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たくさんのプロジェクトが、
まちづくりのきっかけに。
「ディスカバーリンクせとうち」後編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.030

posted:2014.11.25   from:広島県尾道市  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/

前編:第一に“まちのため”を考える。「ディスカバーリンクせとうち」前編 はこちら

尾道観光のハブとなるONOMICHI U2

ディスカバーリンクせとうちは、「第一にまちのため」を考え、
尾道を中心に多種多様な事業を展開している。

まずは、空いていた倉庫を改装したONOMICHI U2。
海沿いにはウッドテラスもあり、自転車が通りやすく、
散歩するだけでも気持ちがいい。
内部ももともとの天井の高さを保ってあるので、広々とした空間だ。
ここにカフェ、バー、レストラン、グロッサリー、ベーカリー、
自転車ショップ、そしてホテルもある。

尾道は実は「通過型」の観光地であった。コンパクトなまちゆえに、半日観光して、
その後は宮島へ行ったり、四国へ渡ったりと、宿泊しない観光客が多い。
「通過型」から「滞在型」へ変化する必要がある。
そのために、衣食住が完結する施設をつくりたかった。
そこでオープンさせたのが〈HOTEL CYCLE〉である。
全長約70kmの瀬戸内しまなみ海道が国内外から注目されている。
尾道からいくつもの橋を渡って、愛媛の今治へ。
そこでこのホテルでは、自転車を持ち込んだままチェックインできるようにした。
フロント脇にも自転車置き場があり、
ほかにも施設内いたるところに自転車置き場がある。
なんと部屋のなかにも壁掛けの自転車ラックが設置されていて、
愛車を眺めながら眠りにつくなんてオツなことも可能。
当然ながら、サイクリストの宿泊客が多い。

「うちで1泊して、今治まで自転車で渡られる方がたくさんいらっしゃいます。
もっとすごい方は、朝、荷物をホテルへ置いて、往復140km走られてから、
チェックインされる方もいますよ!」というのは
OMOMICHI U2代表取締役の佐藤慎哉さん。

HOTEL CYCLEのエントランス

HOTEL CYCLEのエントランス。目の前に自転車を置ける。

ディスカバーリンクせとうちは、「よくもわるくも素人集団」という。
本格的なホテル経営の経験者がいたわけではない。
しかし、「ニーズにがちがちにとわられず、
素人だから思いつく遊び心も大切にしています」という。
でなければ、自転車ラックだらけだったり、
ロビーの真ん中を自転車が通過するようなホテルにはならなかっただろう。

場所の力は大きい。これだけの施設ができると、地元のひとからも注目されるし、
地元のひとにもお客さんとして来てもらわないといけない。
そして雇用を生むことも目標のひとつ。
ONOMICHI U2は大多数が地元採用だ。
だからこちらも素人ばかり。
販売員をやったことがない、ホールをやったことがない。
「でも、それはわかっていたこと。覚悟のうえなんです。
一般の地元のひとたちを巻き込んでいきたい」
それでも、雇用として、そしてお客様の立場で利用してもらうかたちとして、
尾道市民を巻き込んだ活動を展開していこうとしている。

佐藤慎哉さん

ONOMICHI U2代表取締役の佐藤慎哉さん。

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市民の協力でできあがった尾道デニムプロジェクト

それまでハード面の取り組みは進んでいた
ディスカバーリンクせとうちだったが、
もっとひととつながりながらまちを盛り上げる仕組みを考えていた。
そこで生まれたのが、
繊維業とひとをマッチングさせたONOMICHI DENIM PROJECT。

まちのひとに新品のジーンズを履いてもらい、色落ちをさせて、
それを新たに販売するという試み。
尾道の市民によるリアルユーズドデニムの製作といえる。
個体差をだすために、さまざまな職業のひとに協力してもらった。
漁師、農家、住職、保育士、大工、プリン屋さんなど。
全員きっちり採寸したうえで、新品のジーンズ2本を渡して、
なるべく週4日以上はいてもらう。
毎週木曜日に回収し、専門工場で洗ってからまた返す。
それを1年間繰り返す。
総勢約270名に協力してもらい、
全部で540本のユーズドデニムができあがった。

色落ち具合は当然さまざまだ。職業によって、落ち方が変わってくる。
「ハンターは返り血がついています。大工は広範囲に色が落ちますね。
漁師は潮と太陽によって、黄味がかります。
保育士は、子どもの目線にしゃがむことが多いので、
ヒザが出て色もよく落ちる。
クルマの運転が多いひとや座ったままの仕事のひとは、
モモの付け根にヒゲというアタリがたくさんつきます」と話すのは
担当スタッフの小川香澄さん。

それぞれのジーンズに刻まれたアタリが、
年輪となり個性をあらわしている。まるで尾道の市民図鑑のようだ。
「ひとりだけ、どうしてもということで
ファスナー仕様にしたひとがいるんですけど、73歳の方で、
人生初のジーンズだったんです。はいているうちに気に入ってしまったようで、
最後は泣く泣く返却していましたよ」

もちろん、「週4回はく、週1回洗濯」というルールを
全員が遵守したかどうかはわからない。確かめようもない。
しかしそれすらも個体差であり、尾道市民の個性。
ものづくりとひとのうまく融合したかたちが、
ジーンズのアジとなって表現されている。

ONOMICHI DENIM PROJECTのデニム

ロットナンバーで履いてくれた人物を把握している。24,800〜42,000円まで。

失いつつある産業に光を当てる伝統産業プロジェクト

伝統産業プロジェクトでは、前回紹介した「備後畳表」以外に、
備後絣(びんごかすり)も手がけている。
広島県の福山地方に伝わる絣で、日本三大絣にも数えられている。
裏表の区別がなく、薄いが丈夫な生地だ。
他の産業同様、こちらも跡継ぎが少なく、
織り機を持っている現役も60〜70代となってしまっている。

備後絣の織元が織った生地を使ったポーチ

備後絣の織元が織った生地にレザーをあしらうと、ぐっとイマドキ。

ディスカバーリンクせとうちでは、少ない生地でもつくれるように、
切りばめで仕立て、現代のニーズに合うようにした。
ポーチや一点もののクッションカバーなどをつくっている。
それらを実際に手に取って見られる場所がある。
次に紹介する「せとうち 湊のやど」だ。

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坂道を上って「せとうち 湊のやど」へ

尾道の観光名所ともなっている坂のまちなみ。
千光寺へと続く道の中腹にあるのが、「せとうち 湊のやど」。
隣り合う島居邸(しまずいてい)洋館と出雲屋敷のふたつからなる。
島居邸は、昭和初期に建てられた洋館をリノベーションしたもの。
外観にはあまり手を加えず、当時の雰囲気を色濃く残している。
テラスもあって、尾道のまちを一望できる。見晴らしは最高だ。
一方、出雲屋敷は数寄屋造りの日本家屋を修繕した。
お茶室もあり、お茶会を開催しながら宿泊する利用者もいる。

このエリアは素晴らしい景観が残っているが、
現状ではロープウェイで頂上の千光寺まで登って終わりという
観光スタイルが主だ。
しかし「坂のある文化をもっと歩いて感じてほしい」という
支配人の吉田挙誠さん。
道が狭くクルマが入ってこられないエリアなので、
ここに泊まっていれば、否が応でも歩かなければならない。
周囲はお寺が多く、静かなエリアでゆったりと滞在できる湊のやどならば、
そんな気持ちの余裕が生まれそうだ。

島居邸のベッドルーム

丸窓が特徴的な島居邸のベッドルーム。

鞆 肥後屋の鯛味噌で通りに人を呼びこむ

尾道からクルマで50分ほど、船なら30分ほどで行くことができる
福山市鞆の浦。古い商家がたくさんあり、蔵もたくさんある。
歴史の深いまちであるが、あまり観光地化されておらず、
おみやげものや名産品も少ない。
そんな鞆の浦にある江戸後期の空き家を借りて
事務所にしたディスカバーリンクせとうちは、
まずみやげものをつくろうと考えた。
保命酒という薬草を漬け込んだお酒をつくっていた建物だったが、
鯛味噌という看板が出てきた。
どうやら昭和に入ってから鯛味噌もつくっていたことがわかった。
そこで鯛味噌を復活させるべく動き出す。
とはいえ、家に伝わるレシピが残っているわけでもない。
周囲の方にリサーチしたり、試作を重ねて開発していった。

鯛味噌 白、鯛味噌 赤、鯛胡麻煮の3種類

鯛味噌 白、鯛味噌 赤、鯛胡麻煮の3種類。ほかに生海苔佃煮もある。

「この通りが寂しかったので、ひとを呼びたい。
うちだけが儲かるのではなく、きっかけになってくれればいい」
と話すスタッフの辻本桃子さん。
店構えは伝統的な建物の雰囲気を壊さず、内部も土間が広く、奥行きもある。
店内でちょっと腰かけてひと休み、なんていい感じ。
観光客以外にも、近所のひともフラッと立ち寄りやすい雰囲気だ。

「鞆 肥後屋」の外観

もともとあったものを活かしながら、まちと通りに馴染むよう心がけた。

ほかにも動きつつあるプロジェクトがまだまだある。
ディスカバーリンクせとうちが複合的に仕掛けることで、
ひとを巻き込み、まちを巻き込み、それぞれが複合的にからみあっていく。
そして地域全体を巻き込みながら、大きな渦になっていくかもしれない。
すべてはまちの未来のためだ。

information

map

ディスカバーリンクせとうち

住所:広島県尾道市久保1-2-23

TEL:0848-38-1137

Web:https://www.dlsetouchi.com/

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