連載
posted:2014.3.29 from:福島県 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。
editor’s profile
Kayano Miyoshi
三好かやの
みよし・かやの●ライター。宮城県生まれ。食材が産声を上げる最前線で取材すべく、全国を旅するかーちゃんライター。少女時代から無類のホヤ好き。震災から3年、ようやく復活する三陸のホヤを酒の肴に味わうのが、目下一番の楽しみ。創刊87年を数える「農耕と園芸」で、被災地農家の奮闘ぶりをルポ。東北の農家さんや漁師さんの「今」をブログで配信中。
http://ameblo.jp/kayanooo/
credit
撮影:加藤純平
東京を舞台に、昨年9月から6か月間にわたり繰り広げられてきた、
「ふくしま応援シェフ」による消費者との交流会が、2月19日に最終回を迎えた。
会場となったのは「Potajer MARCHE」。
「市場のような楽しくて、わくわくする場所で、野菜を楽しむ」をコンセプトに、
中目黒の商店街に昨年6月にオープンした。
オーナーシェフ柿沢安耶(かきさわ・あや)さんは、
2006年、世界初の野菜スイーツ専門店「パティスリー ポタジエ」をオープン。
野菜のおいしさや美しさ、その栄養価を生かしたスイーツが、人気を呼んでいる。
そして今、全国に150人以上いる「ふくしま応援シェフ」第1号として、
真っ先に名乗りを上げた人なのだ。
「福島は、たびたび訪れて農家さんの桃やトマトを使ったり、
南会津高校で食用のほおずきを使った授業をしたり。
いろんなつながりを持ってきました」
震災が起きたとき、福島や東北の野菜を避ける人たちもいた。しかし、
「福島には、とてもお世話になっていて、野菜やフルーツを作ってくださる方がいます。
私自身、事故が起きたから食べないというのは、どうかな? と。
県がしっかりと検査して、私たちが安心して食べられる状態になっていますので、
今日はそのおいしさと、安全性を確かめて、みなさんにも広めていただきたい。
そして、なくしてはならない福島の農業を支えていくことに、
ご協力いただけたらと思います」
柿沢シェフは、肉や魚を使わずに、
野菜や果物のうま味を引き出す料理のスペシャリスト。
この日登場した「トマトの煮込みハンバーグ」にも、
ひき肉ではなく、大豆ミートが使われていた。
イベント当日は、いわき市の「とまとランドいわき」から石橋洋典さんも駆けつけた。
この日柿沢シェフが料理するトマトたちは、どんなところで生まれたのだろう?
いわき市中心部から北へ約10キロ。
田んぼの中に、巨大なガラスハウスが現れる。
それが「とまとランドいわき」。
2月中旬、外は雪に覆われていたが、
ハウスの中では、秋、冬、春と、トマトの栽培が行われている。
ハウスの中に入ると、そのスケールの大きさに圧倒される。
天井に届きそうな勢いで伸びるトマト、トマト、トマト……。
大玉、中玉、ミニ。赤、オレンジ、黄色、そしてバイオレット。
まるで「トマトの樹海」に迷い込んだよう。
右に左に、トマトの木が、どこまでも続いている。
中では、女性たちがコンテナを積んで、トマトの森へ分け入って次々と収穫していく。
総面積7000坪のハウスから生み出されるトマトは、なんと年間800トン。
しかし、これだけ大量に栽培できるのに、このハウスには“土”がない。
トマトの木の根元を見ると、お豆腐ほどの大きさの土台に支えられているのがわかる。
根を支えているのは、ココナッツの繊維を利用した「ココウール」という素材。
そこにトマトが必要とする栄養を、チューブで供給する。
養液の大きな利点は「土よりも木が疲れない」こと。
1本の苗から35段以上のトマトが収穫できる。
ここはオランダ型の大型ハウスを、本州で最も早く導入して養液栽培を始めた、
「最先端のトマト屋」なのだ。
石橋さんは、ヘルメットを被り、高所作業車に乗って作業中。
「先日の雪で天井のガラスが割れてしまったんです。
こんなことは初めて。外気が入って温度が下がると、
トマトの色づきが遅くなってしまいます」
割れたガラスの除去作業に、とても忙しそうだった。
3年前の震災のときには大きな被害を受けた。
ハウスは海岸から1キロ。津波は到達せず、ハウスの骨格は持ちこたえたものの、
暖房設備、養液を送り込むシステムが損壊。トマトは瀕死の状態に。
石橋さんと同社専務の元木寛さんは、同級生。
ふたりは残ったトマトを必死でもいだ。
当時政府からトマトの出荷制限は出されなかったが、
売り先から販売を拒否されてしまう。
そこでネットを通じて販売したところ、全国から注文が殺到した。
養液システムと苗を立て直し、8月にようやく出荷を再開したものの、
今度は風評被害に悩まされた。
いわき市生まれのハウストマトには「サンシャイントマト」というブランド名がある。
温暖で晴れの日の多いいわき市で、
お日さまの光をいっぱい浴びて育ったトマトという意味だ。
摘んだトマトは、ハウスに隣接した選果ラインでサイズごとに選別される。
箱には「サンシャイントマト」の文字。
選果場の横には直売所もある。
採れたての新鮮なトマトがお買得。地元のお母さんが子どもを連れて訪れていた。
農場ができたとき「ここをトマトのテーマパークにしたい!」
それが石橋さんたちの願いだった。
いわき生まれのトマトを、みんなで楽しむ場所。
予約をすれば見学や、収穫体験もできる。
「震災の2週間後に検査をしまして、
それ以降、毎月自主検査を行っています。
これ以上計れないという、検出限界以下です。
安心して召し上がっていただきたい」と石橋さん。
会津の人たちが味わってきた雪下野菜。
交流会当日、柿沢シェフが最初に出したのは「雪下キャベツ」のスープ。
その故郷は、浜通りのいわき市から西へ140キロ。会津若松市にある。
雪に埋もれた真っ白な畑を、
スコップを使い、せっせと雪を掘っていく。
畑の上から見ただけでは、どこにあるのかわからない。
野菜の収穫というより、まるで「宝探し」のよう。
真っ白な雪の中から現れたのは……
立派なキャベツ!
凍らずちゃんと生きている。
雪の下で栽培されていても凍らないのは、
野菜自身が糖度を上げて頑張るから。
キャベツ、カブ、ニンジン……。
会津の人たちは、そうして冬場の野菜を貯蔵し、味わってきた。
キャベツを掘り出してくれたのは「株式会社ミンナノチカラ」の小島綾子さん。
会津で人材育成を目的に設立された企業で、
その一環として農場を開き、実習を行っている。
雪下野菜は、もともと地元の農家たちが主に自家用に作っていたもの。
収穫にあまりに手間と労力がかかるので、
大量に栽培して販売する人は、なかなか現れなかったのだが、
ここでは付加価値をつけて、広めていきたいと考えている。
農場で、栽培指導に当たる小島充央さん。
地元会津の農家の出身だが、あえて「ミンナノチカラ」の一員となり、
ここで新しい農業のスタイルをつくり出そうと挑戦している。
「ここで研修を受けた人は、地元の優れた農家に通い、技術を学んで独立します。
独立しても、人手が足りなかったり、
機械が壊れてしまったりしたときには互いに助け合う。
そんな“結(ゆい)”のような関係を結びながら、若い就農者を育てていきたい」
現在社員は6人。いつか生産者としてひとり立ちしたい。
そんな人たちが、首都圏からも会津へやって来て、
新しい農業を模索し続けている。
おいしいものを食べて、生産者を応援する。
ふたたび交流会の席へ。
ハウスの中で土を使わずに作物を育てる養液栽培は、原発事故の影響を受けにくい。
にもかかわらず、見えない風評と闘う日々は今も続いている。
「いわき市にはまだ風評被害に苦しんでいる農家がありますが、
ピンチをチャンスに変えていきたい。
そのために今まで以上においしいものを作っていきたいと思いますので、
これからもよろしくお願いします」と石橋さんは力強く話していた。
もちろん「とまとランド」のトマトも登場。
「おいしいトマトは、お尻を見るとよくわかります」と、柿沢シェフ。
白い線が、放射状に何本も入っているのが、おいしいトマトの印。
中にたくさん部屋があって、ゼリーがたくさん入っている証拠だ。
柿沢シェフのトマトのハンバーグは、
濃縮されたトマトのうま味が、ハンバーグにもソースにも生きていた。
「口に入れると、ジュワッと甘味とコクが広がる」
「お肉を使わなくても、食べ応え充分ですね」
誰もが驚きの声を上げていた。
「うちの子は、ハンバーグが大好き。でもひき肉ばかりだとカロリーが心配です。
大豆ミートのハンバーグ、さっそく家で作ってみたいと思います」(30代女性)
「福島県産野菜の炊き込みご飯」には、
豆を潰して乾燥させた「打ち豆」のほか、
ニンジン、あさつきを入れて炊き込んだご飯に、
ふろふき大根のソテーを乗せ、里芋のソースがかけられている。
レシピについてシェフに熱心に質問する参加者も少なくなかった。
会場からは、こんな声も聞かれた。
「私は長崎出身。福島を応援したくても、知ってる人がいないので、
ときどき見かける福島のお野菜を買うぐらい。
図書館で柿沢さんの本を拝見して、いつかお店に行きたいと思っていました。
主人は被曝二世です。私たちが結婚するとき、周りには心配の声もありましたが、
私たちも子どもたちも元気に暮らしております。
私の子どもはもう成人しているので、放射能のことはあまり気にしていません。
でも、周りには、娘さんが妊娠したり、孫が生まれている友だちもいます。
その人たちに『心配するな』とは言えないんですね。
“心配”をゼロにするのはなかなか難しいと思います。
全員に強制するわけにはいきませんけど、丈夫な人は積極的に、
とくにシニアは、どんどん応援すべし!と思います」(50代女性)
震災以前から全国の生産者を訪ね歩き、食材を見出していた柿沢シェフ。
福島との縁も深く、南会津高校でほおずきを使った料理の講師を務めたこともある。
「作る人がいなければ、私たちは食べることができない」
いつもそう考えて、厨房に立っている。
そんなシェフの思いから生まれたお料理は、
1 トマト煮込みハンバーグ
2 雪下ニンジンのコロッケ
3 福島県産野菜の炊き込みご飯
4 雪下野菜のスープ
の4品。
震災から3年が過ぎた今、
福島の生産者たちは、まだ復興の途上にある。
私たちは、ふくしま応援シェフを仲立ちにして、
福島のすばらしい食材と、優れた生産者に出会うことができた。
4月12日、アンテナショップ「日本橋ふくしま館MIDETTE」がオープンする。
東京に居ながら、福島県産食材を購入できる。
これからも、応援シェフの店を訪ねたり、食材を購入したり、
現地を訪れたり……。
さまざまなカタチで、福島を応援し続けていこう!
参加した誰もが、そんな思いでいっぱいになれる最終回だった。
【材料(4人前)】
大豆ミート(ひき肉タイプ)130g
赤ワイン 100g
醤油 10g
みりん 45g
塩 8g
牛乳 70g
パン粉 30g
卵 1個
油 適量
スライスチーズ 4枚
*トマトソース
トマト 500g
タマネギ 1個(170gぐらい)
ニンジン 25g
オリーブオイル 40g
塩 4g
【トマトソースの作り方】
① トマトは、ざく切りにして、塩4gであえておく。
② タマネギ、ニンジンを薄切りにする。
③ 鍋にオリーブオイルを入れて、タマネギ、ニンジン、塩(分量外)を入れて弱火にかける。
④ タマネギが透き通って、ニンジンも火が通ったら、トマトを入れて20分程煮込む。
⑤ 完成したら、ハンドミキサーで撹拌する。
【ハンバーグの作り方】
① お湯を沸かし、大豆ミートをゆでる。
② ゆで上がった大豆ミートの水を切り、鍋に入れ、ワイン、醤油、みりん、トマトソース75g、塩を入れて火にかける。
③ 入れた水分がすべてとんだら、火から外して、ボールに入れて冷ます。
④ 冷めたら、牛乳、パン粉、卵、トマトソース75gを入れてこねる。味見して足りなければ塩をする。
⑤ 4等分に分けて、小判形に成形する。
⑥ 鍋に油を引いて、両面に焼き色がつくように、ハンバーグを焼く。
⑦ ⑥が焼けたら、残りのトマトソースを入れて約15分煮込む。
⑧ ハンバーグを取り出し、チーズをのせて200℃のオーブンで焼く。
⑨ お皿にハンバーグを盛りつけ、一緒に煮込んだソースをかけて完成。
お問い合わせ
事務局 会津食のルネッサンス
住所 福島県会津若松市中島町2-52
TEL 0120-91-0617 (10:00~18:00 ※土日祝日休)
FAX 0242-93-9368
E-MAIL order@a-foods.jp
http://www.a-foods.jp/
Information
ポタジエマルシェ
住所 東京都目黒区上目黒2-18-13
TEL 03-6303-1105
営業時間 11:30~22:00
月曜休
http://www.potager-marche.jp/
とまとランドいわき
住所 福島県いわき市四倉町長友字深町30
TEL 0246-66-8630
http://www.sunshinetomato.co.jp/
株式会社ミンナノチカラ
住所 福島県会津若松市大町1-1-41
TEL 0242-85-6514
https://www.facebook.com/minnano.chikara
自社の農場で採れた野菜を使ったカフェ「Vegecafe野菜屋SUN」
http://8318-3.jp/
https://www.facebook.com/yasaiyasun
日本橋ふくしま館「MIDETTE(ミデッテ)」(4月12日オープン予定)
住所 東京都中央区日本橋室町4-3-16 柳屋太洋ビル1階
営業時間 11:00~20:00(土日祝は~18:00)
http://www.fukushima-ichiba.com/blog/
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