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気仙沼・男山本店 つながりの地酒。

TOHOKU2020
vol.006

posted:2012.9.19   from:宮城県気仙沼市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。

editor's profile

Akashi Oda

小田明志

1991年東京生まれ。2009年にアートマガジンLIKTENを創刊。 翌年発行した第二号はamazon雑誌ベストセラーランキングで2位を獲得し、 最新号である第三号では、モデルの水原希子らと共に作品を発表。
昨年8月には、Pharrell Williamsによるドキュメンタリー映画「東京ライジング」に出演した。オンラインメディア「JBpress」でも連載中。
http://blog.honeyee.com/aoda/

credit

撮影:在本彌生

1912年創業の老舗酒蔵を襲った震災。

宮城県気仙沼市の内湾。
ここは、フェリー乗り場の桟橋が一部を残して海に沈んでいるほかは
瓦礫もきれいに整理された地区だ。
しかし、そんな内湾の海沿いに、ひときわ目を引く建物が倒壊したまま残っている。

この建物は、1912年創業の老舗酒蔵「男山本店」の社屋兼店舗。
国から有形文化財の指定も受けている、歴史ある建造物だ。
もとは木筋コンクリート3階建てだったが、
今は1、2階が潰れて無くなってしまっている。

「震災当時、我々のような直接酒造りに関わるメンバーは店舗近くの酒蔵にいました。
ザーッという波の音と悲鳴を聞いてすぐに、高台に避難したんですが、
山の上から見えるはずの店舗の屋根が、その時にはもう見えませんでした。
あそこまで波が来たのかなと思ってよく見ると桟橋とか、
動くはずのないものが動いている。
驚きとか悲しみとかよりも、夢じゃないのかという気持ちでした」

そう語ってくれたのは男山の副杜氏、柏大輔さん。
気仙沼に生まれ、大学卒業後の就職先で酒類の販売に関係したことがきっかけで、
お酒の造り手となった。男山では、ブログの更新も担当している。

「震災当日は、すぐに帰れると思っていました。
明日は子どもの誕生日プレゼントを買いに行かなきゃなと思っていたくらいだったので、
本当に呑気なものでしたね。
ただ、夜になって火が回った時に、すごいことになっていると気づきました。
はじめて怖いと思ったのも、その時です」

車の中で一夜を明かした翌日。
酒蔵に戻ると、主力銘柄である「蒼天伝」が発酵途中の醪(もろみ)の状態で
無事に残っていた。
生き物とも言えるお酒が搾りの作業を経て完成に至るには、
この状況下でも目を離すことが許されない。
酒蔵には2人の社員を残し、決死の対応で発酵を見守った。
そして、約10日後に新酒の上槽日を迎える。

しかし、電気、ガス、水道はまだ復旧しておらず、
従業員の中にも親や兄弟を亡くした者が少なくない。
この時、前年から仕込みを続けたお酒の完成をあきらめる覚悟もしたという。

「まわりの人がまだ水も電気もない生活を続けている中で、
我々は洗い物をするための水を手に入れようとしているわけですから、
準備が出来てもすぐに気持ちを切り替えられないだろうと思っていました。
こんな状況の中で仕事、ましてや酒なんて造れない」

その時、周辺の人々から応援の声が挙がった。
「地元の生産者として、気仙沼を盛り上げてくれ」
「電気も水も提供するから、是非とも続けてくれ」
従業員達は、この声に背中を押されるかたちで、搾りの作業を実行。
約1600本分の「蒼天伝」が完成した。

男山の社屋兼店舗。目の前に気仙沼湾が広がる。

高台にあった酒蔵も築100年を越える建物。震災の被害は免れた。

震災当時は、タンクに氷を巻き付けて温度調節を行ったそう。

全国から寄せられた応援に応えたい。

「そこから先は怒濤の忙しさで、休みもなく毎日ふらふらな状態。
しかし、ほかの製造業はほとんど動けない状況になっていたので、
私達がやるしかないという使命感で乗り切りました。
あとはなにより、全国の皆様からメールや電話で寄せられた、応援に、
応えたいという気持ちが強かった。
うちは小さい会社なので、市内での流通がほとんどだったのですが、
地元酒販店さんのほとんどが被災し、すぐに商売を再開できる状態ではなかった。
それでも商売を続けることができているのは、
震災をきっかけにできた多くのご縁のおかげです」

それから1年数か月がたち、激務からは解放されつつあるが、
全国から届く励ましと、営業を再開した地元酒販店のために、現在も懸命に出荷を続けている。

「気仙沼を全国に発信するとは言っても、私たちの本業はお酒を造ること。
気仙沼の地酒をできるだけ多くの人に届けたいし、楽しんでもらいたい。
それが、結果的にでもこのまちのためになれば本望です」

震災後に入社した伊藤さんは、元漁師だ。

蒼天伝をはじめとした男山のお酒は、ホームページでも購入可能。

information

map

(株)男山本店

住所 宮城県気仙沼市入沢3-8
TEL 0226-24-8088
http://www.kesennuma.co.jp/

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