連載
posted:2012.11.30 from:兵庫県三田市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
知らないまちの駅に降りたら、まずは本屋さんを探します。
そのまちならではの本と、本の魅力を伝えたくてうずうずしている人たちに会えるから。
profile
Hiroshi Eguchi
江口宏志
えぐち・ひろし●表参道のブックショップUTRECHT/NOW IDeA代表。「THE TOKYO ART BOOK FAIR」を企画・運営するZINE’S MATE共同ディレクター。アマゾンにない本だけが集まった仮想ブックショップ、nomazonも運営する。ユトレヒト公式サイト:utrecht.jp 著書『ハンドブック』(学研)が発売されました。
思い出が詰まった雑貨と本の店
Barnshelfの店長である小前 司くんとのつき合いは長くて、僕が本のセレクトを手伝っていた、
書店を併設した梅田の雑貨店「アンジェ・ラヴィサント」に入社してきたのが小前くんだった。
圧倒的に女性が多いこの店において、
男性というだけでも珍しいのに、元書店員、さらに古本好きとくれば仲良くならないわけがない。
梅田への出張の後には必ずといっていいほど大阪のまちに飲みに出かけ、
また出張の日程を調整しては、大阪・四天王寺の古本市にも一緒に出かけ、
お互いの収穫物を自慢し合うようになった。
一方、その雑貨店は京都に本店があって、そこで店長をしていたのが鷺坂えりかさん。
三条河原町という京都でもとびきりの繁華街にあり、
3階建ての大店舗をまとめあげるその力量と
いつでも楽しそうに仕事をしている姿に惚れ惚れとしたものだった。
そんなふたりがいつの間にかつき合って結婚して息子が生まれて、
前後して小前くんの実家がある三田市に一緒に住むようになった。
子どもが生まれてから、彼から独立の思いを聞くようになった。
実家のそばにある元牛小屋、この場所を改装して本と雑貨の店にしたい。
最初に聞いた時はびっくりしたけれど、
訪れてみれば、そう考える理由もよくわかる。
駅からは決して近くないが、多くの人は車で移動する土地柄、
立地よりも場所の面白さに人は集まってくる。
大阪から快速電車で約40分、神戸からも同じくらいの時間で来れる三田市。
10数年前、新三田駅から有馬富士公園へと抜けるバイパス道路が開通し、
小前くんの家の畑を横切るように道路が通った。
その頃には農機具置き場になっていた元牛小屋は、なぜか道路沿いに建つことになった。
この場所に生まれ育った小前くんは、休日になると大阪の都会を楽しみ、
普段は三田でのどかな生活を送るという、
都会と田舎のどちらのいいところも吸収しながら伸び伸びと成長していった。
半年ほどの準備期間を経て、2012年7月にオープンしたふたりの店には
牛小屋(cow barn)と本棚(bookshelf)がくっついて「Barnshelf」という名前になった。
「ようやく落ち着いてきました」という連絡をもらって遊びに行った。
今回紹介するのはそんなお店だから、
どうしても贔屓してしまうのだけれどそれは勘弁してほしい。
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道路脇の駐車場のサインは元牛小屋の扉、
歩道から入る所には卓球台をカットして作った看板が迎えてくれる。
オクラやナスが伸び伸び育った野菜畑を抜けて店に入る。
開口の大きな扉を開くと思わず声が出る。
古材の張られた床、元の柱や梁(はり)を生かした内装は、
新しくつくられたはずなのに、すでに何年も前からここにあったようだ。
品揃えは「ニュークラシックですわ」と小前くんは恥ずかしそうに言うが、
入ってすぐにあるブルックリンの作家が作るロープ編みのバッグやバスケット、
その横にあるアンティークのアーコールチェアの上に古い本、
海外のものも日本のものも、古いものも新しいものも違和感なく一緒に並んでいる。
奥の壁面は一面が本棚だ。
青森県で作られる木製のりんご箱をランダムに積み重ねて作った本棚は、
すでに本の重さで微妙にたわんでいたりして、それがまたいい感じだ。
新刊書店にいた頃から趣味でずっと集めていた古書と、セレクトした新刊書が半々くらい。
思いきり男っぽい、なんならおじさん臭い、
伊丹十三、小林泰彦、畦地梅太郎、植草甚一といった作家の本があるかと思えば、
その一方で女子ウケしそうな絵本やビジュアルブックもあって、りんご箱ごとに楽しめる。
「『モダン古書案内』って本を読んで古本面白いなって思ったんですよ」
2000年の初め頃に出た懐かしいタイトルの本を挙げて、
小前くんは自分が古本に興味を持ったきっかけを話してくれた。
その頃新刊書店に勤めていた彼は、徐々に古本に興味を持つようになる。
休みのたびに古書店を訪れ、その店主と仲良くなった。
神戸のVivo,vabookstoreの森忠さん、大阪、難波のcolomboの綿瀬さん、神戸の口笛文庫さん、
ひょっとしたら僕もそのひとり……。
壁を作らない彼の性格からか、多くの人から本の楽しさを教えてもらったのだろう。
その積み重ねてきた経験の集合体のような本棚だ。
雑貨は奥さんと一緒に選んだオリジナルのシャツや地元の窯で焼いてもらったカップやお皿。
直輸入だという生活雑貨もあり、安心の品揃え。
開店と同時に数組のお客さんが入ってきて、さっきまで、
ふたりが掃除をしたりディスプレイを変えたりしていた“空間”が、突然“店”に変わる。
この感じが店の面白いところだなあといつも思う。
さあ東京に帰ろう。僕も頑張らないと。
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