連載
posted:2015.7.15 from:宮城県石巻市雄勝 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。
editor's profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●コロカル編集部エディター。生まれも育ちも埼玉県。食わず嫌いだった「ホヤ」。今回の取材で「ホヤたまご」という雄勝の家庭料理に出会い、食べられるようになりました。
石巻市雄勝。平成の大合併で町から市となり、宮城県の北東に位置するまちだ。
名産は雄勝硯(おがつすずり)。国内90%のシェアを誇る硯石が採掘され、
書道で使う硯に限らず、食器や装飾品などさまざまな品に加工される。
また、海の幸山の幸も豊富で、海ではカキやホタテ、ホヤ、銀鮭の養殖、
平野ではササニシキが育つなど、第一次産業がまちの支えとなっている。
そして、ここもまた東日本大震災の大きな被害を被った地である。
約600棟あった沿岸部の民家は津波にさらわれ、
まちの8割の建物を倒壊させた。高台への移転は難航しており、
人口は震災前の4分の1にまで減ってしまったのだという。
そんな雄勝の東の先端にある旧桑浜小学校は、
2002年の閉校までのおよそ90年間で500名以上の卒業生を送り出してきた
歴史ある小学校である。少子化により閉校となったその桑浜小学校を、
「体験型宿泊施設」として蘇らせ、2015年7月18日にオープンを迎えるのが、
〈MORIUMIUS〉だ。
読んで字のごとく、MORI(森)とUMI(海)、
そしてUSには明日と私たち(US)がかけられている。
数日間にわたる集団生活を通して、
農業体験、林業体験、漁業水産体験といった第一次産業の職業体験ができる。
ガイドはそれぞれの分野の地元のプロフェッショナルたち。
一次産業従事者との交流を通じて、“食育”、“教育”から
さらに深いところへ踏み込んだ、子どもたちにとって忘れられない体験になるだろう。
施設内には食事や宿泊場、風呂も完備。
小学生から中学生を体験の主な対象としているが、
企業研修やゼミ合宿、アーティストによるレジデンスなどの
大人たちの利用にも対応している。
運営団体である、公益社団法人〈sweet treat 311〉理事の油井元太郎さんは、
豊洲のキッズパーク〈キッザニア〉を日本で展開した会社の立ち上げメンバーだ。
“子ども”と“職業体験”というキーワードをここ雄勝で拡張させた。
ただし、キッザニアと大きく異なるのが、
MORIUMIUSは宿泊施設を有する複合的な体験施設であるということ。
建物の大規模修繕も初めてのことだった。
「2013年4月にこの学校を取得してから、
利用についてのワークショップなどを経て大規模な改修作業が始まりました。
まさにイチからの改修です」
建築家・隈研吾氏はじめスタンフォード大の学生などがデザイン企画をしたり、
フィールドワークでは、90年間木造校舎を支えてきた力強い梁を見て、
隈氏をはじめとする建築関係者は、
その立派さや当時の雄勝の職人の技術に驚いていたのだという。
MORIUMIUSでも耐震補強もなされたうえで、梁を生かした設計となった。
約2年間の大プロジェクトには4500人を超すボランティアや企業・団体の協力があった。
地元の大工さんの指導のもと、解体の手伝いや、左官の手伝い、
屋根に用いた硯石の加工など、地域住民とうまく連携し合い、
完成の日を迎えた。
「循環」というのもひとつのテーマ。
浄化された水を更にきれいにするビオトープなど
サステナブル(持続可能)な社会を学ぶというのも意識している。
「子どもたちにはさまざまな体験を通じて自然の循環を学び、
その中で生きる力を身につけてほしいですね」と油井さんは話す。
Page 2
6月某日。さまざまな地域から集まった10名弱の小学生(7歳から11歳)と
その保護者を対象に、MORIUMIUSオープン前の体験会が行われた。
緊張の面持ちの子、いつもと違った環境に興奮冷めやらぬ子、照れ屋な子。
個性豊かな子どもたちがどのような体験をしていくのか、
その一例を紹介していきたい。
雄勝の豊かな海で育つのは、ホタテ、ホヤ、銀鮭、ワカメなど、
食卓でなじみ深いものから、子どもはまず口にしたことがないであろう珍味まで。
今回は、漁船に乗ってホタテとホヤの養殖の現場を体験した。
「ホタテの目はどこにあるでしょうか?……正解はこの黒いつぶつぶ全部です」。
そう言う漁師さんの手元を覗き込む子どもたちの反応はさまざま。
そのまま船上で漁師さんの見よう見まねでホタテをさばいて、「いただきます!」
宿舎に戻った子どもたちを待ち受けるのは、稲作体験と料理体験だ。
ひんやりとした泥の感触を足裏で感じつつ、完全手作業での稲作に精を出す。
夕飯の準備もみんなで。必要な分の薪を割る、薪で火をおこす、
羽釜でご飯を炊く、ピザをつくって焼く、ホタテをさばく。
料理体験というにはあまりにもスケールの大きい体験だ。
次の体験の舞台はMORIUMIUSの裏手にある「森」。
ずんずんと山中に入っていき、ちょっと息が切れ始めたころにたどり着いたのはスギ林。
森をつくることや、スギの木の特徴、間伐の必要性、
のこぎりの使い方などを教えてもらったあとに、
高学年の子を中心にスギの木の伐採にとりかかる。
効率よく切るにはどうしたらいいか。
自分も周りも安全を確保するにはどうしたらいいか。
子どもたちはひとつひとつを考えながら行動しているのがよくわかる。
「大きな木を切り倒せると達成感がある」と、
黙々と木に立ち向かうお兄ちゃんお姉ちゃんの姿がたくましく思える。
伐採した木は自分で持って下山。
日程によっては、伐採した木を使った木工も行えるのだという。
天気がいい日には渓流遊びも楽しめる。
体をフルに使って遊び、学ぶ2日間のプログラム。
それにしても、子どもたちの無尽蔵の体力と、爆発的なエネルギーに、
大人は振り回されているようにも見えるのだが……。
Page 3
「いつもだったら“危ないからやっちゃだめ”って言われることも
今日はいっぱいできてうれしい」と話してくれたのは、
東京から来た11歳の男児。斧で薪を割り、火に薪をくべること、
のこぎりを使っての間伐、渓流遊び、そして、思いっきり廊下を走ること。
これらの「禁止」と言われていることができるというのが楽しいのだという
(普段、「やっちゃだめ」と言っていた大人から「やっていいよ」と言われ、
子どもが一瞬ひるむ様子もかわいらしい)。
前述の11歳の男の子は、特に森での間伐体験に熱心に取り組み、
スタッフの指示のもとで、何本もの木をのこぎりで切り倒していた。
男の子のお母さんは、「飽きっぽい性格なのですが、
こんなに集中して取り組んでいることにびっくりしています」と驚いた表情を見せた。
さまざまな体験が待っているので、
同行する大人はどうしても子どもの行動に過敏になるが、
すべては経験だと思って落ち着いて見守るということが、
実は大人にとってもいい経験になっていたのだ。
すべてのプログラムを終えたあと、何人もの子どもたちが
「また来たい。絶対来たい」と興奮し、
目を輝かせながら大人に体験の話をしていたのが印象的だった。
もうすでに夏の予約が埋まりつつある。
1泊から2泊の短期訪問でまずは体験という人も多いが、
今回紹介したプログラムを網羅しつつ、
雄勝で“暮らす”ということを体験できる1週間の滞在型プランも人気が高い。
地域住民との交流や、英語を使ったプログラムなど、充実した内容になりそうだ。
さらに、1週間以上の長期滞在も可能ということで、選択の幅が大きいことも魅力。
「山村留学」「語学留学」を考える親にとって、MORIUMIUSという選択肢は
大いにアリなのだと参加者の保護者は話していたがこれには納得だ。
この夏、ひと回り大きくなった子どもたちの姿を
雄勝で大勢見られることになるかもしれない。
7月18日、MORIUMIUSいよいよオープンだ。
Information
MORIUMIUS
モリウミアス
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ