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連載

ロイヤルアイシングって?
佐々木愛の壁画作品ができるまで
あいちトリエンナーレ通信 vol.7

ローカルアートレポート
vol.071

posted:2016.10.13  from:愛知県豊橋市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

writer profile

Ai Sasaki

佐々木愛

ささき・あい●1976年大阪府生まれ。アーティスト。土地固有の神話や物語などに着想を得て、動植物を色鮮やかに描き出すドローイングや油画などで知られる。ロイヤルアイシングという砂糖細工技法による壁画制作を各地で展開。

credit

写真提供:加藤慶

3年に1度開催され、現在開催中の国際芸術祭〈あいちトリエンナーレ2016〉。
3度目となる今回は、名古屋市、岡崎市、豊橋市で開催されています。
参加アーティストや広報チームが、その作品や地域の魅力を紹介していくリレー連載です。

制作の始まり

豊橋の開発ビルで制作中。

前回は作品に至るまでの旅に触れましたが、今回はいよいよ(?)
ロイヤルアイシングという手法での作品制作について書きたいと思います。

6月28日、制作道具と生活道具を積み込んで、レンタカーで
私が住んでいる大阪から展示会場となる豊橋へ出発しました。
47日間の滞在制作なので、ちょっとした引っ越しです。
今回はマンスリーマンションに住むことになったので、
服と洗面具と調味料セット(1か月ほどなので調味料を小分けにする)だけでしたが、
時には鍋や食器、キッチンがない場合はホットプレートなどを持って
移動したこともあります。

長い滞在では外食を毎日するほどの余裕もないですし、
何かをつくることは気晴らしにもなるので、少しでも毎日何かつくるようにしています。
海外に滞在したときは、知らない野菜や調味料などを見るのが楽しくて、
毎日スーパーや市場に通ってしまい、節約のつもりが、
買いすぎて失敗したこともありました。

豊橋でも、一番にスーパーや食べ物屋さんの位置を確認。
そして近くにいい喫茶店や食堂があればうれしいなぁくらいの気持ちで
近所をブラブラ見て回りました。
こんな風に、到着して1日くらいはゆっくり過ごします。

制作前の準備あれこれ

開発ビル9階。あいちトリエンナーレ2016キュレーターの金井直さんと展示会場で打ち合わせ。天井の照明の多さにびっくり。以前は会社のオフィスだったそうです。

今回私が展示することになった豊橋市の「開発ビル」は
かつて劇場やボウリング場なども併設され、
役所機関や体育館、集会所として使用されている多目的複合ビルです。
いまは数年後の建て替えに伴ってそのほとんどのフロアが空室となっており、
今回このビルに10組の作家の作品が集まっています。

滞在制作が始まる少し前に、作品をどんな風に設置したいかを、
キュレーターと、この開発ビルの会場で話し合いをしました。
あいちトリエンナーレでは建築家と
インストーラー(設営や空間構成をする専門の人)を交えて制作を進めます。
これはとても重要なことで、美術館やギャラリーとは違い、
芸術祭の会場の多くは美術作品のための空間ではなく、
空き店舗、ビル、駅、時には屋外での展示になり、
作品を設置するために最低限の準備が必要になります。
私たち作家が思い描く展示プランを実現させるために、
防災などの面から観客と作品の安全性を検証し、会場への動線など、
空間の設計図や作品設置の計画を、彼らに一緒に考えてもらいます。

つくりたい作品の形や大きさが決まっても、
さまざまな理由でクリアできないこともあります。
反対に作家個人では考えられなかった構造や素材を提案してもらうことで、
さらに大きな広がりのある作品にできることもあります。
こうして、作家、キュレーター、建築家、インストーラーなど、
チームでひとつの作品をつくっていきます。

まずは建築家の方に希望の壁の大きさや形を伝える。手書き。

アシスタントキュレーター加藤慶さんと、建築家の山岸綾さん。小さなサンプルを会場に置いてみて、作品のイメージをみんなで確認。

壁画を描く

下書きの状態。木の幹など骨組みをつくります。

ロイヤルアイシング(粉糖と卵白、レモンを混ぜたもの)で描くときは
フリーハンドで紋様を描いていきますが、
その前に全体の図案のアウトラインを壁に下書きします。

私はグラフィックテープという細い伸縮性のあるカラーテープを使って
直接壁に図を描きます。
なんだかどんくさい方法のように思われるかもしれませんが、
一度、小さな紙に描いた図を壁にプロジェクターで拡大投影してみたのですが、
なんだかうまくいかず止めてしまいました。
いまはちょっと時間がかかっても、自分の体の大きさと壁の大きさ、
空間に入ったときの感覚から、ラインを決めて図を描きます。

そのため、時には事前に描いた下書きとは大きく図案が変わることもあります。
それでも会場に入ってみて実際に壁の前に立ってみたときの気持ちを
信じることにしています。

作品の全体図。忘れないようにモデルとなった植物の名前を書き込む。

作業机。日が経つにつれて物で溢れます。

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いよいよロイヤルアイシング

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ロイヤルアイシング――ひたすら描く日々

口金は#00~#5まで7種類の大きさを紋様によって使い分けます。

1週間から10日ほどでテープの下書きを終え、
いよいよロイヤルアイシングで紋様を描いていきます。
道具はいたってシンプル。ボウル、ヘラ、ハンドミキサー、
絞り袋、口金で、ごく一般的なキッチン用品を使います。
砂糖は少しの卵白とレモンを混ぜてペースト状にして絞り袋に入れ、
手でギュッと搾り出します(そのせいか握力は結構強いです)。

ロイヤルアイシングの作業に入ると、ひたすら描く日々が続きます。
毎日ほぼ同じ時間に会場に入り、描いて、帰る。この繰り返しです。
たまには、息抜きにカフェに行ったりもしますが、
休憩中も壁をぼーっと見ていることが多く、本当にずっと一日中壁の前にいます。
こうして、毎日のリズムができてくると制作も順調に進みます。

描いているところ。

手元。失敗した模様をやり直し中なので、下には削った跡が……。

下のほうを描くのは腰が辛い。時には腹ばいに。休み休み少しずつ描く。

トリエンナーレいよいよ搬入期間

7月の終わりになると、豊橋会場にも作家と作品が続々と到着し、
開幕前日の8月10日の内覧会に向けて設営作業が始まりました。
設営中はみんな、真剣勝負。なので、邪魔にならないように、
作業中お互い干渉することは、どの展覧会でもあまりないように思います。
美術館でのグループ展のように広い空間を複数の作家と共有するときは
横目でチラッと見ることもできますが、豊橋会場のように
ビルのフロアごとに会場が分かれている場合は、
ほかの人がどんな作品をつくっているのかまったく見られません。

それでも現場のスタッフから、ちらっとほかの作家さんの設営の様子を聞いたり、
会場に大きなコンテナが到着するのを目撃したり、
エレベーターで一緒になったりと断片的に垣間見ます。
そうなると、ほかの作家さんの作業や作品がちょっと気になったりします。

豊橋会場では、ビルの1室が控え室兼、サテライト事務局になっており、
休憩中の作家さんがいることも多く、作業の進み具合や、
作品のことなどを直接話せる機会が多かったように思います。
それで、お互いの会場をちょこっと覗きに行ったりしました。
私はこの時期にはすでに1か月ほど現場での制作が続いていたので、
誰かが訪ねてきてくれるのは結構うれしいものでした。

毎晩のようにアシスタントさんたちと一緒に飲みに行っている人もいて、
帰り道に酔っ払って陽気になった作家さんに
ばったり出くわすこともありました(いいな~)。

今回の制作のもととなった本の著者でもある作家の味岡伸太郎さん。豊橋の土地についてお話。

アマゾンの奥地からナーヴェというDJブース(本人曰くサウンドシップ)を船便で持ってきたブラジル人作家のリビジウンガ・カルドーゾ(別名レアンドロ ・ネレフ)。

芸術監督の港千尋さん。3会場の作家の制作現場をこまめに視察。いつも元気!

完成、そしてオープン

8月9日、ようやく作品完成です。タイトルは『はじまりの道』です。
大きさは長さ14メートル、高さ2メートル60センチ。
西は奈良から東は新潟までの塩の道。
それぞれの地域の動植物が移り変わる様子をひとつの風景として描きました。

地元大学生アーティストサポートのふたり。照明を設置中。あまりにもかわいくてパチリ。

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豊橋会場のおすすめ作品は…

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豊橋にもおもしろい作品がたくさん

久門剛史『PAUSE』2016(撮影:怡土鉄夫)

あいちトリエンナーレ2016の名古屋、岡崎、に続く3つ目の会場である豊橋市では、
穂の国とよはし芸術劇場PLAT、開発ビル、水上ビル、はざまビルと、
まち全体でさまざまな作品を見ることができます。
私の作品もある開発ビルでは10階から4階(7階を除く)まで
各階に作品が展示されています。

最上階10階では石田尚志さんの『絵馬・絵巻 2016』が旧劇場全体を使って作品を展開。
「音楽を視覚化する」と話されていた躍動感のある映像が
楽屋、リハーサル室、舞台と各部屋に投影され、部屋を進むごとに、
かつてこの場所で演じたさまざまな人たちの緊張感や高揚を
追体験するような緊張感のある作品です。
メイン会場に投影された虹色の映像ともとになった絵巻物は圧巻。

6階、小林耕平さんの『東・海・道・中・膝・栗・毛』は
「東海道中膝栗毛」の物語を現代に再解釈、
実際に東海道10か所を取材してつくられた作品。
作家本人が出演する映像インスタレーションはクスッと笑えて、
かつモノと人、言葉の関係性を問い直すような自由な実験に、うーんとなります。

小林耕平『東・海・道・中・膝・栗・毛』2016(撮影:怡土鉄夫)

5階、久門剛史さんの『PAUSE』は、現在使用されていないビルの部屋の
記憶や気配を感じさせるような静かなインスタレーション作品。
なかでも入り口に入ってすぐのスポットライトと
小さな丸いアクリルパネルだけで構成された作品にハッとさせられました。
モーターでゆっくりと回る小さなパネルにスポットライトが反射して壁面に投影され、
まるで月の満ち欠けを連想させるような不思議な作品です。
人工物をシンプルに使いつつ、ひとつひとつが厳密に調整されていて、
その動きの速度や揺らぎ方に、自然や身体性を深く感じました。

久門剛史『PAUSE』(部分)。永遠に見ていたい気持ちに。

開発ビルから徒歩数分の通りにある水上ビルは、
かつて農業用水路だった場所の上に建てられた建物です。
その店舗の一画に展示されている、イグナス・クルングレヴィチュスの
インスタレーションも印象的でした。
シンプルなサウンドと文字だけの緊迫感に満ちた映像をじっと見ていると、
ただのモニターがいつしか生身の人物と対面しているような錯覚に……。

イグナス・クルングレヴィチュス『INTERROGATION』展示風景(撮影:菊山義浩)

ほかにもここには書ききれないくらい、おもしろい作品がたくさんです。
3会場を通してみると、芸術祭全体のテーマでもある、「旅」をもとに
土地の記憶や人と自然との関係を感じさせる作品が多いように感じました。

最後に、まちのこと

まちの真ん中の駅前大通には路面電車が走っています。右手のビルが会場の「開発ビル」。

家と会場の往復で滞在期間中、行った場所といえば、
スーパー、カフェ、定食屋さん、コンビニ、郵便局、銀行、クリーニング屋さん……。
しかもまちを歩くのは朝と夜。いつものことながら、
せっかく長く滞在したのになんだか少し残念でした。

それでも心に残っていることがひとつ。
住んでいた駅の西側のアパートの近くに、
屋台のような小さな店が並んだ通りがありました。
メキシカン、イタリアン、中華、和食、などなど、なかなか多国籍です。
わりと毎日賑わっていて、気持ちのいい夜は道にテーブルを出して
お客さんたちがワイワイ楽しそうに飲んでいました。
ほとんどどの店も常連客のようで、初めての私がふらっと入るには
なかなか勇気がいりそうでした。
「作品が完成したら行ってみよう」とずっと思っていましたが、
完成後の引っ越しとバタバタで結局行かずじまいになってしまいました。

暑い夏の豊橋での制作の日々は、1日の作業が終わって
アパートまでトコトコ帰る途中に見た、あのお店の賑わい、
お客さんたちの笑顔や笑い声と重なって思い出に残っています。

芸術祭もあと2週間と少し。次は作品を片づけにもう一度、豊橋に行きます。
そのときに、あの店のどれかに誰かを誘って入ってみようかなと、
ちょっと思っています。

豊橋名物「カレーうどん」はカレーうどんの底にご飯が! 1度で2度おいしい? ってことでしょうか。ボリューム満点。

information

map

あいちトリエンナーレ2016

会期:2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日)

主な会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか(長者町会場、栄会場、名古屋駅会場)

豊橋市内のまちなか(PLAT会場、水上ビル会場、豊橋駅前大通会場)

岡崎市内のまちなか(東岡崎駅会場、康生会場、六供会場)

http://aichitriennale.jp/

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