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連載

〈真鶴なぶら市〉
地魚から家庭菜園の野菜まで。
人と人をつなぐ手づくりの市

真鶴半島イトナミ美術館
作品No.14

posted:2017.2.8  from:神奈川県足柄下郡真鶴町  genre:アート・デザイン・建築 / 旅行

sponsored by 真鶴町

〈 この連載・企画は… 〉  神奈川県の西、相模湾に浮かぶ真鶴半島。
ここにあるのが〈真鶴半島イトナミ美術館〉。といっても、かたちある美術館ではありません。
真鶴の人たちが大切にしているものや、地元の人と移住者がともに紡いでいく「ストーリー」、
真鶴でこだわりのものづくりをする「町民アーティスト」、それらをすべて「作品」と捉え、
真鶴半島をまるごと美術館に見立て発信していきます。真鶴半島イトナミ美術館へ、ようこそ。

writer profile

Shun Kawaguchi

川口瞬

かわぐち・しゅん●1987年山口県生まれ。大学卒業後、IT企業に勤めながらインディペンデントマガジン『WYP』を発行。2015年より真鶴町に移住、「泊まれる出版社」〈真鶴出版〉を立ち上げ出版を担当。地域の情報を発信する発行物を手がけたり、お試し暮らしができる〈くらしかる真鶴〉の運営にも携わる。

新たな出会いや交流の場に

「なぶら」という言葉をご存知だろうか。
なぶらとは、海面で魚の群れが飛び跳ね、バチャバチャ集まっていることを指す。
このなぶらをそのまま名前に使った〈なぶら市〉という市が、神奈川県真鶴町にある。

なぶら市は月に一度、最終日曜日に真鶴港の岸壁広場で行われる。
始まってから2017年2月で2年。すっかりまちにも定着し、
より良いものを買おうと朝10時の開始前から港に集まる町民もいる。

真鶴は港町だけあって、なぶら市では鮮魚や干物も販売している。
真鶴を拠点としているオーガニックワインやハンドマッサージといった
お店の出店もあれば、普段は販売していない手づくりの品を出す人もいる。
キッチンカーによる食べ物の販売もあり、食べる場所も用意されているので、
港前で海風を感じながら食べることもできる。

移動販売車「真鶴おさかな号」に乗せて、漁協が直接地魚を販売。(写真提供:なぶら市実行委員会)

写真提供:なぶら市実行委員会

なぶら市の実行委員である朝倉嘉勇さんは、真鶴町役場の産業観光課に勤めている。
朝倉さんは、なぶら市が始まったきっかけをこう語る。

「もともとは町長の指示で、町民と役場の職員を合わせた
プロジェクトチームをつくったのが始まり。
フェイスブックを始めたり、町の看板をつくったりしていくうちに、
『人が交流する場をつくりたいね』という話になったんだよね」

取材した12月のなぶら市当日はクリスマス。サンタの帽子をかぶりながら話してくれた朝倉さん。

その言葉の通り、なぶら市にはたくさんの町民が集まる。
もとから真鶴に住んでいる人もいれば、
近年真鶴に移住してきたばかりの人もやってくる。
そこで人と人を紹介しあって、新たな出会いになることもよくある。
なぶら市がハブとなり、人と人のつながりの輪が広がっていくのだ。

「店が増えないとか、いつも同じものしか売ってないとか、
いろんな文句も聞くけど、でもみんな来るんだよ(笑)。
それってなんでかって言うと、ここに来ると話をする人がいるからだろうね」
と朝倉さんは笑う。

月に一度、ここに来れば誰かに会える。この日も移住者同士で近況報告をしあっていた。

「継続性のあるイベントにしたい」という思いから、
なぶら市は町のこれまでのほかのイベントと違い、補助金に一切頼っていない。
けっして無理をしない、自分たちのペースで運営する。

「頑張りすぎない。かといって続けていくためには締めるところは締めないといけない。
そのバランスが大事かなと思うね」と朝倉さんは言う。

たしかにメンバーを見ていると、運営にピリピリした空気はなく、
とにかく楽しそうだ。13時になぶら市が終わり、片づけも終わると、
「反省会」と称した飲み会が夜まで続くという。
誰よりも運営メンバー自身がなぶら市を楽しみにする。
だからなぶら市は、この2年間欠かさず毎月行われてきたのだろう。

なぶら市の本部でお客さんと話す朝倉さん(写真左)と、同じく実行委員の青木理佳さん(写真中央)。本部からはいつも笑いが絶えない。

実行委員であり、町民の柴山高幸さん(写真左)は、自身が真鶴で運営するファブラボ〈真鶴テックラボ〉の技術を子どもたちに披露していた。

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なぶら市が目指すものとは?

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なぶら市がつなげる農家と町民

なぶら市では、魚介類だけでなく、野菜もたくさん販売している。
坂が多く、まちを歩いてもあまり農地を見かけない真鶴に、どうして野菜が……? 
それは、実行委員のメンバー自らが、当日の朝に真鶴内の農家や、
家庭菜園で野菜をつくる家から野菜を集めてきているからだという。
この野菜は、メンバーが当日販売までも行う。

真鶴産野菜はなぜだか身が大きいものが多い。

実行委員の野菜担当の3人は真鶴町役場のメンバー。左から酒井聡美さん、露木勝也さん、高橋大翔さん。

「野菜をつくっている人たちにとっては、自分たちは家で
野菜を用意しておくだけでいいので、助かっているみたいですね。
最初は野菜の量も少なかったんですが、信頼されるごとにどんどん多くなってきました」
と、野菜を担当する露木さんは語る。

地元のスーパーや八百屋に出回らない「真鶴産野菜」は大人気。
朝一番には地元の主婦が集まり、取り合いになるほどだ。

同じく担当の高橋さんは言う。
「同じ品種のみかんでも、農家によって味が違うということを
なぶら市をやってから知りました。
一番良かったのは、町内の方とつながりが増えたことですね。
いまのつながりをより大切に、より広く、深くしていきたいなと思っています」

たとえ地元の人であっても、地元の野菜や果物について知らないことは多い。
なぶら市をきっかけに、いままでになかった
農家と町民のつながりが生まれ始めているのだ。

出店者と真鶴をつなぎ、商店街に活気を取り戻す

なぶら市が目指すのは、なぶら市の出店者が、なぶら市をきっかけに
真鶴の商店街に実店舗を設けることだ。その目標は少しずつ実現に近づいている。

小田原に店舗を構えるパン屋〈Desture〉は、
毎月なぶら市に出店している常連のひとつ。
〈Desture〉の横藤綾さんは、なぶら市は、ほかのイベントにない魅力があると語る。

「なぶら市はお客さんとのコミュニケーションができる場所で、
販売しに来るのがすごく楽しいんですよ。
地域によってお客さんの層や雰囲気は違うんですが、
なぶら市のお客さんは気さくで馴染みやすいし、話しかけてもくれるんです。
変な話、『これはよくなかった』とか、
『この間はこれをすすめられたけど、こっちのほうが私は好きよ』といった
意見も言ってくれます。パンづくりのいい材料になりますね」

〈Desture〉の横藤綾さん。パンは毎回完売するほどの人気。

お店と客の関係は、都会では割り切っていることが多い。
お店側も余計な会話はしないし、客も場合によっては
ひと言もしゃべらず購入することもしばしばある。
しかし、なぶら市ではお店と客の関係を超えた、
人と人のコミュニケーションが残っているのだ。

「自分のお財布を持ったばかりの小学生の女の子から、70、80のおばあちゃんまで、
幅広い年齢層の方がこの市に集まって来るのも理想的ですね。いいまちなんだなぁと。
オーナーも真鶴の雰囲気が気に入ったので、なぶら市の実行委員の方に相談して、
最近では第1日曜と第3日曜にも真鶴で移動販売するようになったんです。
いつか実店舗も出せたらなと話しています」(横藤さん)

なぶら市が始まってからもうすぐ2年。最初は仲間内から始まった小さな市は、
「何か楽しそうなことをやっている」と徐々にその輪を広げていった。
いまではその魅力に町民だけでなく、町外の人も気づき始めている。

「背伸びしない」という運営は、来場者数や出店者数を爆発的に増やしたりはできない。
そんななかでなぶら市は、小さくても確実にそのファンを増やし、
ひいては真鶴のファンをも増やし始めている。

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真鶴なぶら市

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