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「シオクリビト」
ヒトから入ってモノも好きになる
一期一会を楽しむ
ネットショッピングの新しいカタチ

Local Action
vol.190

posted:2022.10.26  from:福島県  genre:活性化と創生 / 買い物・お取り寄せ

sponsored by 福島県商工会連合会

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Ikuko Hyodo

兵藤育子

ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

credit

撮影:ただ(ゆかい)

モノに愛着を持つ近道は、ヒトを知ること

福島県中通りに位置する塙町。
周囲に田んぼが広がるのどかな景色の中に、目的地〈こんにゃく屋生田目屋〉はあった。
取材対象者はこんにゃくのほか、さまざまな食品を製造・販売している
〈ケーフーズ生田目〉の取締役、セレスタ・サントスさんだ。
といっても今回は、
コロカル編集部がサントスさんにお話をうかがうわけではなく、
〈こんにゃく屋生田目屋〉を“取材する人たちを取材する”少々特殊なパターン。

サントスさんを取材しているのは、
「シオクリビト」という福島県商工会連合会のECサイト
(商品を販売するためのウェブサイト)を制作するスタッフだ。

多くの人にとって、今や日常生活を送るうえで欠かせないものとなっている、
インターネットショッピング。
コロナ禍で不要不急の外出を控える日々を経て、
その必要性はますます高まっているのではないだろうか。
ECモールやECサイトも、誰もが利用したことのあるような大手から、
個人で運営しているものまで無数に存在する。
ネットショッピングは、商品を直接手に取って吟味できないぶん、
安さやスピードを重視しがち。
しかしシオクリビトはそんな潮流に逆行するような、
ゆえにECサイトのあり方を根本から考えさせられるウェブサイトといえる。

シオクリビトページイメージ

シオクリビトのページ。

シオクリビトのページ。

一例をあげると、ECサイトなのに商品ではなく生産者の紹介がメインだったり、
トップページがなかったり、商品名を検索できない代わりに
取材中の名場面・名台詞を検索できたり、
購入すると頼んだもの以外のオマケや生産者からの手紙がついてきたり……。

一般的なECサイトの枠に収まらないことは、取材の様子からも伝わってくる。
まずインタビュアーが尋ねたのは、
ネパール出身のサントスさんの生い立ちについて。
たしかに、なぜ福島でこんにゃくを製造販売しているのか、
気になるところである。
サントスさんは、7人きょうだいの長男でかなりやんちゃだったことや、
父親に厳しくしつけられたエピソードをおもしろおかしく話し始める。

セレスタ・サントスさん。

セレスタ・サントスさん。

ネパールではどんな家に住んでいたのか。なぜ日本に来ようと思ったのか。
来日して間もない頃はどんな生活を送っていたのか。
言葉の面で苦労をしたこと。日本の好きなドラマなどなど。
こんにゃくの話はなかなか出てこないが、
サービス精神旺盛なサントスさんの話にどんどん引き込まれる。

インタビュアーの永井史威さんと、カメラマンの佐々木航大さん。

インタビュアーの永井史威さんと、カメラマンの佐々木航大さん。

さらに奥様とのなれ初め(奥様の父親がケーフーズ生田目の社長であることが、
ここでようやく判明)、
日本で初めて食べたこんにゃくの味、
娘と自転車で散歩する幸せなひとときなどに話が広がっていった。

こんにゃく工場を見学

工場でこんにゃく製造の話を聞く。

工場でこんにゃく製造の話を聞く。

自転車を持ち出して、いつもの散歩ルートを一緒に歩く。

自転車を持ち出して、いつもの散歩ルートを一緒に歩く。

取材時間は約3時間、サントスさんの人柄にすっかり魅せられていた。
そしてこのやり取りこそ、シオクリビトが大切にしていることだった。

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制作は〈株式会社スマイルズ〉

Page 2

理想は、母親が子どもに送る仕送りの温度感

福島県内の生産者を応援するために立ち上げられたサイト、
シオクリビトがオープンしたのは2021年9月。
運営元は福島県商工会連合会。
制作を担当しているのは、
〈Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)〉を祖業とし、
入場料のある本屋〈文喫 六本木〉などをプロデュースする、
〈株式会社スマイルズ〉だ。

カタカナ表記のサイト名は、
「仕送り」と「人」を組み合わせた造語。
イメージしているのは、クリックひとつで翌日届く
効率重視のネットショッピングとは真逆にあるような、
母親が離れて暮らす子どものことを思い、
あれこれ詰め込む仕送りの温度感。
そのためにまずは生産者の人柄を知ってもらい、その人がつくる商品に興味を持ってもらう。

「いいものは、つくっているヒトがおもしろい」というコンセプトに行き着いた経緯を、
福島県商工会連合会の目黒孝幸さん、
そしてスマイルズの永井史威さんと佐々木航大さんは次のように説明する。

目黒さん:「東日本大震災以降、我々商工会は、
会員の事業者さんの自慢の商品が一堂に会したイベントなどを行い、
販売促進のお手伝いをしてきました。
コロナ禍でこうしたイベントの開催が難しくなり、
ECサイトを立ち上げることになったのがそもそものきっかけです」

永井さん:「お題をいただき、福島にどんなサイトがあるのか、
どんな事業者さんがいるのかリサーチしてみると、
すでに実績を出していらっしゃるECサイト、ECモールが結構あったんです。
似たようなサイトをつくって、パイを取り合うのはあまり意味がないので、
せっかくつくるのであれば切り口を変えようと企画を練り込んでいきました」

佐々木さん:「いろんな案を出し合い、パズルのように組み替えながら
サイトの要素を考えていくなかで、人にフォーカスするのがよいのでは、
ということになったのです」

シオクリビトのページを開く

サイトを開くと、アルバムのようにズラッと出てくるポートレート。
各写真には、文字サイズの大きな順に名前、肩書き、
店名などの組織名が記されている。
さらにひとりの人物をクリックすると、
サントスさんと繰り広げられたような他愛のないおしゃべりの断片が、
臨場感のある写真とともに散りばめられている。

永井さん:「いろんなサイトを見ていて思うことですが、
たとえば職人さんを紹介する記事は、
当たり前ですけど職人さん然とした描かれ方ですよね。
それが悪いわけではないのですが、もう少し多面的に描きたいと思ったんです。
取材をしていても、最初に趣味について聞くとラフで気さくな人に見えるけど、
仕事の話から質問していたら印象が違っただろうなと思うことがよくあって。
1話読み切りのエピソードをいくつも並べているのは、
そういう狙いがあります」

一度に読めるエピソードはひとりにつき10話ほどだが、
実際は20前後用意していて、
その人のページを訪れるたびにランダムに表示される。
これも会う回数を重ねるたびに印象が変わっていくような、
リアルなやり取りを再現する試みとなっている。
限られた取材時間で人柄を引き出す工夫も、もちろんある。
サントスさんの取材でも、向かい合ってじっくり話を聞く時間を設けた後は、
工場を見学させてもらったり、近所で馴染みのあるスポットに足を運んだ。

永井さん:「一緒に歩いたり、車に乗ったり、
何かをやりながら話を聞くと、相手の方もリラックスして、
対面では出てこなかったような話をしてくれることがあります」

佐々木さん:「話は基本的に永井が聞いてくれるので、その間、
僕はその人から受ける印象とのギャップみたいな部分をいつも探していますね」

取材チーム3人がそれぞれカメラを持っているが、
主に撮影を担当するのは佐々木さん。デジタル主流のご時世に、
あえて「写ルンです」を使うことで生っぽさを意識している。
取材対象者も、一眼レフを向けられるより緊張感を抱かないため、
素の表情が出やすいという効果があるという。

その場で削除や確認ができないが、写真も「一期一会」を大切に。

その場で削除や確認ができないが、写真も「一期一会」を大切に。

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目指すは100人

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シオクリビト的なコミュニケーションが生まれてほしい 

サントスさんは、80人目のシオクリビト。
取材回数を重ねてサイトが充実してきたことで、思わぬ相乗効果も生まれている。

目黒さん:「最終的におもしろいのはやっぱり人なのだと、
この取材を通してよくわかりました。
普段、仕事で接しているときは見せない一面を知ることで、
商品への愛着も湧く。回を重ねるごとに反響もいただくようになりましたね」

永井さん:「点が線になり、面になっていくような感覚はあります。
シオクリビトで紹介した人同士が知り合いだったり、
取材の際におすすめの人を逆に教えてもらったり、
あの人が載っているんだったら自分も、
と応募してくださる方もいて手応えを感じています」

佐々木さん:「福島県全域の商品などを紹介しているサイトはたくさんありますが、
人をこれだけ集めているサイトはなかなかない。
そういった意味で、インデックスと呼べるボリュームになりつつあると思っていて。
シオクリビトを見て、事業者さんに直接問い合わせをしたり、
福島県のおもしろい人を探したり、といった使い方もできそうですよね」

目黒さん:「実際、事業者同士のつながりも結構生まれていて、
一緒に商品開発を行っているようなところもあります。
消費者だけでなく、事業者さんの関係も広がっているのはうれしいことですね」

サイトを開いたときに現れる題字は、事業者の方々による温かみある手書きの文字。

サイトを開いたときに現れる題字は、事業者の方々による温かみある手書きの文字。

目指すは100人。達成したあかつきには、
より大きなムーブメントが起こっているかもしれない。

永井さん:「シオクリビトに掲載されたことを、
SNSで発信している人がいたのですが、
その投稿を見て商品を注文した人が『こんな仕送りが届いたよ』と
コメントして、さらに別の方が『なんか温まった!』と反応していたんです。
個人が自発的にどんどん発信して、盛り上がっていくのが理想なので、
もっと広げていきたいですね」

佐々木さん:「福島は広いので、
異なる地域の人がシオクリビトを介してつながるきっかけにもなると思います。
今後、シオクリビト的なコミュニケーションをする自治体や
ECサイトが出てきたら、しめしめって感じです(笑)。
真似してもらって、全然OKです!」

つくっている人の顔が見えて、ぽっと心に明かりがともるような買い物体験。
インターネットを介しても、その気分を味わうことはできる。
シオクリビトの大きな発見といえるだろう。

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