、土地との相性を考えてのこと。
ヤチダモのヤチは谷地と書き、湿地帯のことを指す。
この土地は、水を多く含んでいたため、
育つ可能性があるかもしれないと考えたのだという。

苗には、ピンクテープが巻きつけられていた。
草刈りのときに、間違って苗を切らないようにするための印なのだという。
広葉樹の苗は小さいうえに、ほかの草と見分けがつきにくいために印をつけるそうだ。

草刈りのときに、苗を切ってしまうことがあるため、ピンクテープで目印をつけている。

以前に植えたカラマツが枯れている。皮をシカなどの動物に食べられた跡がある。

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迷った末、出した結論は…?

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植林素人のわたしたちが選んだ木はコレ!

さて、3か所の植林の現場を見てわかったことは、
苗が動物に食べられてしまうことが予想以上に多いということだった。
また、土地の環境によって、木の育ち方はかなり違うということが実感できた。

経験値がないとまったく判断できないことがわかり、プロの言う通り、
針葉樹という選択がいいかもしれないとも思いつつも、
3番目に訪ねた土地のように、それでも育たないことがあることを考えると、
どうしていいか迷ってしまうのだった。
土地の共同購入者の林さんと相談しつつ、わたしたちが出した結論は……。

カラマツ1000本、ヤチダモ500本、ミズナラ500本!

広葉樹2000本! と言いたいところだったが、プロの意見を参考にカラマツを1000本。
広葉樹のおススメというヤチダモを500本。
残り500本は、プロの賛同は得られていないけれど、
わたしと林さんがどうしても植えたいと考えていた広葉樹のミズナラにした。

森林のプロが考えてくれた植林の配置図。青がカラマツ、黄色がヤチダモ、赤がミズナラ。陽当たりのよい場所にカラマツ。土地に水を多く含む場所にヤチダモを植えた。

ミズナラはドングリがたくさんなって、わたしが大好きな木だ。
東京にいたときから、ドングリを拾ってきては苗を育てて、
友人にプレゼントしていたこともあり、とても親しみがある。
林さんとしても、椎茸のホダ木にミズナラはピッタリなことから、
どうしても外したくない樹種だった。

シカが大好きな木で、新芽が食べられないように忌避剤をまくなど
ケアが必要のようだが、500本はわたしたちのワガママを入れるかたちにしてみた。

ワガママと言ったけれど、これって、とっても重要なことだと思う。
今回、植林という未体験ゾーンに関わってみて、知識がない土地所有者は、
道や森林組合に“すべてお任せ”になってしまうように感じたからだ。

植林は、土地をならして苗を植えればいいのではなく、
その後、何年か草刈りが必要で、やがて間伐をしてと、多くの費用がかさむ。
苗を植える段階でも、1ヘクタールあたり、ざっと60~100万円ほどかかるが、
国や道の補助により所有者の負担は1割ほどとなっている。

これは大変にありがたいことなのだが、植林の工程は多く、
補助金のシステムはとても複雑だ。
わたしもこれまで何度も説明を聞いているのだが、携帯電話の契約時のときのような、
すべてを理解できないモヤモヤした心境になることがあり、
これは森林組合にお任せするしかないのかな? と思えてきてしまう。

また、成長が早いとされるカラマツやトドマツであっても、
伐採するまでには40年ほど(ちなみにミズナラはさらに倍の年月がかかるようだ)。
また途中、間伐などして多少のお金にはなるそうだが、人の一生を考えたら
約半世紀先のお金のことに、どれほど想いがおよぶだろうか? 

そのうえ、自分の家から遠くて、そうやすやすと見に行けない場所だったら、
どんどん当事者意識が薄くなってしまうんじゃないだろうか? 

でも、今回、わたしたちは、ワガママをおして
ミズナラを500本植えることにしたおかげで、
この木が枯れないことを切実に願う気持ちになっている。
自分たちが主張したからには責任があると感じるのだ。
そして11月、草を刈って土地をならし、苗を植えてもらったわけだが、
山がどうなるのか心配(?)で、何度も足を運んでは、その様子を見てきた。

重機が入って、わたしたちの山の土地をならす作業が始まった。

話は飛躍するが、いま海外の投資家が、こぞって北海道の山林を買っていると聞く。
残念に思う半面、少しだけ植林について足を踏み入れたわたしでも、
そうなってしまう理由がわかるような気がしてきた。

岩見沢のまわりだけを考えても、山を所有している人たちは、
どんどん高齢になっており、何十年先の収入を見越して植林の細かなシステムを理解し、
賢く運用することには限界があるような気がする。

また40年ほど経って伐採したとしても、手元に残る金額は
1ヘクタールあたり50万円ほど。
その間、十数万円の経費がかかるし土地の税金もかかるので、
それを引けば、利益はそれほど多くはないのだ。

下草が刈られすっかり平らになった土地。ここに苗を植える。

ただ、ビジネスという観点だけで、植林のことを考えてしまっていいのだろうか?
もし、お金に代えるだけでない、木が育つというプロセスのなかに楽しみがあったら、
いままでとは違う見方ができるんじゃないかと思った。

実際に、わたしはミズナラを植えたことによって、ワクワク感が高まっている。
今年の夏に第三子を出産したこともあって、娘の成長と木の成長を重ね合わせたい、
そんな気持ちになっているのだ。

ドングリがなるのは何年後のことなのだろうか?
仮に10年先だとしたら、そのとき、またここに来て、
子どもたちとドングリ拾いができたら楽しいだろうと、なんだかキュンとしてしまう。
まだまだ植林については、わからないことだらけだが、
いかに植林をおもしろいものととらえて、自分のこととして楽しめるかを
今後のテーマのひとつにしてみたいと思った。

カラマツの葉が落ちて木が活動を休止した状態になる11月中旬に苗を植えた。イエローテープが結ばれているのがヤチダモ(やっぱり写真で見るとわかりにくいけれど……)。

しかも実は……、苗を植える段階で、山に大量のゴミが見つかり、
さらに深く考えざるを得ない事態に……。
次回の連載でリポートします! 

近所にあるナラの木。今年はたくさんのドングリが実った。

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