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連載

毛利悠子、大きな作品への旅。
札幌国際芸術祭2017
参加アーティストが旅する北海道

札幌国際芸術祭(SIAF)2017
札幌へアートの旅 in コロカル
vol.006

posted:2017.8.22  from:北海道札幌市ほか  genre:旅行 / アート・デザイン・建築

PR 札幌国際芸術祭実行委員会

〈 この連載・企画は… 〉  2017年8月6日から10月1日まで開催される「札幌国際芸術祭(SIAF)2017」。
その公式ガイドブック『札幌へアートの旅』をコロカル編集部が編集しました。
この連載では、公式ガイドブックの特別バージョンをお届けします。
コロカルオリジナルの内容からガイドブックでしか見られないものまで。
スマートフォン&ガイドブックを手に、SIAF2017の旅をぜひ楽しんで!

profile

Yuko Mohri

毛利悠子

もうり・ゆうこ●1980年神奈川県生まれ、東京都在住。2014年に続く2度目のSIAF参加。2016年、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。コーチ=ムジリス・ビエンナーレ2016(インド)など国内外の展覧会に出展。リヨン・ビエンナーレ2017(フランス)にも参加。
http://mohrizm.net/

credit

撮影:毛利悠子、斎藤ふみ

撮影:在本彌生

札幌市内各所で開催され、話題となっている札幌国際芸術祭(SIAF)2017。
公式ガイドブック『札幌へアートの旅』では、
参加アーティストたちによる北海道の旅も紹介している。
その中から、札幌市立大学で作品を展示中の毛利悠子さんの寄稿を掲載。
「スカイウェイ」と呼ばれる、キャンパスをつなぐ長い空中廊下で展開される作品に
インスピレーションを与えた旅。
ぜひこの文章を読んでから作品を体験してほしい!

北海道の海、そして炭鉱遺産へ

大きな作品がつくりたいと思った。
それは、今回のゲストディレクターである大友良英さんから
SIAF2017へのお誘いの電話をもらった時点でうっすらと考え始めたことなのだけれど、
それが、空間的に大きいものなのか、大きな彫刻のことなのか、
時間が長いものなのか、音が大きなものなのか、その時点ではまだ見当もついていない。

大きな北海道の大地で大きな作品を制作する! といささか単純すぎる思考回路に
自分でもあきれつつ、特に具体的な目標を決めずにふらっと旅に出ることにした。
偶然に出会った風景からひとつの道筋を見つけられればと淡い期待を込めながら。

とはいえ、選択肢がメチャクチャ多い北海道。
小樽、根室、別海、知床などを横断していたら、SIAFの会期が終わってしまう。
ひとまず気になっていた場所をさらっと2泊3日にあてはめてみると、
意外にすてきな道のりになった。
石狩の海から始まり、ゆっくりと河口の上流へと身を任せて
音威子府(おといねっぷ)まで北上する、という行程だ。

SIAFスタッフ斎藤ふみさんの運転で、まずは真勲別川(まくんべつがわ)のほとりにある
〈石狩川治水史資料館(川の博物館)〉へ。
ここは事前に電話予約することで、普段は水流管理をしている方が
わざわざ展示の説明をしてくれるシステム。

展示物からは、当時の水害から田畑を守るために
どのような土木の発展があったかが学べる。
実際につくられた人工の川(放水路)を眺めることもできた。
そこから少し北上すると、日本海側にある石狩湾に着く。
初めて訪れる北海道の海で、しばらく深呼吸をした。

数年前、詩人の吉増剛造さんが制作した多重露光写真の作品『廃バス』を購入した。
錆びた亡霊のような姿で写されたバスが
廃材のユートピアのように見えるところが気に入っているのだが、
実はこの光景は湾からもう少しだけ河口のほうに行ったところで撮影されたものだったと、
この数か月後に吉増さん自身から教えてもらうことになる。

前回のSIAFでは水が大きなテーマでもあり、川や海を見ることから旅がスタート。

水の流れをさかのぼるように移動し三笠市に到着。
前回のSIAFと同じ2014年、
ここで〈そらち炭鉱(やま)の記憶アートプロジェクト2014〉という
アートプロジェクトが展開されていた。

私は前回のSIAFに参加していたので、炭鉱の跡地で展示されている
岡部昌生さんや端 聡さんのインスタレーションの噂は耳にしていたのだが、
自分の展覧会準備に追われてしまい、結局訪れることはかなわなかった。
そういった経緯もあったので、アートプロジェクトが
行なわれている時期ではなかったけれど、訪れてみることにした。
かつて北海道の産業を支えた場所はどのようなところなのだろう。

夕張で炭鉱遺産を活用したまちづくりに取り組んでいる
〈清水沢アートプロジェクト〉の佐藤真奈美さんに案内していただく。
まずは幌内(ほろない)炭鉱跡地で、石炭を輸送した線路や
坑口跡(入口はブロックで塞がれていた)などを手づくりの路上地図に沿って見学する。

夏にぴったりなハイヒールを履いていたところ、佐藤さんに
「えーと、その靴だと一気にダメになります」と指摘され、
大荷物を積んだ車のなかから長靴を引っぱりだしてもらった。
ワンピースに長靴を履いて、なんだかグーニーズ気分(そんなシーンはない)。
建物跡には草木がまとわりついているが、当時の炭鉱仕事の様子へと想像が膨らむ。

続いて訪れた旧幌内変電所は、つい先日まで使われていたのではないかと思うほど
しっかりとした建物だった。
大正中期(約100年前)に建てられたというのに、やけに生々しい。

ふと足元を見ると、乳白色の茶碗のようなものがいくつも転がっている。
陶器でできた碍子(がいし)であった。
建物の外観と比べるとまだつるりと真新しく、握ると少しヒンヤリした。
思わず持ち帰りそうになったけれど、グーニーズ的には、
持って帰ることで大きな岩が転げ落ちてくる展開になるのでグッとこらえた。

送電などに使われる、絶縁のための陶磁器製の器具、碍子。作品に使いたい欲望が……。

さらに2、3分ほど歩いたところには、
炭山と地域守護の山神信仰を司る幌内神社の跡があった。
現在は本殿などの建物はすべて撤去されていて、
石が崩れた灯籠や鳥居だけが残されていた。
炭鉱は平成元年に閉山し、建物だけが残された。
草木がまとわりついて遺跡のようになったもの、まだ生々しく建ち続けるもの、
そして跡形もなく消えていったものが同居する、不思議な空気が漂う場所だ。

さらにもう少しだけ車を飛ばして、旧市街地をまわってみる。
そこで目にしたのは数々の廃屋だった。
建具や家具は瓦礫となって、将棋崩しの駒のように青空の下に積まれている。
これらは人の手によって積み上げられたのではなく、むしろ人が住まなくなった途端に
雪の重みによってきれいに押し潰されていったのだという。

瓦礫といえば、東日本大震災後の福島県浪江町を訪れた際に見た
トラクターによって道路脇に積まれた建具や街路灯が思い起こされたが、
ここの印象はそれとはまた少し違ったものだった。

雪で潰れていく炭鉱住宅。北海道の隆盛の象徴であり失われていく風景である炭鉱に、ぐっとくるという毛利。

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安田侃彫刻美術館、そして朱鞠内湖へ

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人工と自然が織りなす風景

次の日、炭鉱町で名を馳せた美唄の温泉宿から
元小学校校舎をリノベーションした安田侃(やすだかん)による彫刻美術館
〈アルテピアッツァ美唄〉を訪れた。

もともとあった校舎や体育館のつくりを生かした展示空間になっている。
教室ということもあって美術館で見るよりも彫刻に親近感が湧く。
さわりたくてうずうずしてしまった。
同じような彫刻でも、札幌駅前のものとは違い、
ここではゆったりとした空気が感じられる。時の流れが違うのだろう。

安田侃の彫刻が展示されている〈アルテピアッツァ美唄〉。手垢で摩耗し変化していく。そういう作品をつくりたいと毛利。

校舎の一部は、幼稚園になっていた。ご厚意で、少しだけ見学させてもらう。
園児が靴を履き替える玄関の中央にも、なんと安田侃の彫刻があった。

よく見ると、白いマーブルがやわらかくくすんでいる。
きっと園児たちは毎日、その彫刻を撫でたりさすったりしながら
「おはよう」と挨拶しているのだろう。
それは、この校舎に創建当初のまま残されていた階段の手すりの角が
摩耗している様子に似ていて、ちょっと羨ましくなった。

雨が降ってきた。車で北上し、宿がある朱鞠内湖(しゅまりないこ)へと向かう。
日本最寒記録であるマイナス41.2度を観測するほど冬は寒いが、
秋にはワカサギ釣りが楽しめるらしい。

湖へ向かう一本道を下っていくと、目の前に水の壁が浮かび上がってくる。
大げさな話ではなく、まっすぐな道なりに急に見えてくる
黄金のヴェルサイユ宮殿と近い印象を持った。

湖の形はとても珍しく、「まる」ではなく、木々がモリモリと生えている土地が
ちょうど小腸の内側の襞のように、湖のまわりに食い込んでいる。
上から見ると崩れたヒトデのようなヒダヒダの湖なのだ。
湖畔から見ていてもおもしろい風景だ。
雨のおかげで、水面の表情に飽きることもなかった。

毛利は人工的にできている自然の風景が好きだという。朱鞠内湖は自然なようでいてちょっと不自然なのだ。

夏の時分はワカサギのシーズンでもないため、観光客はほとんど見当たらない。
宿の主人にも「どうしてここに来たのですか?」と目的を尋ねられるほどだった。
私たちも思わず答えに迷い「女子会です」とどうでもよい返事をしてしまう。

翌日知ったのだが、朱鞠内湖は日本最大の湛水面積を持つ人工湖なのだという。
その大きさや形から、まさか人工物だとは想像だにしなかった。
湖を上から見た雨竜ダムの案内図によると、なるほど、
山の窪みに沿って水が貯められているので小腸の襞のような形をしていることがわかる。
工事はたいへん過酷なものだったに違いない。近くには慰霊塔があった。

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砂澤ビッキ記念館で感じたこと

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朽ちながら、生々しく存在する作品

その後、最後の目的地、音威子府の〈砂澤ビッキ記念館〉に向かった。
朱鞠内湖から音威子府まで、信号に当たったのはたったの1、2回だけ。
対向車にもほとんど出くわさない、少し不安になる道のりだった。

砂澤ビッキ記念館は、廃校を利用してつくられた
彫刻家・砂澤ビッキ最後のアトリエを、美術館としてリニューアルしていた。
ほかに小さな家があるきりで、ほとんど何も建っていない。
車から降りると、山に囲まれた畑の地面すれすれに雲がかかっているのが見えた。
そのまま毎分10センチくらい(遠目だとそう見えた。
実際にはもっと速かったかもしれない)、ゆっくり、ゆっくりと
風によって雲が動いてゆく景色を、少し怖く感じた。

ビッキは、音威子府村からこのアトリエと、
彫刻の材料となる木材をたくさん提供されていた。
大自然の環境の中でどんどん大きな作品にとりかかることになったようだ。
ここでのビッキの制作を想像してみる。
別館のアトリエには、まだつくりかけの彫刻が残されていた。

〈砂澤ビッキ記念館〉の風の回廊。ビッキの大きなテーマのひとつである「風」を演出し、北海道中川研究林で録音された風の音が響く。

風の音がスピーカーから流れる演出で始まる記念館の廊下を歩ききったところには、
音威子府のためにつくられた、大きなウシの顔が特徴的なトーテムポールが
横たわって展示されていた。
1990年、悪天候によって倒壊したというそのトーテムポールは、
奇跡的にウシの顔を残してボロボロになっていた。
それがそのまま展示されている。その破片は、痛々しいというより、
静寂のなかで淡々と、そしてまだ生々しく存在していた。

ビッキは死の3年前、4本のアカエゾマツの柱でできた
『四つの風』という作品を〈札幌芸術の森〉に設置した。
青銅やステンレスではなく、木を素材としているため、
いずれは風雨に耐えきれず倒壊するだろうと多くの関係者が危惧したという。
だが、ビッキはこの作品について次のように語った。

「生きているものが衰退し、崩壊してゆくのは至極自然のことであり、
それをさらに再構成してゆく。
自然は、ここに立った作品に、風雪という名の鑿を加えてゆくはずである」

そして実際、当初4本そびえていた彫刻は、最後の1本を残してすべて倒壊した。

この2泊3日の旅のあいだ、自然と人とモノの関係のことをずっと考えていた。
雪で倒壊した家、くすんだ大理石の彫刻、小腸のような人工湖、
ボロボロになったトーテムポール、そして、3本が倒壊した『四つの風』……
偶然にも、自然環境や時間、人との関わりによって摩耗していく景色やモノの連なりは、
わたしに大きなヒントを与えてくれたように感じる。

過去から未来にわたって摩耗された残りカスのようなもの。または削りカス。
そのどちらとものカスがシワシワにかさなってる。変容の中で存在していくもの。
ひとまず、いまはそんなイメージが作品として頭に浮かんできています。
無事、つくりあげられればいいのだけれど(笑)。

information

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安田侃彫刻美術館 
アルテピアッツァ美唄

住所:北海道美唄市落合町栄町

TEL:0126-63-3137

開館時間:9:00~17:00

休館日:火曜、祝日の翌日(日曜は除く)、12月31日~1月5日

http://www.artepiazza.jp/

information

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砂澤ビッキ記念館

住所:北海道中川郡音威子府村字物満内55番地

TEL:0165-65-3980

開館時間:4月26日~10月31日 9:30~16:30

休館日:月曜(祝日の場合は翌日)

http://bikkyatelier3more.wixsite.com/atelier3more

information

札幌国際芸術祭2017

会期:2017年8月6日(日)~10月1日(日)

主な会場:モエレ沼公園、札幌芸術の森、札幌市街地ほか

http://siaf.jp/

information

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札幌国際芸術祭2017公式ガイドブック

マガジンハウスより発売中

http://magazineworld.jp/books/paper/5214/

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