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連載

日本の伝統技術を、
ジュエリーに込めて。
「SIRI SIRI」後編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.006

posted:2014.5.27   from:東京都墨田区  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/

前編:気鋭のジュエリーデザイナーが語るものづくり。「SIRI SIRI」前編 はこちら

職人と二人三脚のものづくり

東京の下町の技術を取り入れてものづくりをしているSIRI SIRI。
そのガラス商品のうち、7割以上を製作しているという工房に、
デザイナーである岡本菜穂さんと訪れた。
近所にはガラスを扱う工房が集まるという浅草の住宅地に八木原製作所はあった。

中に入ると、まるで理科実験室のようだ。
それもそのはず、八木原製作所は、
フラスコやビーカーなどの実験器具を製作している工房で、
それらの製品に囲まれてなんだか理系気分。

バーナーでガラスをあぶりる

バーナーであぶりながら、パーツを接続していた。

八木原敏夫さんは、今では理科機器製作の合間に、
ほぼ毎日SIRI SIRIの商品をつくっている。
取材に訪れたときは、ピラミッド型の指輪“STUD”を製作していた。
バーナーで熱しながら台座や四角錐を丁寧に成形していく。
「実験器具をつくるより繊細ですよ」と八木原さんが言うくらい、
岡本さんが求める精度は高いそうだ。

かたわらには、図面が置いてある。

「ジュエリーのデザイナーは、
デザイン画のようなもので発注することが多いようですが、
私は建築の技術を応用して図面で渡しています」と岡本さんは言う。

図面で難しければみずからスタイロフォーム(模型の材料)などを削って
微妙なアールを伝えたり、直接横について作業に付き合ったりする。
職人によって伝え方は変わってくるが、
分野は違っていても、「目指す方向性が一緒でないとうまくいかない」という。

「新しいことをやってみたいという思いがあれば、一緒に試行錯誤してくれます。
“これをつくってください”と発注して“はい、できました”という
単純なことではありません。
職人さんからも、“こうしたほうがもっときれいにできる”とか
“このやり方が合理的だ”という“返り”がないと、
いいものができないと思っています」

そういう岡本さんに対して八木原さんいわく、
「最初は結構ケンカしたよね(笑)」
しかしそれがコミュニケーションであり協働。
職人と二人三脚。そうじゃないと、きっといいものは生まれない。

「わたしが思い描いている段階ではまだ70%くらい。
それが職人さんの力で100%にも120%にもなっていくんです。
わたしの想像をこえたものができたときは、帰りの銀座線が気持ちいい(笑)」
(岡本さん)

八木原敏夫さんと岡本菜穂さん

打ち合わせを始める八木原敏夫さんと岡本菜穂さん。

Page 2

クオリティが美の中心である

岡本さんは、デザインを考えたら、それを実現できそうな職人さんを探していく。
特につながりがない場合は飛び込みだっていとわない。

SIRI SIRIのプロダクトのなかでよくフィーチャーされる江戸切子の商品も、
「当初はうちが使っているパイレックスというガラスはとても硬いので、
切り子の刃では削れない」という話だった。
しかし「一度だけお願いします!」と頼み込むと、治具を開発し実現してくれた。
新しいことに挑戦したい若いスタッフもいたからだ。
まずはやってみなくては!

しかし技術はあるのに、後継者不足などで、
せっかくのすぐれた技術が活用されずもったいないケースも。

一方で若い世代は、日本の伝統的ものづくりを見直しつつある。
少しずつ、伝統技術の世界にとび込んでいる。
そしてこれまでにないものにチャレンジしようとしている。

「日本のものづくりも見直されていますよね。
少なくとも、私がSIRI SIRIを始めた7年前よりは、
日本のいいところがフォーカスされていると思います。
海外では、日本の文化とかものづくりのクオリティを尊敬の念で見てくれます。
うつわなんて、個人的には日本のほうがずっと好き」

SIRI SIRIのガラスのジュエリーパーツ

SIRI SIRIのガラスのジュエリーは時間が経っても曇らないと評判だ。

岡本さんから見た日本のものづくりの優位性は、西洋とは違うベクトルのなかにある。

「西洋的なものはドラマティックで、日本とは感覚が違うと思いますが、
もっとクリーンでピュアなものなら、
日本の表現は独自なもの、かつ自由だと思います」

ガラスジュエリーを火にかける

熱しているのではなく、急激に冷まさないために火にかける。

技術ではそもそも負けていない。
しかし技術というものは当たり前にあって、“その上にある何か”で差をつけていくのが、
特にファッションの世界だったかもしれない。
だが技術におけるクオリティは、日本の新しい道しるべとなる可能性もある。

「日本の職人さんと触れ合っていると、美の中心がクオリティなんですよね。
これはどの職人さんと話しても同じ。
いままでは、クオリティを日本の文化や美の中心といってはいけないと
思っていたんですが、
最近では、クオリティを追求することを文化して捉えていいのではないかと思っています。
洗練させてとがらせていくという、日本人の精神性に通ずるのではないでしょうか」

技術を極めた質こそが美しさ。
そんな日本の伝統技術もどんどん消えつつあるが、残していく方法はいくつかある。

「SIRI SIRIを通して日本の文化を知ってもらい、
日本人が誇りを感じてもらえる」ブランドになっていきたいという。
しかしあくまでSIRI SIRIという表現の話。

50年、100年と経てば、それは立派な伝統産業。
技術はその時代に必要とされているから残る。

まずは日本的な美的感覚を見直し、現代的なデザインに落としていく。
そこに必要な技術は、日本には、周りを見渡せばある。
それはかつてのものづくりにおいて当然の姿だったのかもしれない。
SIRI SIRIはそれを過去に逆行させることなく、むしろ進んだかたちとして表現しているのだ。

information

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SIRI SIRI

住所:東京都港区西麻布2-11-10 霞町ビル2F

TEL:03-6821-7771

※ショップは平日のみのアポイントメント制

Web:https://sirisiri.jp/

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八木原製作所

住所:東京都墨田区東駒形2-18-11

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