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これが“最後のチャンス”
かもしれない……
危機を迎える長門湯本温泉が
選んだ道とは?

山口県長門市×星野リゾートで挑む
〈長門湯本温泉〉再生プロジェクト
vol.001

posted:2018.5.11  from:山口県長門市  genre:旅行 / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  老舗ホテルの廃業や公共施設の赤字をかかえ、窮地に追い込まれる
温泉街の事例は全国にあります。山口県長門市では星野リゾートとタッグを組み、
〈長門湯本温泉観光まちづくり計画〉を基にした“新しい方法”で温泉街を再生する事業を進めています。
コロカルではその試みをルポしていきます。

writer profile

Akiko Nokata

のかたあきこ

旅ジャーナリスト、まちづくり人案内人、温泉ソムリエアンバサダー。旅行雑誌の編集記者を経て2002年に独立。全国で素敵に輝く〈まち、ひと、温泉、宿〉を見つけ出し、雑誌などで聞き書き紹介。旅館本の編集長。テレビ東京『ソロモン流』出演後、宿番組レギュラーも。本連載では撮影にも挑戦! 東京在住の博多っ子。
http://nokainu.com

credit

写真:長門市広報、安森信、のかたあきこ

社会実験を通して温泉街の将来像を共有

温泉街をリノベーションするという、新たな取り組みで注目を集める温泉地がある。
山口県で最古の歴史を誇る長門湯本(ながとゆもと)温泉(長門市)だ。
日本海の幸をはじめ食の魅力は高く、観光地の萩に近いことなどから、
団体旅行ブームにのって活況を呈した。

しかし旅のニーズを捉えきれず、最盛期から徐々に客足が落ち込み、
ついに創業150年の老舗ホテルが負債を抱えて廃業。
このできごとに地域の緊張感は一気に高まり、
負の連鎖を止める“最後のチャンス”として長門市は大きな挑戦に出た。
市が予算を投じて再生総合戦略を掲げ、
そのパートナーに星野リゾートを選んだのだ。
こうして官民連携の壮大なプロジェクトが始まった。

住民説明会では温泉街の将来像をイラストや模型で紹介。

住民説明会では温泉街の将来像をイラストや模型で紹介。

2017年9〜10月に長門湯本温泉で社会実験
〈長門湯本みらいプロジェクト〉が実施された。
その舞台となった温泉街の店主たちは、
「これほどたくさんの人が通りを歩いてくれるなんて。
にぎやかだった昔を思い出して感動しました」と、喜びを口にした。

主催メンバーである旅館の若旦那や行政職員は、
「協力してくださるみなさんが最高で、
“まちづくりは楽しい”と本気で思えました」と、その時を振り返る。

この社会実験は、2016年8月に長門市で策定された
「長門湯本温泉観光まちづくり計画」を基に進められたものだ。
温泉街の再生に向けて、3つの大きな調査
(①河川空間の活用 ②交通再編による道路・空地空間活用 ③照明改善)が行われた。

温泉街を流れる川には昔“置き座”と呼び親しまれた川床を設置したり、
県内から飲食店やものづくりの事業者を集めたり、
夜の温泉街を効果的にライトアップして散策を促したり……。
住民や旅行者をはじめ、参加者全員が地域を五感で体感しながら、
魅力と課題を共有する機会となった。

2018年4月1日の長門温泉まつりは満開の桜に恵まれた。

2018年4月1日の長門温泉まつりは満開の桜に恵まれた。

先にもあげたが、
長門湯本温泉と言えば「山口県最古の温泉」と紹介される有名温泉地である。
山口宇部空港からは車で1時間ほど。長門市は北に日本海が広がり、
南には中国山地が連なり、東には幕末の歴史遺産が豊富な萩市が隣接するなど、
多様な観光スポットがある。

長門市の人口は約3万5000人。市の中心部から車で10分ほどの山間部に、
長門湯本温泉はある。
水清らかな音信(おとずれ)川のほとりに、大小12軒の温泉旅館が点在。
公衆浴場の〈恩湯(おんとう)〉(現在休館中)と〈礼湯(れいとう)〉を中心に、
温泉街が四季の彩りのなかでのんびりと広がる。

老朽化で解体の恩湯は、昭和レトロ感がただよう公衆浴場だった。

老朽化で解体の恩湯は、昭和レトロ感がただよう公衆浴場だった。

開湯は室町時代の1427年。〈恩湯〉敷地内から湧く温泉は、
江戸時代には長州藩のお殿様も贔屓にした名湯だ。
泉質はアルカリ性単純温泉で、
肌触りが優しく赤ちゃんから年配の方まで愛される。
かつては農閑期の湯治客に、近年は観光客を主として利用され、
最盛期の1983年には約39万人の宿泊客を数えた。

その温泉地が窮地に追い込まれ、再生に取り組んでいる。
原因はどこにあるのだろうか。

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“時代の流れが読めなかった”

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老舗ホテルの倒産が地域の危機感を高めた

温泉地を活性化する動きは長門湯本温泉に限らず、
近年の地方創生政策やインバウンドの追い風とともに強化されている。
国土交通省が取り組む観光地域づくりの
「日本版DMO(Destination Management Organization)」や、
環境省がすすめる国民保養温泉地などでの「新・湯治」も、その流れにある。

長門市には5つの温泉地があり、そのなかの俵山温泉は国民保養温泉地に指定。

長門市には5つの温泉地があり、そのなかの俵山温泉は国民保養温泉地に指定。

この半世紀、温泉地は栄枯盛衰の激動のなかにあった。
戦後の日本は高度経済成長を迎え、
温泉地のニーズは“保養”から“歓楽”へと変化。
企業の社員旅行などの団体志向にあわせて、多くの旅館は巨大化する。
送客する旅行会社の指示に従って、均一化した客室を増やし、
大きな浴場や豪華なロビーラウンジをつくり、
売店はもちろんレストランから宴会場まで揃えるようになった。

旅行者は外へ出ずとも満足できる環境が整えられ、
温泉街は元気を失っていくことになる。
これはバブル経済崩壊の1991年以降も、止まることがなかった。

追い打ちをかけるように、国内旅行者の減少や、
団体から個人旅行へのシフトが起こる。
この変化にうまく対応できない大型旅館は多く、価格競争が始まり、
その結果として料理やサービスの質は落ち、
施設も従業員も疲弊する悪循環に陥ることになる。
2008年のリーマンショックや、たびたび発生する自然災害の影響なども加わり、
旅館の廃業や経営者交代はこの10年、珍しい話ではなくなったのだ。

長門湯本温泉では宿泊者数は最盛期の半分に落ち込み、
経営が悪化する旅館が多くなった。
なかでも創業150年の〈白木屋グランドホテル〉が2014年1月に
「時代の流れが読めなかった」と、
約23億円の負債を出し破産したことは大きな話題となる。

温泉街中央にそびえる客室100室以上の白亜の殿堂は、
シンボルのように目立った存在。
しかし耐震構造をはじめ問題を抱え、後継企業は現れなかった。
そのため廃墟となり、見かねた行政や湯本温泉旅館協同組合は
2015年に解体を決めた。

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市長に聞く、今後の計画

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星野リゾートは温泉街の救世主か?

2017年秋誕生の道の駅〈センザキッチン〉のシーサイドデッキにて。アイアンチェアに腰かける大西倉雄市長。

2017年秋誕生の道の駅〈センザキッチン〉のシーサイドデッキにて。アイアンチェアに腰かける大西倉雄市長。

そこで、その更地に新たに旅館を建設し、
かつ、温泉街再生の基本計画「長門湯本温泉観光まちづくり計画」の
ベースとなるマスタープランを長門市から委託されたのが、
星野リゾートだ。国内外37の拠点を持つリゾート運営会社で、
事業展開は常に注目される。
そして2019年末、星野リゾートの山口県初の拠点となる〈界 長門〉が誕生する。

誘致するリーダーが大西倉雄・長門市長であったことも、話題を集めた。
官民の連携が求められる時代を迎えても、
自治体が星野リゾートにまちづくり計画まで依頼するケースは初めてだからだ。
経済産業省のまちづくり事業を活用しながら、
市の予算を投じて廃業旅館を解体し、さらには外部の民間企業を誘致した。

長門市仙崎は海産物が有名。童謡詩人の金子みすゞ生誕地としても知られる。

長門市仙崎は海産物が有名。童謡詩人の金子みすゞ生誕地としても知られる。

大西市長は、
「長門市の経済を活性化するうえで、長門湯本温泉の再生は重要課題。
老舗が倒産して地域の危機感は一気に高まりました。
今こそ負のスパイラルを止める必要があります。

地域の経済波及効果からすると、旅館の誘致が最善と考えました。
長門市は第一次産業のまちなので、
旅館であれば農水産物が地元から提供できますし、
さらに温泉が活用でき、交流人口も増やせます。

地元ブランドの価値をご理解いただけるお客様を全国からお迎えして、
地域でモノが循環する仕組みをつくりたい。
また労働生産性をあげることで、若者が働きたくなる職場を増やしたい。
星野リゾートにはさまざまな分野で期待するところがありました」と話す。

2018年2月、長門市での会議に訪れた星野代表を取材する多数のメディア陣。

2018年2月、長門市での会議に訪れた星野代表を取材する多数のメディア陣。

こうして、官民連携で温泉街のリノベーションを行うことに。
事業協定を結ぶ調印式は
2016年4月、村岡嗣政(つぐまさ)・山口県知事の立ち合いのもと行われた。
そして住民意見交換会などを経て、「長門湯本温泉観光まちづくり計画」は2016年8月に策定された。

2018年3月までの3年間、経済産業省から長門市に出向し、経済観光部長を務めた木村隼斗(よしと)さん。まちづくりに奔走する、キーマンのひとり。

2018年3月までの3年間、経済産業省から長門市に出向し、経済観光部長を務めた木村隼斗(よしと)さん。まちづくりに奔走する、キーマンのひとり。

その計画をもとに経済観光部長をはじめ若手の行政担当者が動き、
半年かけてプロジェクトの実働チームをつくりあげた。
そして官民が一体となり住民説明会や社会実験、
デザイン会議や推進会議などを繰り返し、2018年度より河川をはじめ、
温泉街の工事が本格的に始まったのだ。

一連の動きを「市長の英断」と讃える人がいる一方で、
「時代遅れも甚だしい。有名企業を誘致して、
瞬間的ににぎわいを取り戻しても長くは続かない。
飽きられ、もっと衰退する。同じやり方で失敗した自治体は山ほどある」といった批判をする、
ある温泉地の行政関係者もいたという。

その意見に対し、プロジェクトメンバーはこう言ったのだ。
「再生のラストチャンス。失敗したら長門湯本温泉だけでなく、
長門市も沈没する。市長以下、みな“これが最後”という思いで
日々奮闘している」と。

長門市役所から徒歩10分にある赤崎神社の楽桟敷(がくさじき)は、歴史ある野外劇場。大西市長と成長戦略推進課の松岡裕史(ゆうじ)さん。

長門市役所から徒歩10分にある赤崎神社の楽桟敷(がくさじき)は、歴史ある野外劇場。大西市長と成長戦略推進課の松岡裕史(ゆうじ)さん。

星野リゾートは長門市の救世主となれるだろうか?

次回は「長門湯本温泉観光まちづくり計画」を読み解きながら、
星野リゾート代表の星野佳路さんに地域活性への思いをうかがう。

information

長門湯本みらいプロジェクト

現地発信でイベント情報などを更新中

http://yumoto-mirai.jp

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