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連載

たらば書房

江口宏志の
あのまちこのまち本屋めぐり。
vol.002

posted:2012.4.19  from:神奈川県鎌倉市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  知らないまちの駅に降りたら、まずは本屋さんを探します。
そのまちならではの本と、本の魅力を伝えたくてうずうずしている人たちに会えるから。

profile

Hiroshi Eguchi

江口宏志

えぐち・ひろし●表参道のブックショップUTRECHT/NOW IDeA代表。「THE TOKYO ART BOOK FAIR」を企画・運営するZINE’S MATE共同ディレクター。アマゾンにない本だけが集まった仮想ブックショップ、nomazonも運営する。ユトレヒト公式サイト:utrecht.jp 著書『ハンドブック』(学研)が発売されました。

credit

撮影:小野田陽一

きっと誰かが読みたいって思う本だけが並ぶ。

鎌倉とか湘南といったしゃれたまちの響きに、つい身構えてしまう僕だが、
鎌倉駅前には「たらば書房」という本屋があって、
とてもいいよと教えてもらったので、訪れてみた。

鎌倉駅西口、駅前ロータリーを抜けてわずか2、3軒目、
外から見れば失礼ながらどこにでもありそうな駅前の本屋。
しかし中に入り、店内を眺めただけできめ細やかに
本が選ばれていることが伝わってくる。奥に深い店内は、
僕がその日のスケジュール変更を余儀なくされるほどの濃い密度で迎えてくれた。

1974年に鎌倉駅西口の御成通りにオープンした「たらば書房」が、
今の場所に移転したのは28年前。
現在は店長の川瀬由美子さんらスタッフ7人でこのお店を運営している。

その日はお休みだった川瀬さんがわざわざ来て、店内を案内してくれた。
20坪弱の店内は間口の割に奥に長いつくり。入口手前には、雑誌などが並ぶ棚、
店内に入ると左側に小さなレジカウンターがあって、
店内壁一面の本棚に加えて、背の高さほどの本棚が2列設置されている。

見回してすぐに気づくのは、簡単にいうと、
棚にざまざまなジャンルの本がぎっしり詰まっていること。
例えば、雑誌の面出し(表紙が見えるように置くこと)の棚は、
雑誌の前にサイズの違う雑誌や単行本、文庫本という具合に二重、三重に本が置かれ、
逆に壁の棚は面出しはほとんどなくて、ひたすら本が差してある。
川瀬さんは「古本屋みたいでしょう」と言うが、これは見応えがありそうだ。

入り口付近の女性雑誌棚。雑誌のロゴを隠さないよう手前に同じジャンルの単行本が置かれている。

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まずは、入口から順に見ていくことにしよう。入ってすぐは雑誌のコーナー。
どこにでもある雑誌だけかと侮っていると、手前に本も置いてあるから気が抜けない。
ファッション誌の前にさしてあるのは『島田順子スタイル』や
『ユキ・パリス ずっともの探し』。この2冊は、
たらば書房ではずっと人気なんだそうだ。
大人っぽくて、でも和服ではなく洋服で、さりげなくおしゃれ。
鎌倉の土地のイメージととても合っている。

建築の雑誌や本、男性ファッション雑誌が並ぶ棚には、
建築家や家を建てる人が読むような実用的な本が並んでいるのか……と思えば
『メンズヘアカタログスーパーボウズ』なんて本も一緒にあるから楽しい。
「ひとりぐらいは、この本を好きな人がいるかと思って」と川瀬さん。

レジの後ろの棚には、取り寄せをお願いされた本や、
定期購読の雑誌などがぎっしり入っている。まちの人に親しまれているのがよくわかる。
その右側には文学、エッセイの棚。作家名であいうえお順に並ぶ。
その先には詩や古典、思想、教養、宗教、歴史……。
奥に進むに連れて、品揃えはどんどん深くなっていく。

20世紀はじめにロシア・バレエ団を率いた芸術プロデューサー、
セルゲイ・ディアギレフの、発売されたばかりの
分厚い伝記『ディアギレフ―― 芸術に捧げた生涯』を手に取り、
「売れたらいいなぁ」とボソッと川瀬さんがつぶやく。
さまざまな視点から日本を描く思想史家・歴史家の渡辺京二さんの本は
人気があるそうで、彼の本が数タイトル置いてある。

「どれも面白いらしいですよ、私は読んでないけど(笑)」
なんてことを川瀬さんは平気で言ったりする。
確かにこれだけの量の本があって、
しかも毎日新しい本が入ってくるのだから全部読むなんて不可能だ。
読んだ感想よりもこの棚にある理由だけがあればいい。

店の奥からレジをみる。左手が文庫の棚、右手に、詩や古典、思想コーナーと続いていく。

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文庫の棚もあって、ここは男性と女性で分けられ、
出版社をまたいであいうえお順に並べられる。
新刊は足元の平台に積まれているが、毎日届く新刊によってすぐにスペースは埋まり、
はみ出しちゃった文庫は、上の棚に差すか、
それとも返品するかということを考えるんだそうだ。

一番奥には絵本や実用書。絵本はオーソドックスな名作から
目新しい新刊まで取り揃えている。ささめやゆきさんの絵本が目に付くなあと思ったら、
「地元なので応援しているんです」とのこと。
実用書コーナーも、ちょっと変わったセレクトで、
なかには、『こびと観察入門』なんて本もある。

そして、同じ本が2冊並んでいた。これは、複数冊注文されたものとは別に、
同じ本をふたりのスタッフが頼んでしまうことがあるのだという。
選書はみんなでやっていて、
担当も分かれていないから同じ本を複数の担当が頼んでいて、
棚でダブってしまっているというわけだ。
となると2冊ある本は2倍おすすめってことなのかも。

実用コーナーの2冊並んだ本。ふたりのスタッフが注文しているということらしい。

「たらば書房」は営業時間も長く、定休日もないので、
全員が集まってミーティングをすることはない。
シフトが重なった時に、その場その時で引き継ぎながら、お店を常に回転させていくのだ。
だから川瀬さんは全体の品揃えやコンセプトについても、
「そういうことはよくわからないんです」というそっけない答えが返ってくる。
「毎日毎日、誰かがきっと読みたい、って思う本を仕入れて、
どこに並べればいいか考えていくだけ」

それがこの店をかたちづくっている。
必然的に世の中のベストセラーが並ぶこともあるし、
その隣に地元の作家の本が並ぶこともある。

ひと通り説明してくれた川瀬さんが、
スタッフとひとことふたこと言葉をかわし出て行ってしまった後、
もう一度ぐるりと店内をまわる。
「誰かがきっと読みたいって思う本」の「誰か」は自分かもしれないと思うと、
どの本も意味ありげに見えてくる。なかなか外に出られないわけだ。

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たらば書房で購入した5冊

  • 1. 辰巳浜子著『料理歳時記』

    (中公文庫)

    料理雑誌の前に隣同士で置かれていたのは、元祖料理研究家、辰巳浜子と辰巳芳子親子の著書。鎌倉に住み、庭で育てた野菜や野草を用いた四季折々の料理を紹介するこの本は、気候と生活が密接に結びついていた日本の食文化の豊かさを教えてくれる。口に入れるものから書かれた言葉には、当たり前だけど強い説得力があります。

  • 2. サラ・ローズ著 / 築地誠子訳
    『紅茶スパイ 中国人プラントハンター中国をゆく』

    (原書房)

    ノンフィクションの棚で「紅茶」という日常的な単語と「スパイ」という非日常の組み合わせに思わず手にとった1冊。19世紀、中国がひた隠しにしていた「茶」の種と製法を入手するために、中国に潜入したイギリス人プラントハンターの話を軸に、ミステリアスな紅茶の歴史を描く。中国人に変装して密入国するくだりや、数か月の船旅でも生きたまま植物を運べるような保存装置の開発など、まるで良くできたミステリー小説のよう。

  • 3. 内澤旬子著『飼い食い』

    (岩波書店)

    前著『世界屠畜紀行』で世界中の1万頭以上の屠畜現場を取材したイラストルポライターの内澤さん。屠畜場に送られてくる前に家畜たちがどんな風に育てられたかについてはほとんど何も知らないことに気づく。実際に自分で3匹の豚をその出産から立ち会い、出荷できる状態になるまで半年以上かけて育て、屠畜場に持ち込み、最後に自分たちで食べる会を開くまでを描く。生々しいのに意外なほどに爽やかな読後感。

  • 4. 保坂和志著
    『魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない』

    (筑摩書房)

    エッセイ集だが、エッセイと小説の違いを、書かれる内容ではなく、文章の書き方で示してみたりと、文章を書くということについての文章が18編。自在に展開する内容に振り落とされないように読んでいるうちに、「小説家が小説を書くのは、小説を書くという行為を通じて何かを考えたいからだ」という一文に出会う。

  • 5. ささめやゆき著『ねこのチャッピー』

    (小峰書店)

    鎌倉在住のイラストレーター、絵本作家のささめやゆきさんによる絵本。画家のボクとねこのチャッピーとの交流を描いた私小説のような絵本。鎌倉といえばなぜか猫のイメージがあるけれど、人懐っこくてでも時にクールなチャッピーもいかにも鎌倉で見かけそうだ。

information

map

たらば書房

住所:神奈川県鎌倉市御成町11-40(鎌倉駅西口すぐ)

TEL:0467-22-2492

営業時間:平日9:00〜21:00、日曜・祝日10:00〜19:00

定休日:無休

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