連載
posted:2016.12.29 from:岩手県西和賀町 genre:ものづくり / 活性化と創生
sponsored by 西和賀町
〈 この連載・企画は… 〉
岩手県の山間部にある西和賀町。
積雪量は県内一、人口約6,000 人の小さなまちです。
住民にとって厄介者である「雪」をブランドに掲げ、
まちをあげて動き出したプロジェクトのいまをご紹介します。
writer profile
Tamaki Akasaka
赤坂 環
あかさか・たまき●フリーライター。岩手県盛岡市在住。「食」分野を中心に、県内各地を取材・原稿執筆。各種冊子・パンフレットの企画・構成・編集も行うほか、「まちの編集室」メンバーとして雑誌「てくり」なども発行。岩手県食文化研究会会員。
credit
撮影:奥山淳志
岩手県の山間部にある西和賀町。 積雪量は県内一、人口約6,000人の小さなまちです。
雪がもたらす西和賀町の魅力あるコンテンツを、
全国へ発信していくためのブランドコンセプト〈ユキノチカラ〉。
西和賀の風景をつくりだし、土地の個性をかたちづくってきた雪を、
しっかりタカラモノとしてアピールしていくプロジェクトです。
2014年5月のオープン以来、コンセプトや宿泊客満足度、
部屋稼働率などあらゆる面から注目を集めている新潟県の温泉宿〈里山十帖〉。
それを運営しているのが、
クリエイティブ・ディレクターで雑誌『自遊人』編集長の岩佐十良さんだ。
ほかにも移住先の新潟県南魚沼市で米づくりを行うだけでなく、
オーガニック食品の企画・商品化、
さらには市の委員や広域観光圏のアドバイザーなども務めるという、
多忙を極める岩佐さんが西和賀町を訪れたのは、晩秋の色濃い11月の半ばのことだった。
実は今年度〈ユキノチカラプロジェクト〉は、次のステージへ一歩踏み出すことになった。
ユキノチカラをキーワードにした地鶏のブランディングと、
「ユキノチカラ=西和賀の魅力」を体感してもらうモニターツアーの実施だ。
雪国の食と文化を伝える観光の視点から、アドバイザーとして指名されたのが、
岩佐さんだった。
「岩佐さんには、西和賀の雪国文化をまちの魅力としてどのように生かしていくかを
一緒に考えていただきたいとお願いしました。
岩佐さんにお願いしたのは、デザイン・クリエイティブの価値をよく知り、
自らそれを生かしてビジネス展開している実践者だからです。
また、岩佐さんのような方にプロジェクトに参加していただくことで、
外部地域とつながったり、プロジェクト全体の視野を広げることができればと考えています」と、プロジェクトの運営や広報をとりまとめる日本デザイン振興会の鈴木紗栄さんは期待する。
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ユキノチカラプロジェクトがブランディングにかかわる地鶏というのが、〈南部かしわ〉だ。
岩手県の在来鶏、岩手地鶏の血を引く交雑鶏で、噛み応えのある肉質と、
噛むほどに舌を楽しませるうまみとほのかな甘みが特徴。
町内で温泉宿〈山人(やまど)〉を経営し、同町の観光協会会長でもある髙鷹政明さんは、
これをまちの名物にしたいと5年前から飼育の研究をしている。
「西和賀の食の名物といえば、山菜やきのこ、豆腐、納豆汁など、
野菜や植物性タンパク質がほとんど。
動物性タンパク質としては、温泉を利用して飼育するスッポンがありますが、
極め食材なので、滋味に富み汎用性が高い地鶏を名物にしようと決めたんです」
髙鷹さんは、宿の料理に使う野菜などを栽培する自社農園〈山人ファーム〉内に
鶏舎をつくり、大野集落営農組合の組合長・髙橋雅一さんとタイアップして飼育を開始。
岩手県農業研究センター畜産研究所から日齢28日前後のヒナを仕入れ、
日齢120日前後まで育て、それを〈山人〉で提供する。
身が締まりうまみの多い南部かしわは宿泊客の反応もいいことから、
来年度の商品化(販売)と、それに向けたブランディングが始まったのだ。
そのアドバイザーである岩佐さんが西和賀を訪れたこの日、
髙鷹さんと髙橋さんは岩佐さんを鶏舎に案内した。
鶏舎では髙橋さんの息子の聡さんが、配合飼料とともに
地場産の米や野菜を与えていること、飲み水は雪解け水を源とする湧水であること、
冬の寒さに強いので西和賀の気候に合っていることなどを説明。
農業生産法人を運営する生産者でもある岩佐さんは、興味深げに耳を傾ける。
そんなこだわりの地鶏の味はいかに!? ということで、同日には試食会も開催された。
炭火で焼かれ、塩コショウだけで調味された〈南部かしわ〉は、
プリッとした食感ながら噛むとジューシー。特有のうまみも楽しめた。
炭火焼きの香ばしい香りに包まれながら、岩佐さんは
「食のプロジェクトの成功ポイントは、『おいしさ』の徹底追求」と言い切る。
ただし「おいしさ」の評価は人によって異なる。
そうなると、「食材の味がいかに生きているか」が重要な基準となり、
例えば野菜なら有機栽培や無農薬栽培が、
加工食品や料理では添加物の入らない調味料を使うことが付加価値になるだろうという。
これらは南部かしわのブランド確立に向けたストーリーづくりの、大きなヒントといえる。
一方髙鷹さんは、「今年度中に、衛生管理の徹底した屠畜場をつくり、
最新鋭の冷凍システムCAS機能を導入し、
品質をより維持したまま貯蔵できるシステムをつくる予定です。
いままでになかった地鶏の食提案……鳥刺しなんかも当たり前のように提供したいですね」
と夢をふくらませる。
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来年2月、まちの大きな祭りのひとつ〈雪あかりinにしわが〉の時期に合わせて、
プロジェクトではモニターツアーを企画している。
そこでメンバーは試食会のあと、
「旅」と「食」がテーマの雑誌『自遊人』の編集長である岩佐さんを、ある場所に案内した。
国道から東に入った山あいの集落には、ひっそりと、でも大きな存在感を放つ、
築140年の古民家が建っていた。
集落が川舟地区であることから〈川舟の家〉と呼ばれ、
同地区のNPO法人〈西和賀文化遺産伝承協会〉が保存活動に取り組んでいる。
数年前からは茅葺き屋根の差し替えも行っているという。
運営する温泉宿〈里山十帖〉も古民家をリノベーションしたものであり、
昨今の古民家ブームもあいまって仕事で古民家を目にする機会が多い岩佐さんだが、
「100数十年前の古民家とは思えないほど、保存状態がいい」と驚き、
可能なら活用したほうがいいと勧める。
さらに、「西和賀は首都圏などからの『距離の壁』があるが、
早くチェックインして遅くチェックアウトしてもらい、
宿や町内をたっぷり楽しんでもらうようにすれば、距離は関係ない」と言い切り、
新しいツアーのあり方を提案する。
もうひとつ、プロジェクトのメンバーが岩佐さんに意見を求めたのは、
昨年度パッケージをデザインした商品の、今後の展開方法だ。
町民への定着は浸透し始めているが、このあと町外へ流通させるためには、
卸売り価格の設定や営業担当者の配置など課題が多い。
「ユキノチカラはデザイン力が高いので、逆に商品力をもっと高めれば絶対売れる。
ただし流通に乗せるには流通マージンも必要。
製造原価から適正価格を割り出し、値上げを検討することも重要」とアドバイスする。
昨年度の「つくる」から、今年度はいよいよ「売る」へ。
昨年度のプロジェクトもまた、次のステージへと進む。
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