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芸術祭で人が集まる空間をつくる。
L PACK.の制作ダイアリー 前編
あいちトリエンナーレ通信 vol.2

ローカルアートレポート
vol.066

posted:2016.8.30  from:愛知県名古屋市ほか  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

writer profile

L PACK.

エルパック

1984年生まれの、小田桐奨と中嶋哲矢によるアーティストユニット。2007年より活動スタート。最小限の道具と現地の素材を臨機応変に組み合わせた「コーヒーのある風景」や、前回のあいちトリエンナーレではビジターによるビジターのためのスペース〈VISITORCENTER AND STANDCAFE〉などを展開。各地のプロジェクトや展覧会にも参加。
text: 小田桐奨

3年に1度開催され、現在開催中の国際芸術祭〈あいちトリエンナーレ2016〉。
3度目となる今回は、名古屋市、岡崎市、豊橋市で開催されています。
参加アーティストや広報チームが、その作品や地域の魅力を紹介していくリレー連載です。

人が集まりとどまりたくなるような場所をつくる、僕たちの旅路

「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅 Homo Faber: A Rainbow Caravan」
がテーマのあいちトリエンナーレ2016の参加作家として、僕たちも毎日
未知の旅路を歩き迷いながら、ようやく開幕の日を迎えることができました。

僕たちL PACK.(小田桐奨と中嶋哲矢)は、わかりやすく言うと
「人が集まる場所をつくること」を活動にしています。
例えば廃旅館を改修しカフェと展示空間にコンバージョンしたスペース
竜宮美術旅館〉や、埼玉県の森に佇む一軒家を
若いアーティストたちの活動拠点にした〈きたもとアトリエハウス〉。
そして、前回のあいちトリエンナーレ2013では、
まちの人やアーティスト、来場者が気軽に集える場所
〈VISITORCENTER AND STANDCAFE〉をつくりました。

今年のあいちトリエンナーレでは『“E”についての設計(Scheme for the “E”)』
というタイトルのもと、エデュケーションプログラムのための
3つの部屋と4つの拠点を設計しました。
普段の活動と同じように人が集まりとどまりたくなる場所をつくることを考えながら、
制作を担当するインストーラーチームと
運営を担当するエデュケーションチームと協働し、みんなのアイデアをかたちにして。

8月11日の初日を迎え、できあがった空間に実際に人が来て
空間が使われているのを見ると、ほっとしたのと同時にこんなにも大勢の人たちが
トリエンナーレが始まるのを待っていてくれたのかという現実が目の前に現れ、
僕にしては珍しく気持ちが込み上げてきて胸が詰まりそうになりました。
今回、このようなかたちで言葉を綴るチャンスをいただいたので、
設営が始まった7月31日からの12日間の僕たちの旅路を振り返ってみたいと思います。

DAY1/7月31日(日)名古屋に到着

昼過ぎ、新幹線で名古屋駅に到着。ホームに降りた途端、
エアコンのない車で首都高のトンネル内で渋滞にはまり熱中症になったときと
同じ暑さがそこにあり、早々に身の危険を感じたのはいまでも脳裏に焼きついている。

3年ぶりの夏の名古屋が今年も始まった。前回のあいちトリエンナーレ2013は
名古屋在住のアーティスト青田真也とともに、「NAKAYOSI」というユニットで
VISITORCENTER AND STANDCAFEというスペースを3か月だけ運営していた。
まちの人、アーティスト、来場者が気軽に集まり
コーヒーやお酒を飲みながら話すことができる伝説的な場所だった。

今年はそのようなスペースの運営ではなく、空間の設計がメインの役割。
暑さとの戦いに覚悟を決め、インストーラーチームの〈ミラクルファクトリー〉の
作業場に向かい、さっそく空間を構成するためのパーツ制作にとりかかる。
間髪入れずに愛知芸術文化センターへの搬入時間がやってきた。
小さな問題にあたりながらもテキパキと搬入をこなしていく。
終電まで作業をし、僕たちはMAT, nagoya(*)が提供してくれた滞在先へ。
エアコンでキンキンに冷やした部屋でぐっすり眠った。

*MAT, nagoya:名古屋の港町をフィールドにしたアートプログラム。9月22日から始まるアッセンブリッジ・ナゴヤ2016『パノラマ庭園ー動的生態系にしるすー』にL PACK.が参加します。

愛知芸術文化センターに開設されるライブラリーに搬入。

DAY2/8月1日(月)「ライブラリー」

9時に愛知芸術文化センターに集合。
事務所で待っているとチーフキュレーターがコーヒーを淹れてくれた。
6月に打ち合せで来たときは手挽きのミルだったけど、
さすがに忙しいらしく店で挽いてもらっているそうだ。
それでも毎朝コーヒーをきちんとドリップするところがすてきだ。

今日から僕たちが手がける設計のひとつ「ライブラリー」の設営を始める。
ライブラリーは、トリエンナーレに関わるアーティストにまつわる本や、
キュレーターたちがピックアップした本を集めた図書館(貸し出しはしていません)。
さまざまなレクチャー、ワークショップの会場も兼ねるが、
西江雅之のコレクションやフォスコ・マライーニの写真、
アーティストの虹、洞窟芸術など、今回のテーマ/コンセプトを支えるとともに、
参加アーティストの作品を補完していく「コラムプロジェクト」も展示し、
今回のトリエンナーレの作品や言葉では紡ぎきれないイメージを
具現化したような部屋である。

今日の作業メンバーは10人ほど。
高所作業や細部に関わる部分はミラクルファクトリーに任せ、
僕たちはチーズという愛称で呼んでいるテーブルの塗装をする。
大量の木工用ボンドを使った特製塗料を塗っていく。
頭の中ではいい感じにできあがっているけれど、実際にはどうなるかわからない。
「つくる本人がまず楽しむ」のが僕たちのモットーなので、
こんなライブ感のある試行錯誤もとても大切な要素なのだ。

お昼は地下の喫茶店でオムカレーとクリームソーダ。
午後からはみんなで塗装をし、最後はメンバーで記念撮影パシャり。

木工用ボンドを使った特製塗料。

チーズという愛称のテーブルを塗装中。

みんなで記念撮影。右から2番目が中嶋、左から2番目が小田桐。

DAY3/8月2日(火)「脳」をイメージした空間

ライブラリー設営2日目。
濃紺に塗り上げられたこのチーズの本当の呼び名はSynapse(シナプス)。
床から天板まで高さ約1メートルあり、ライブラリー利用者は
この天板の下を潜ってところどころに開いたサークルから顔を出し、
本を閲覧することができる。本を読む前に「潜る」というアクションをすることで、
脳内の情報伝達機能であるシナプスによりよい刺激を与える。
そんなこちらの意図は置いといても、ただ潜って顔を出すだけで
なんだか楽しいからぜひ潜ってほしいです。

お昼を済ませ午後からオブジェの天井吊り作業。
丸く成形した半透明の素材を天井から吊り、照明を当てることで
壁や床に楕円の影が浮かぶ。
血液内を流れる赤血球に包まれているようなイメージの空間ができあがった。

実はこのライブラリー空間は「脳」をイメージしているのだ。
西江とマライーニ、ふたりの文化人類学者と、知識の塊である本から、
深い知識と情報量を持った架空の人物の頭の中に入り込んだような
不思議な空間が「ライブラリー」の空間イメージだ。

ミラクルファクトリーの谷 薫くん。

電脳照明。

天井吊り作業も慎重に。

チーズ2層目の塗装を行う。大勢でやれば楽しいし速い。
2層目の色は緑にしていたのだけど、普段ボンドを作品制作に使用している
ボンド先生ことアーティストの鷹野健さんのアドバイスで、少し白を混ぜてみる。
1層目とはうって変わってなんとも言えない色合いに。

この日は作業終わりに設営中のマーク・マンダースさんの設営現場を
訪問させてもらった。
L PACK.とミラクルファクトリーのあいだで「透け感」というキーワードを
ライブラリーのイメージで共有していたのだけれど、マークさん、いやマーク先輩は、
僕たちの透け感の苦労をシンプルかつ力強く表現しているのだった。
彫刻作品も目と耳を疑ってしまう完成度。(彫刻は素材の見た目に騙されるな!)
マークさんの作品を見ながら僕たちは自然とマークさんのことを
「マーク先輩」と呼ぶようになっていた(本人には言ってません)。

チーズ2層目塗装中。みんなでやると速い。

ベンチの土台となる高級土嚢袋。

ミラクルファクトリー青木一将くん。

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彼らがつくる拠点「エスタシオン」とは?

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DAY4/8月3日(水)「エスタシオン」

ライブラリーの作業をみんなに任せて、僕たちふたりは岡崎と豊橋の各会場へ。
今回設計している4つの拠点というのは、
名古屋・岡崎・豊橋会場に設置する「エスタシオン」という、
トリエンナーレをさまざまな角度から楽しむための拠点だ。

「エスタシオン」とはポルトガル語で駅のこと。
まだ見ぬ美術の世界に向かうための出発点だ。
駅のイメージを再構成したオブジェは各会場の空間に合わせて設計した。
ここでは僕たちが制作した、参加アーティストから来場者へ向けた
100を超える質問を集めたコミュニケーションツール「クエスチョンシート」の配布や
質問の答えを展示している。

岡崎会場のエスタシオンは駅のコインロッカーをイメージしていて、
トリエンナーレインフォメーションと〈8830MISO〉のミソスープスタンドと同じ、
シビコ1階に設置している。

この日、岡崎では看板のみを搬入してすぐに豊橋に向かう。
豊橋では大巻伸嗣さんの巨大な作品のある穂の国とよはし芸術劇場PLATの1階に、
駅の電灯と案内板をモチーフにしたLED電光掲示板を使ったエスタシオンを設置する。

豊橋で設置を終えると、近くにビジターセンター〈みずのうえ〉が
お披露目になったということで連れて行ってもらった。
僕たちが3年前のあいちトリエンナーレでつくったような、
日々すてきに成長していきそうな場所ができあがっていた。

後日、全行程を高速道路を使わずに行ったことをミラクルファクトリーに伝えると
「いや、ばかでしょ!」と言われてしまう。
普通はその距離なら高速道路を使うそうで、出発する前に教えてもらいたかったなぁ。

ライブラリー&プラットホームもほぼ完成。

岡崎会場のエスタシオン。たくさんの引き出しの中に、ひとつひとつ質問の答えが。

豊橋会場のエスタシオン。駅の案内板をモチーフにしたLED電光掲示板。

DAY5/8月4日(木)「ダミコルーム」と「キャラヴァンファクトリー」

前日でライブラリーの設営がひと段落し、
この日から愛知芸術文化センター12階の「ダミコルーム」と
「キャラヴァンファクトリー」の設営にとりかかる。

ダミコルームはヴィクトル・ダミコという、
ニューヨーク近代美術館初代教育部長として美術教育の先駆的な活動を行った人が
1942年に考案した『アートティーチング・トイ』を配置し、
見て、触れて、光・形・色など美術を構成する要素から
直感的に刺激を受けることで、アートとの出会いを楽しむ部屋。
キャラヴァンファクトリーは、子どもから大人まで「創意工夫」を体験すること、
つくること、工夫することを楽しむ場所。
3つのプログラムからどんなことができるか
自分の可能性にチャレンジすることができる(あいちトリエンナーレHPより)。

それぞれの部屋で使う素材を再確認して買い出しをしたり、道具を移動したり。
12階は一般利用もあるため18時までしか利用できないので、
この日はそれだけで作業を終える。

滞在先に早めに戻り、近くのホテルにお風呂を借りに行くことにした。
滞在場所にはガスが通っていないため、毎日水のシャワーを浴びて過ごしていた。
まぁ毎日暑いしそれでもよかったんだけど、
この日は早く終わったこともあって行ってみた。
巨人が入るようなステンレスの大きな風呂釜があり、湯温も熱く、
風呂から上がって外に出ると次から次へと汗が噴き出してくるので、
風呂に入った意味がすぐになくなってしまったのではないだろうか。
その後、滞在場所の近くにある好きな居酒屋に入って、おいしいお刺身をいただく。
あのマグロは本当にうまかった。

キャラヴァンファクトリーで使用する高級人工芝(FIFA公認工場で製造)。

〈味幸〉の刺し盛り。うまい!

DAY6/8月5日(金)夜のチャルメラ

キャラヴァンファクトリーで使うテーブルをつくる。
素材や道具やその場の状況と「向かい合う」「意識する」ためのテーブル。
ミラクルファクトリーのふたりに木材を加工してもらい、みんなでやすりがけを行う。
とにかくみんなでやれば本当に速い。

キャラヴァンファクトリーにもダミコルームにも、
来場者が制作する作品を展示するためのギャラリースペースをつくった。
一般的にワークショップなどで参加者が制作する作品は、
完成と同時に大概が不要なものとなってしまうイメージがある。
それはおそらく制作する「目的」がないことが原因なのではないだろうか。
と、僕たちは考えていたので、ギャラリーに展示することで
「他人に見てもらうためにつくる」という意識を芽生えさせ、
創造する行為がより意識的になるのではないかと考えた。
子どもたちの心が動く空間をつくりたい。そう思い続けている。

この日の夜、滞在先で作業をしていると、
外からチャルメラの笛が聴こえてきたような気がしたので外に飛び出してみた。
するとやっぱりチャルメラの車が停まっていて、
ちょうどお腹も空いてきたところだったので注文してみた。
金曜日のこの時間(たしか22時半頃)にこの辺りを通ると言ったおじさんとは、
滞在中一度しかないチャンスをものにした奇跡的な出会いになった。
手渡されたラーメンにはチャーシュー、ナルト、ゆで卵、
しなちく、ネギ、海苔がのっていてビジュアル的にもすばらしい。
味もこの時間に食べたいんだよねという絶妙な味つけ、
麺もかために茹でてあってとてもおいしかった。
またいつか食べることができるだろうか。

キャラヴァンファクトリーで集合写真。

チャルメラ屋台。また出会うことができるかな。

後編に続きます。

information

map

あいちトリエンナーレ2016

会期:2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日)

主な会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか(長者町会場、栄会場、名古屋駅会場)

豊橋市内のまちなか(PLAT会場、水上ビル会場、豊橋駅前大通会場)

岡崎市内のまちなか(東岡崎駅会場、康生会場、六供会場)

http://aichitriennale.jp/

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