連載
posted:2014.11.11 from:徳島県三好市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
前編:廃校を使った地域の拠点づくり。株式会社ハレとケデザイン舎「三好市の廃校活用事業」前編 はこちら
三好市は徳島県の最西部、四国のほぼ中央に位置する。
平成18年3月に三野町、井川町、池田町、山城町、
西祖谷山村、東祖谷山村が合併して三好市が誕生した。
徳島県のなかでも最も山深い地域だ。
一次産業の衰退に伴う過疎化が深刻で、高齢化率は約40%と極めて高い。
合併当初の人口は3万6千人。それが3万人を切るところまで来ている。
昔はタバコの産業で栄えたまちであったが、
産業が衰退したあと、新しい産業をつくることができなかった。
山や森を活用することができず、次第にひとは減っていき、
限界集落を飛び越えて、消滅集落に向かっている場所も多い。
日本の課題が集結したような地域である。
過疎化に伴い休校・廃校となる学校も多く、
三好市では28の休校・廃校があった。
三好市では2012年より休廃校活用の専任者を置き、取り組みを始めた。
いまその活用事業の仕組みが注目されている。
三好市の休廃校。市は28校のうち22校を活用のために提供した。そのうち9校で事業化が進んでいる。
三好市・地域振興課の職員、安藤彰浩さんは、
2012年の春、休廃校活用の辞令を受けた。
現在は休廃校等活用事業を進めている安藤さんにお話を伺った。
「28校の廃校のうち、22校の活用を進めています。
市長からは、そのうちひとつでもいいから成功事例をつくってほしい
と言われました。現在9つの学校で11の事業が動き始めています」
と安藤さん。廃校活用の提案を広く民間に公募し、
審査のうえで運営を任せる仕組みだ。
「最初の1年は本当に苦労しました。
飛び込みでいろんな会社をまわったりもしました」
しかしなかなか事業化は進まない。
「まずは廃校活用の実態を知らねばならない」と安藤さんは、
全国の廃校活用事例を見てまわることにした。
農山漁村交流の全国セミナーに参加したり、
全国の活用状況を把握するために視察を行った。
調査をすると多かったのはなんらかの「関係性・コネクション」で
廃校活用を委託しているというケース。
しかしそれではなぜその事業者を選定したかの説明ができない。
活用事業がうまくいっているところはほんの一握りだと感じた。
行政が多額の税金を投入して施設を改修し、
第三セクターや指定管理に出しているものなどは問題が多かった。
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「1億かけて校舎を改装して、年間の売り上げが300万とか。
そういう実態もありました」
安藤さんは行政がやみくもにお金をつぎ込むべきではないと考えた。
逆に民間ががんばっているケースに注目した。
「面白いと感じたのは企業の誘致に成功した例です。
お酢の工場として事業化している例、
あるいはアワビやチョウザメの養殖場になっている例も面白いと感じました」
廃校に魅力を感じた企業が雇用を生み出し、
改装費も含めてペイできる事業計画。
そういった具体的な計画が立てられるものであるべきだと考えた。
全国の廃校でも民間が入って事業化できているものは6%、100校程度。
「だったら全国の事業家が参画しやすい仕組みをつくろう」
と安藤さんは考えた。
三好市・地域振興課の安藤さん。地元に新しい力を入れる「しくみづくり」
まず廃校のあるそれぞれの地域の集落に廃校の活用法を相談した。
最初に地元の意見を聞いて回ると
「地元としてはもう頑張れない」という声が返ってきた。
「あと10年早く話がきたら、なんとか動くことができたのに」と言われた。
「いまの段階では、地元での廃校活用は無理です、と」
過疎・高齢化が進む集落では事業を行う若手が
すでにいなくなっていた。
「市役所が広く公募して、地元に新しい力を入れてほしい。
地元からは、そういった声が多くあがりました」と安藤さん。
地域の声を拾いつつ三好市に来てくれる事業を
全国に公募する仕組みを考える必要があると感じたという。
「どのような自治体であっても、
事業者などとのコネクションがなくても、トップセールスがなくても、
担当者レベルで実現できる仕組みが必要なんだと思います。
アイデアだけでなく、しっかり事業として考えてくださる方に
関わっていただける仕組みを考えました」
休廃校活用事業の概要。三好市と企業と地域住民が協力しながら進めていく。
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休校のままだと活用できないため、
休校になっているものも廃校へと移行を行った。
窓口を一元化し、地域の意見交換会をふまえつつ
活用アイデアの募集を始めた。
募集するのは提案した事業を自ら実施できる法人・団体・個人。
アイデアだけを募集すると具体性がないものが集まってしまう。
「責任もって入口から出口までしっかり事業化ができることが条件です」
と安藤さん。
市が審査して問題なければ、廃校を活用した事業を進めることができる。
休廃校等活用推進委員会が基本方針や事業計画案の選定や調整を行う。
アイデアは北海道から九州まで応募があった。
そのなかで12の事業を採択。
現在11個の事業を9つの学校で行っている。
旧出合小学校。前編で紹介した「ハレとケデザイン舎」がデザイン事業とコミュニティカフェを運営している。
選定された事業は、市から廃校を「現状有姿」で貸し出される。
事業計画によるが最長は5年契約。その後は審査し毎年更新となる。
改築費用や光熱水費など事業に係る経費などは借り主側が負担する。
通常、返却は現状復帰だが、市にとって有益な改築であれば、
改築のままでの退去も良いという考えも盛り込んだ。
その事業の持続性や鑑みて、効果が高いと思う事業に関しては
市もサポートをしていく。
「最初から税金を投入することはしないですが、
それが地域にとって有効であると認められるものに関しては
税金を投入して支援も考えています」
廃校は山間僻地にあるので、
事業に係る商業車が入って来られないケースもある。
たとえば廃校施設への進入路などの環境整備など、費用対効果を鑑みた上で、
行政として支援できる範囲でサポートしていくという。
出合小学校文化祭。地域のひとたちがハロウィンイベントの準備中。移住者と地域の交流によって廃校が新たな地域拠点となっている。
現在、三好市の廃校は物流センターから福祉、デザイン事務所まで
幅広く活用されている。
三好市の廃校活用事業によって地元で生まれた雇用は50人ほど。
さらに事業にたずさわる三好市への移住者が12人ほど。
それに加えて一番の成果は「地域が自信を取り戻したこと」だと
安藤さんは語る。
「地域のランドマークであった学校が暗く閉ざされていたわけです。
そこにふたたび明かりが灯った。心のよりどころを取り戻したのです。
衰退していた地域に、外からのひとが魅力を感じて多く来られる
ということで、自信を取り戻している。
それが一番の成果だと感じています」
三好市では現在、廃校活用の第8次募集を開始している。
11月末が締め切りだ。
三好市地域振興課の安藤さん。現在、廃校活用の第8次募集を開始している。(11月末まで)
information
三好市 企画財政部 地域振興課
住所:徳島県三好市池田町シンマチ1500-2
TEL:0883-72-7649
FAX:0883-72-7202
information
株式会社ハレとケデザイン舎
住所:徳島県三好市池田町大利大西15番地
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