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連載

“支えあう農業”「CSA」って? 
長沼〈メノビレッジ〉を営む夫妻が
考える、ローカルの経済循環

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.032|Page 1

posted:2016.12.8  from:北海道夕張郡長沼町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

写真提供:メノビレッジ

レイモンド夫妻に出会ったことによって気づかされた“幸せ”とは?

とても抽象的な話かもしれないが、最近、“幸せ”についてよく考えるようになった。
以前の自分だったら、ガンガン仕事をしてとにかく毎日充実していれば
(忙しくしていれば?)それでいい、幸せなんて曖昧な定義は
考えたって始まらない、そんな風に思っていた。

けれど、北海道に移住して5年。
エコビレッジをこの地につくりたいと思って、いろいろな人の話を聞いていくなかで、
幸せとは何かについて、もっと見つめる必要があることに気づかされた。
気づきを与えてくれたのは、前回取材をしたドキュメンタリー映画
『幸せの経済学』の監督、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジさんと、
この講演会の運営を行ったエップ・レイモンドさん・荒谷明子さん夫妻との
出会いがなにより大きいものだった。

明子さんは札幌出身。レイモンドさんはアメリカ出身。ふたりが出会ったのはカナダ。明子さんは学生時代にカナダに長期滞在したことがあり、地産地消の取り組みを行うパン屋を運営していたレイモンドさんと知り合ったという。

ヘレナさんの講演会が終わって2週間ほど経った11月の初旬。
わたしは、長沼で暮らすレイモンド夫妻のもとを訪ねた。
まだ11月の初めだというのに雪が降り始めており、ふたりは農機具の片づけなど、
冬支度に追われてとても忙しそうな様子。
そんななかではあったがインタビューをさせてもらうと、
質問にひとつひとつ丁寧に答えてくれ、リラックスした空気が生まれていった。

レイモンド夫妻は長沼に移り住み、1995年〈メノビレッジ〉をスタートさせた。広い敷地を生かして、野菜だけでなくお米や小麦などの穀物もつくっている。

レイモンド夫妻は、ここ長沼で、農業を軸とした共同体
〈メノビレッジ〉を20年以上営んでいる。
最初は5ヘクタールから始まった農場は、現在では18ヘクタールと広がり、
穀物や野菜をつくり、鶏を400羽ほど平飼いしている。

こうした農作業を行うだけでなく、ふたりは食料の地産地消や
地域経済が循環するシステムをつくりたいと考え、さまざまな活動も行っている。
そのひとつは、レイモンドさんが共同代表を務める
〈TPPを考える市民の会〉の取り組み。
北海道の農業に関わる市民や団体が集まって5年前に結成され、
TPPとは何かを深く学ぶための講演会をこれまで多数開催、
2013年には『幸せの経済学』の上映会も行われた。

この上映会をきっかけに監督のヘレナさんとの交流が始まり、
今年の10月に韓国で行われた〈幸せの経済学国際会議2016〉では、
ヘレナさんの招待によって、レイモンドさんがゲストスピーカーとなり
会議に参加することとなった。

「わたしがこの会議で話したのは、主にふたつの点です。
ひとつは、グローバル化された食料の生産流通システムを、
地産地消のシステムへと変えるためには何をしなければならないのか。
もうひとつは、平和学という観点から食料の生産流通システムを
見つめ直すというものです」(レイモンドさん)

ヘレナさんの招待によってレイモンドさんが参加した〈幸せの経済学国際会議2016〉のパンフレット。今年の10月13日、14日に韓国の全州市で行われ、世界各国から環境や農業問題に取り組むゲストスピーカーが集まった。

レイモンドさんは5年前に、母国アメリカへ一時帰国し、
キリスト教神学校の大学院で平和学を専攻した。
このとき研究した平和学の視野に立って食料の生産流通システムを見つめていくと、
近代化の過程のなかで多くの問題が浮かび上がってくるという。

たとえば、アメリカでは、ヨーロッパから多くの農民が入り開拓を始めた時代から、
近代農業の経済システムの考えが導入され、
食料を大規模に生産できる農業が奨励された一方で、先住民族の土地が奪われたり、
このシステムに相容れない考えを持つ人々が排除されたりという歴史もあった。

また、レイモンドさんが一時住んでいたカナダのウィニペグ市では、
アメリカと結んだ貿易協定によって小麦の値段が半額に下がり、
規模を拡大していた小麦農家が大打撃を被ったこともあったという。

「経済成長によって人々の暮らしが便利になりましたが、
格差は広がり、勝者と敗者が生まれてしまった。
弱きものが巨大システムにさらされること、
それは目に見えない暴力を受けているようなものです。
このシステムに参加しているわれわれもこの暴力に加担していることになります。
まずわたしたちはそのことに気づき、非暴力によるシステムへと
ひとつひとつ転換していかなければならないと思っています」(レイモンドさん)

経済成長によって生まれた地球温暖化や化石燃料の枯渇といった問題も同時に起こり、
将来への不安を感じる人々も多いなかにあって、レイモンドさんは
もう一度、成長や発展が何のために必要なのかを考え直すときが来ていると、
この会議で訴えたそうだ。

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