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連載

“支えあう農業”「CSA」って? 
長沼〈メノビレッジ〉を営む夫妻が
考える、ローカルの経済循環

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.032|Page 3

posted:2016.12.8  from:北海道夕張郡長沼町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

Page 3

3年前に訪れた転機。もう一度、自分たちの足元を見つめ直す

これまでの歩みをうかがっていると、レイモンド夫妻は、ローカルな経済をつくるために
一歩一歩着実に歩みを進めているように感じられた。
しかし、その道のりは決して平たんなものではないことも、
話を進めるにつれてわかってきた。

3年前にふたりには大きな転機が訪れていたのだった。
その転機とは、メノビレッジで一緒に暮らしていた研修生が、
たまたま全員同じ時期に卒業することとなり、
このタイミングでCSAをいったん休止したことだ。

「以前は、研修生が10人ほどいて、生活をともにしていたんですね。
みんな働き者ですばらしい人たちでした。
そのなかで子育てができたことは、とてもよかったんですが、
研修生はそれぞれ自分なりの目的を持ってやってきていたので、
みんなの要望に応えようとしているうちに、自分たちが将来どのように生きていくのか
方向性を見失ったようにも感じていました。
だから、ちょうど3年前に家族だけになるタイミングがきたときに、
自分たちがなぜこういう生き方を選んだのか、これから何をしていきたいのか、
原点に立ち返って考えてみようと思ったんですね」(明子さん)

CSAはレイモンド夫妻が、自分たちの想いを体現するものとして、
もっとも大切にしてきたこと。
それでも、あえてこの取り組みをやめてまで、
立ち返ってみたかったことがあったのだという。

「わたしたちはクリスチャンです。いつも持っているのは、
お互いを大切にし合える社会で暮らしたいという想いです。
そのために食べ物を通じて、いろんな人とつながり合いたいと思って
これまで農業をやってきました」(明子さん)

農業を行うための土台としてあったのは、自分たちの信仰。
ただ、ふたりは有機農業を勉強するために集まった研修生たちと、
信仰のことを話す機会をなかなか持つことができなかったという。
「こういうことに抵抗感を持つ人もいるし、自分たちのなかに気後れがあった」
というふたりは、これからのことをじっくりと話し合いながら1年を過ごしたそうだ。
そして、あるときかかってきた電話でのやりとりによって、
新しい方向性の兆しをつかんでいった。

「うちで研修をしたいと思っている友人がいるから
紹介したいという電話をもらいました。
そのとき準備していたわけでもないのに、スッと口から出た言葉がありました。
それは、わたしたちはクリスチャンであること。
そして、いまキリストが生きていたらどんな生き方をするのだろうか、
ああかもしれない、こうかもしれないと考えていること。
自分たちもそういう生き方をしてみたいと思っていることを伝えたんですね。
こんなことを言ってしまったら、たぶん、ドン引きされるだろうなと思ったんですが、
そのとき彼女が『いまの話、すごく心に響きました』と言ってくれたんです」(明子さん)

電話をした彼女によると、いまの世の中は、一生懸命働いてがんばっても、
幸せから遠のいているように感じられ、それがおかしいと思っていたときに、
明子さんの言葉に触れ、感じるものがあったという。

CSAはお休みしているが、会員だった約90世帯の人たちに向けて、野菜の販売は続けている。

これをきっかけに昨年新しい研修生が入り、また今年も研修生がもうひとり加わった。
そしていま仕事の前に、みんなで集まり、
自分たちの想いをシェアする場をつくるようになったそうだ。

「毎年春になると、わたしは畑の鋤込み作業に追われ、
とても忙しくなってしまいますが、毎朝みんなと話をする場があるから、
一日中仲間たちと心が離れないでいられます」(レイモンドさん)

「一緒に生活して仕事をしていたら、ぶつかることもあるし誤解することもあります。
けれど、仕事ありきじゃなくて、お互いを思い合うことを
大事にしていきたいと思っています」(明子さん)

そう語るレイモンド夫妻の表情はとても穏やかだった。
いまは休止しているCSAの取り組みも、新たな想いとともに
再開する日も近いのではないか、わたしにはそんな風に感じられた。
なぜならCSAこそ、レイモンド夫妻がもっとも大切にしていきたいと語った
「互いを思い合う心」なしには成立しない活動であるからだ。

「CSAの研究は大学などでも進んでいますが、
大事なのはノウハウを知ることではないと思います。
ローカルな経済が循環するためのベースにあるのは、
人と人とのつながりですから」(レイモンドさん)

「会員の皆さんは家族のようなもの。お互いがお互いにとって大事な存在なんですね。
メノビレッジの生活は、お金はそんなにないけれど、温かい人の輪のなかで
生きているという大きな安心感が感じられるんです」(明子さん)

今夏の台風の影響でじゃがいもの収穫量はとても少なく、小振りなものが多かった。「買ってくれる皆さんにそれを話したら、じゃがいもが手に入らなくて残念に思うことよりも、収穫量が減ったわたしたちの暮らしを心配してくれる方が多かったんです」と明子さん。心を合わせてくれる人たちの存在に勇気づけられたという。

ヘレナさんもレイモンド夫妻も、ともにつながることの大切さをわたしに教えてくれた。
それは、人と人とのつながりはもちろん、
自然や大地とのつながりを感じる心を持つということ。
文章で書いてみると、とても当たり前のことのように感じられるし、
いままで自分も頭ではわかっていた気になっていたけれど、
つながりの意味がまだまだ理解できていなかったことに気づかされたのだった。

いまようやく、つながることこそが幸せを感じる心を生み出すのだということが、
わたしにも(ほんの少しだけれど)わかりかけてきたように思っている。

メノビレッジがつくっている加工品。なたね油のほか、ソバや小麦もある。

この原稿を書いてレイモンドさんと明子さんに見せたところ、
こんな感想を寄せてくれた。
「つながりとは、絶えず相手がいる出来事であることを思うと、
わたしたちにできることは相手(いのち)を信頼し、
自分の最善を差し出すということであり、その結果つながりを結ぶことができたなら、
それは贈り物だと捉えています」

こう夫妻は語り、しかし現代社会では、自分たちが考える生き方を貫くことに
困難な局面を感じるときもあるが、「あきらめずに、ゆだね、支え合い、
わかち合い、信頼で結ばれたつながりを求めていきたい」のだという。

そして、最後に夫妻が投げかけてくれた言葉は、
“幸せ”について考えるようになったと語ったわたしに、
さらなる気づきを与えてくれるものだった。

「わたしたち自身は“幸せ”を求めて取り組んでいるというより、
信じていることを暮らしの中心に据えて立とうとしているという気持ちです。
それはときに闘いでもあるけれど、幸せな生き方といえばそうかもしれません」

この言葉を聞いて、わたしはレイモンド夫妻の生き方に
さらに触れる機会を持ちたいと思った。
もっと心の奥底でふたりの想いを感じることは、
とても大切なことのように思えてならなかった。

information

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メノビレッジ

住所:北海道夕張郡長沼町東6線北13番地

http://mennovillage.com/

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